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『ガンパウダー・ミルクシェイク』監督「キュートとバイオレントをくっつけちゃう、接着剤は音楽」 ─ 続編にも意欲【単独インタビュー】

ガンパウダー・ミルクシェイク
© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

甘さ控えめ?新時代をブチ抜くシスター・ハードボイルド・アクション、『ガンパウダー・ミルクシェイク』が2022年3月18日より公開となった。

主人公は、カレン・ギランが演じるハードだけどキュートな殺し屋、サム。ターゲットの娘エミリーを匿ったことで、刺客たちから命を狙われるハメになった彼女は、「図書館」を仕切る3人の司書、マデリン(カーラ・グギーノ)とフローレンス(ミシェル・ヨー)、そしてアナ・メイ(アンジェラ・バセット)と共に、次々襲いかかる悪党どもを蹴散らしていく。

スタイリッシュなアクション映画でありながら、古今東西の様々な映画ネタ・オマージュが散りばめられており、映画愛をたっぷり感じさせる本作。監督を務めたのは、『オオカミは嘘をつく』(2013)がタランティーノ監督に絶賛されたイスラエル出身のナヴォット・パプシャドだ。

生粋の映画オタクであるナヴォット監督に、THE RIVERが単独インタビュー。『ガンパウダー・ミルクシェイク』にトッピングした映画愛をたっぷり語っていただいた。

『ガンパウダー ・ミルクシェイク』ナヴォット・パプシャド監督 単独インタビュー

ガンパウダー・ミルクシェイク
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──『ガンパウダー ・ミルクシェイク』日本公開おめでとうございます!主人公サムも日本語のTシャツを着ていたり、日本のポップカルチャーを愛しているようですよね。もしかして、彼女は本作以前にミッションのために日本に来ていた、という設定でもあるのでしょうか?

そうだと思います。だから彼女は日本のカルチャーが好きなんじゃないかな。彼女は日本が好きなんでしょうね。でも、何よりも僕が日本好きだから、そういうキャラクターにしたんです。ハッハッハ(笑)。

サムはどういうものが好みで、どういう暗殺者なのかということについて、カレン・ギランとたくさん話し合いました。 カレンには、僕が影響を受けた映画リストも渡していて、その中にはもちろん日本映画もありました。黒澤や鈴木(※おそらく鈴木清順)、最近では北野、黒沢清、三池崇史も。中でも特に影響を受けたのは、『女囚701号/さそり』(1972)です。70年代の映画なのですが、カレン・ギランの衣装はこれが元ネタです。梶芽衣子の象徴的な衣装ですね。あのハットです。そういうわけで日本からの影響は非常に多いです。

──そのリストの中には日本のアニメも?

もちろん!『AKIRA』や『パプリカ』も大ファンで、何度観たことかわからない。でもアニメに関して言えば、『ガンパウダー ・ミルクシェイク』で影響を受けたのは「ルーニーテューンズ」。アメリカのカートゥーンで、もっとお間抜けでシリアスさが少ないアニメです。本作を観た観客からは、アニメのような感覚があったと言われることが多くて、それもそうだろうなと思います。

ガンパウダー・ミルクシェイク
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──この映画では相反するものが同居しているというコンセプトがあって、そこが気に入っています。タイトルの「ガンパウダー(火薬)」と「ミルクシェイク」もまさにそうですし、殺し屋がカワイイものを好んでいるということや、武器が本の中に収められているというところ、笑気ガスを吸って繰り広げられる死闘とか、静かにしなくちゃいけない図書館で大バトルがあったり。

よく気付いてくれましたね。最近のアクション映画を色々と観たのですが、シリアスすぎたり、一次元的だったりというか、ほとんどモノクロに感じられることがたまにあったんです。ダークでね。僕はそうはしたくなかったので、もっとカラフルで、ポップで実が詰まったものにしたくって。

今作は糖分たっぷりのスウィートなミルクシェイク、なのにヤバくてバイオレンスでハードコアというコンセプト。その相反するものをくっつけたら面白いと思ったんです。接着剤は音楽です。キュートとバイオレントをくっつけちゃう。それが我々の目指したところです。 撮影監督や美術デザイナー、衣装デザイナーとも、「ヤバくてスタイリッシュ(Badass and stylish)」なものを目指しました。だから、黒のレザーやブーツだけじゃ終わらない。もっとカラフルでポップ、なのにヤバイ!

