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ロシアのヒーロー映画『ガーディアンズ』が抱かせる既視感の正体を思い出して ─ アメコミに焦がれた、全ての元中学2年生へ

ガーディアンズ
© 2017, Enjoy Movies LLC

「スコーピオン」の主人公は高校生の少年で、裁縫が得意な男友達が一人登場する。主人公とは何でも話せる間柄で、スーパーパワーを授かったと知ると親切にコスチュームを用意してくれる。女の子を描くのは苦手だったので、この漫画には女性キャラクターは登場しない。ヴィランは、頭頂部にサメのヒレが付いたヘルメットを被り、原付バイクから鉄パイプで通り魔を行う「シャーク」という通り名の悪党だった。実はこの悪党は主人公の同級生で、受験勉強のストレスから犯行に及んでいるという設定だった。敗れたシャークのヘルメットが破壊され、その素顔と動機が顕になると、スコーピオンもマスクを外して正体を名乗る。そして、友人同士だったのになぜ相談してくれなかったのか、暴力に訴えなくても良かったではないかと互いに号泣してエピソードを終える。

とにかくバトルを描きたい

中学二年生の筆者にとって、これが思いつく限り精一杯の設定だった。原付バイクに乗る悪党、受験勉強のストレス、友情。そこに大人は登場しないし、何の教訓もない。学校と、公園と、教科書や漫画の並んだ自室の勉強机が、当時知り得る世界のほぼ全てだった。知識の限界が創造の限界なのである。

「アメコミみたいなヒーローを描きたい」と憧れていた中学二年の筆者にとって何より優先したかったのは、カッコいいバトルシーンを目一杯描くことだ。しかし、バトルシーンだけでストーリーは成立しないだろう。別に誰かに読ませるわけでもないのに、ストーリーテリングをいっちょ前に気にしていた中学二年の筆者は、ヒーローになるまでのオリジン部分も責務的に描かなければならなかった。前段は早くかっ飛ばして、とにかく早くバトルを描きたい…。バトル・シーン以外は、ビックリマンシールに対するウエハースチョコとか、「食べてから」オモチャの開封を許されたハッピーセットのハンバーガーのようなものだった。これによく似た、はやる気持ちが『ガーディアンズ』全編からもひしひしと感じられた。

『ガーディアンズ』からは、きっと中学二年生のころから変わらない「アメコミみたいなヒーローを描きたい」という初期衝動が感じ取られる。『アベンジャーズ』や『X-MEN』のようなヒーロー・チームの活躍をその手で再現したかった『ガーディアンズ』は、ヒーローらの全員集合を上映開始後わずか15分足らずで完了させる。獣化能力を持つアルスス、念動力を操るレア、超音速の剣の達人ハン…、男だけでは物足りないので、擬態化する美女のクセニアも加えた。金髪美女のエレーナ・ラリナは『アベンジャーズ』でいうニック・フューリーの立ち位置から、各地に散らばるヒーローを集結させる役割を担う。しかし、メインディッシュである「バトルシーン」に関与しないエレーナとあって、その描写は驚くほど雑だ。取って付けたようなミッションにひた走るエレーナのもと、レア、ハン、アルススの3人は超人チーム「ガーディアンズ」への参加を二つ返事で快諾していく。あまりにもトントン拍子で事が運びすぎるため、最後のクセニアだけには申し訳程度の抵抗をさせるが、短い説得を聞くとすぐに参加を決意する。

おそらく本人らもよくわからないままに結成された「ガーディアンズ」の任務とは、超人能力を得て暴走する元科学者のクラトフを阻止するものだ。クラトフは、冷戦下のソヴィエト時代、超人兵士を生み出す「パトリオット計画」に携わっていたという。それっぽい、ませた響きだ。しかし、それ以上に入り組んだ設定や背景説明は一切登場しない。「冷戦下のソヴィエト」「パトリオット計画」…この大人っぽい耳触りを盾に暴走するヴィランのクラトフは、「バットマン」のベインと「幽☆遊☆白書」の戸愚呂弟を足し、ドン・キホーテで売っているものだけで実現したような粗暴な男で、今にも高血圧で倒れそうな目つきで周囲を睨みつけている。クラトフは「X-MEN」のマグニートーのように兵器を自在に操ってロシアを崩壊に追い込むが、そこに政府や軍は関与してこない。『ガーディアンズ』はあくまでも「アメコミみたいなヒーローを描きたい」のだから、賢い大人たちや組織が登場する幕などないのだ。知識の限界が、創造の限界なのである。

ガーディアンズ
© 2017, Enjoy Movies LLC

まるでインスタント食品のように手早く下準備を終わらせた『ガーディアンズ』は、早速「ぼくのかんがえたさいきょうのヒーローバトル」を豊かに映像化していく。メンバーのひとりである超音速の剣士ハンは、『キャプテン・アメリカ』のウィンター・ソルジャーのパロディ風だが、むしろ日本のニンジャ・アサシンを参照しているようにも見える。半円型の剣を2刀背負ったハンが砂漠地帯で瞑想していると、トラックの荷台にガトリング砲を積んだヤクザ風の集団が襲い掛かってくる。ヤクザの黒いスーツとサングラス姿は、まさに「いかにもな悪の集団」を手近に具現化したような出で立ちで、『マトリックス』(1999)のエージェント・スミスが生み出したテンプレートをそのまま利用しているようでもある。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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