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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ガン監督解雇、クリス・プラット&ゾーイ・サルダナらがコメント ― ハリウッドに衝撃の余波広がる

ジェームズ・ガン
Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:James_Gunn_(28663744545).jpg

映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(邦題未定、原題:Guardians of the Galaxy Vol.3)』から、同シリーズの脚本・監督を務めてきたジェームズ・ガンが解雇されたという知らせは全世界のファンに衝撃を与えた。複雑な経緯と背景、そして現代社会をとりまく価値観の変化に起因する今回の決定は、あらゆる面で業界人にも大きなインパクトをもって受け止められている。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでドラックス役を演じるデイヴ・バウティスタやヨンドゥ役のマイケル・ルーカー、またガン監督の弟であり、ロケットのモーション・キャプチャーやクラグリン役を務めるショーン・ガンは、本件について相次いでコメントを発表
さらにこのたび、主人公スター・ロード役を演じるクリス・プラットとガモーラ役のゾーイ・サルダナ、ネビュラ役のカレン・ギランもSNSを通じてコメントを発表している。

ジェームズ・ガン監督 Photo by Gage Skidmore https://commons.wikimedia.org/wiki/File:James_Gunn_(28663744545).jpg

クリス・プラット、ゾーイ・サルダナのコメント

まずはゾーイ・サルダナのコメントをご紹介したい。彼女はガン監督の解雇について、率直に自信の心境を記している。

「嘘をつかずに言えば、とても苦しい週末を過ごしています。はっきりと意見を述べる前に、すべてを受け入れるため、私は立ち止まっているところなのです。みなさんにはただ、私が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ファミリーの全員を愛していることを知ってほしいと思います。これからもずっと。」

またカレン・ギランも「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ファミリーの一人ひとりが大好き。このこと(解雇の件)については後からもっとお話ししますが、ただ、そのことを確かにしておきたかったんです。みなさんに愛をこめて」との投稿を残している。

一方、敬虔なクリスチャンとして知られるクリス・プラットは、新約聖書『ヤコブの手紙』より第1章19節を引用することで、ファンに向けてのメッセージを送っている。

“親愛なる兄弟、姉妹のみなさん、このことを理解しておいてください。すべての人は、聞くことは早く、語ることは遅く、怒ることは遅くあるべきなのです。”
ヤコブの手紙 第1章19節」

祈りの手、ハートの絵文字はクリスの思いが表れたものだろう。ここに記されているのはクリス自身の言葉ではないため、その真意を確実に解釈することは難しい。それでもSNSを発端とした今回の出来事について、そのスピード感で物事をとらえるのではなく、むしろ人々に熟考を促すコメントだと考えることができるはずだ。少なくともクリスは、本件に関して人々やメディアの過熱を望んではいないだろう。

ファンの署名運動、業界人のリアクション

ガン監督が解雇されたのち、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』やマーベル・シネマティック・ユニバース作品のファンたちは、ディズニーに再雇用を求める署名運動を開始(Change.org)。署名の数はすさまじい勢いで伸び続けており、2018年7月23日12時(日本時間)時点で14万人近くが署名している。

またガン監督の解雇についてはハリウッドの業界人も次々に反応。ギレルモ・デル・トロ監督による映画『ヘルボーイ』シリーズでエリザベス・シャーマン役を演じた女優、セルマ・ブレアは署名運動への参加を呼びかけ、「人が変化してもなお罰されることは、人間が間違いを認めて成長することについて、いったい何の教訓になるんでしょう?」との声明をTwitterに投稿した。 

さらに『パシフィック・リム:アップライジング』(2018)のスティーヴン・S・デナイト監督は、ガン監督の解雇について「あらゆる面で非常に悲しんでいます」とのコメントを発表。自らの意見を求められると、「過去に彼が発言した内容や、彼のことを擁護するものではない」としながら、ガン監督への思いをこのように記している

「僕にもジェームズ・ガンと(仕事で)一緒になった経験があります。僕が個人的に知っているのは、(監督が)これまで出会った中でも本当に素晴らしい人物の一人だということ。(解雇に関する)彼の反応は、疑問を訴えたり、言い訳をしたり、人々を刺激したりするものではなく、すべての責任を負うものでした。僕よりもジェームズのことをずっとよく知る人たちがいます。個人的には、彼らが自らのポジションにかかわらず、それぞれの考えを明かしてくれることに期待しています。」

『パシフィック・リム:アップライジング』ジョン・ボイエガとスティーヴン・S・デナイト監督インタビュー
スティーヴン・S・デナイト監督 ©THE RIVER

またハリウッドでは、今回の件を受けて、クリエイターや俳優たちが自分の考えを公に明かすことを自粛するようになってしまうのではないかとの懸念も生じている。ガン監督による過去の発言に大きな問題があったことは事実だが、その経緯として、彼がSNS上の発言によって攻撃対象になったこともまた事実なのだ。“下手に何か言えば、目をつけられて攻撃され、仕事を失うことにもなりかねない”という恐怖が業界に蔓延していく可能性は否定できない。

これについてデナイト監督は、自らのスタンスをはっきりと述べている。

「僕みたいな人間を怖がらせて黙らせる、それこそがマイク・セルノヴィッチ(編注:オルタナ右翼の有力者。ガン監督への批判にも関与)のような人間たちが望んでいることです。そんなことにはさせません。
今、アメリカの理想は異常事態にあると思います。権威主義のどん底に落ちてしまいかねない、そのギリギリのところにあるかのようです。沈黙し、民主主義の魂を失う危険にさらされるよりは、自分の生活をかけてでも抗うことを選びたい。」

ガン監督の解雇問題は、単なる降板劇や、その原因となった発言の域を超えて、“いまや公の場で自身の考えを明らかにすることは、他者からの攻撃を招くかもしれない”という別の問題へと繋がりつつある。
今回の経緯は過去の記事(1, 2)をご参照いただきたいが、ガン監督の発言などをめぐるポリティカル・コレクトネスの問題と、その当事者双方(加害者・被害者)に対する批判や救済の問題と、政治をめぐる思想の問題と、さらにいえば“気に入らない人間をなにがなんでも叩き潰す”という暴力の問題はいまや渾然一体となっており、さらに映画やコミックのファンが抱く愛情の問題などもあいまって、本件は冷静な議論が極めて難しい状況となってしまった。

そこにきてクリス・プラットが引用した、「親愛なる兄弟、姉妹のみなさん、このことを理解しておいてください。すべての人は、聞くことは早く、語ることは遅く、怒ることは遅くあるべきなのです」という言葉は、さらに強い説得力をもって聞こえてくるだろう。叶うことであれば、どうか今は一人ひとりが冷静に熟考する時間を……。

Sources: Chris Pratt, Zoe Saldana, Karen Gillan(1, 2), Selma Blair, Steven Deknight(1, 2, 3), Change.org
Eyecatch Image: Photo by Gage Skidmore

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。