僕はそういう映画が好きなんです。多様で、複雑で……、だってこの映画はミルクシェイクだから。この映画は「キッチュ・ノワール」って言われたことがあるんですけど、うまいこと言っているなと思います。まるでハロー・キティ映画とタランティーノ映画が出会ったみたいな(笑)。

ガンパウダー・ミルクシェイク
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──確かにコスチュームも魅力的でした。サムの衣装は、初めはダークですが、途中からオレンジのスカジャンに着替えます。

使用するカラーについてはマップを作成しました。色によって変化を表しています。サナギから飛び出す蝶みたいに。サムは“会社”のための暗殺者で、“会社”の人たちはみな暗くて重苦しいスーツを着ています。でも彼女はその古い世界から新しい世界へと進んだので、見た目もカラフルで複合的になったんです。衣装にはたくさんの時間をかけました。

──本作では脚本執筆もされていますよね。ルーシー・リューやアンジェラ・バセットといった豪華女優陣をどう戦わせるか、考えるのは楽しかったのでは?

脚本を書いたのはキャスティングについて考えるより前のことでしたが、アンジェラ・バセットとカーラ・グジーノ、ミシェル・ヨーは私の第一希望でした。まさか全員に出演していただけることはないだろうと思っていたんですが、実現してしまった。それならば、脚本にももっと手を入れて、面白いものにしようと。

ガンパウダー・ミルクシェイク
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例えば、元々の脚本でミシェル・ヨーは鎖を持っていなかったんです。バルコニーからジャンプする展開もなかった。ダイナーのシーンも当初はちょっと違っていたんですが、ミシェル・ヨーというアクション女優が参加されることになったということで、彼女にとっても観客にとってももっとワクワクすることをやりたくなって、脚本をいじり続けたんです。じゃあアンジェラ・バセットには何を持たせよう?ということで、ハンマーはどうか?いいじゃん!アンジェラ・バセットにハンマー持たせちゃえ!って。カーラ・グジーノは?彼女は礼儀正しくて優しいので、それの逆を行こうと。斧ですよ。つまり、彼女たちの出演が決定したことで、かえってキャラクター造形やアクションが固まっていったんです。

──劇中では折りたたみケータイが登場しますね。つまり2000年代くらいの時代設定なのかなと思うのですが、そのあたりはよく分かりません。観客にはノスタルジーも感じて欲しい?

その通り!「これはどういう舞台設定?」って感じて欲しくって。よくわからないけれど誇張された、異世界みたいな。誇張された世界だからこそ、より大胆なことができるようになるんです。カレンの両腕が麻痺した状態で3人の敵と戦うという状況にも信憑性が生まれるし、楽しくなる。それから彼女と少女が車を運転するのもそうですね。

一方で、キャラクターの心情にはリアリティがあります。なので、アクションやクレイジーな部分の誇張されているところと、キャラクター心情の現実的なところのコンビネーションを楽しんで欲しい。

──今作では、黒澤映画やセルジオ・レオーネ、ヒッチコック映画や香港映画などから影響を受けたと公言されていますね。一方で、『ジョン・ウィック』や『Mr.ノーバディ』のような、最近のアクション映画からの影響はありますか?

『ジョン・ウィック』は最初の2作は観ています。『Mr.ノーバディ』は、僕たちがこの作品を作っている時に公開されていたかな。その後に本作が登場したのは偶然です。多分、僕たちみんな同じところから影響を受けているんだと思います。ジョン・ウーやジャッキー・チェンですよね。みんな同じところから来ている。

僕の影響元は、2000年代初期で止まっているかな(笑)。このジャンルの頂点は『キル・ビル』。『ジョン・ウィック』も大好きですが、それとは違うアプローチで行こうということを決めた気がします。でも、このジャンルで僕たちはみんな、同じ巨人の肩に座っているというのがいいですよね。ただ、選んでいく要素が異なっている。僕はもっとノワールっぽく、糖分高めに、ウエスタン要素も交えたものを作りたかった。『ジョン・ウィック』はもっとガン=カタ重視で、クリスチャン・ベールの『リベリオン』を彷彿とさせる。そういう違いが面白いですよね。同じところから影響を受けているのに、要素やアプローチが違っているんです。

ガンパウダー・ミルクシェイク
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──もう散々聞かれた質問かとは思いますが、続編は考えていますか?個人的には、司書たちのスピンオフが見てみたい。彼女たちのバックストーリーはどれくらい考えられていたのでしょうか?

脚本を書いている時からアイデアはたくさんありました。彼女たちはこうやって出会って、スカーレットにはこういう過去があって、アナ・メイやマデリン、フローレンスとはこういう出来事があって……といったことはたくさん練られました。他にも、「中央図書館」が存在して、そこには別の司書たちもいて、その物語は第二次世界大戦時まで遡って……など、かなりのアイデアがあるのですが、映画1作で描けることには限度があります。

でも、2作目は既に書いています!せっかく世界一多忙な最高の女優たちが集まったのだから、実現出来たらいいな。今書いている続編の脚本では、もちろん司書たちがもっと活躍します。っていうか、全部入り!そこではサムが先導役になって……、そういう計画があるんですけど、あぁー!祈っててください!実現させたい!

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Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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