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ロシアのヒーロー映画『ガーディアンズ』が抱かせる既視感の正体を思い出して ─ アメコミに焦がれた、全ての元中学2年生へ

ガーディアンズ
© 2017, Enjoy Movies LLC

ガーディアンズ』にとって善悪の動機はすべて取って付けで、小難しい考証はほとんどない。獣人間のアルススは、熊の姿に変身するたびに人間としての理性を失っていくと悩む科学者だ。『ガーディアン』は「ヒーローも葛藤する」物語が受け入れられるということは知覚しているが、その描写はほとんどどこかで聞いたことがあるような話で済ましている。この映画はそんなドラマ・シークエンスよりも、無垢な少年のようなインスピレーションだけでひた走る。手段と目的の因果関係を脇に追いやり、「こういうのがやりたかった」映像の実現にすべてを捧げている。『ガーディアンズ』に原作コミックは存在しないが、もしもあるとすれば、空想にふけるアメコミ好きの中学二年生が描いたノートブックがそうだ。かつての少年が思い描いた「憧れ」がそうだ。

ロシアの同志から僕達へ

ガーディアンズ
© 2017, Enjoy Movies LLC

「まさに、ロシア版『X-MEN』!」──その『X-MEN』の実写映画が登場してから、早18年になる。『ガーディアンズ』は、我々日本人にとって謎多く感じられる広大なロシアのどこかで、我々に似た同志が、我々と同じ憧れを抱いて大人になったという、ユニバーサルな一体感と安心感に包まれている。ロシア語はさっぱりわからないが、獣人間や念動力、高速の剣士に擬態能力を持つ美女戦士を「カッコいい」と思う純情は言語を問わない。人と人を結びつけるのは、肌の色や言語、信仰や学歴などではなく、何に憧れて育ち、何をカッコいいと思うかの価値観であるのだと気付かせてくれる。劇中では思わずツッコみたくなるポイントが15秒に一度は登場するが、その全てに愛情や友情を込めて許すことができる。サリク・アンドレアシアン監督のことも、出演する俳優たちのこともわからないが、まるでコピーバンドを組んだ友達のライブを応援しているような気持ちにさせられる。演奏も歌も決して上手くないし、ハウリングも酷くてまともに聴けたもんじゃない。それでも、奴がコピーしているバンドの音楽性は大好きだし、何よりステージの上の友人の汗が眩しく、何だかこちらまで笑顔になってしまう。『ガーディアンズ』を例えるなら、そんな作品なのだ(そしてそのステージが、特殊効果満載でやたら豪華)。そんな映画が、ロシアでは興行収入初登場No.1を飾り、日本ではギャガ配給で劇場公開されているんだ。最高じゃないか。

この映画は、アメコミ映画を同じく好む友人と、「どんなもんか」感覚で出かけるのが良いだろう。観終えた後は、笑いながらツッコみたくなるポイントを両腕に抱えきれぬまま劇場を出るはずだ。決して落胆はなく、むしろ清々しい。「日本よ、これがロシア映画だ」と謳うポスターの仰々しさに、こそばゆい笑みが浮かぶ。そしてきっと、あの頃落書きしていたノートのページを、記憶の中でめくることだろう。

映画『ガーディアンズ』は2018年1月20日(土)、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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