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【徹底追求】『スター・ウォーズ』スピンオフ『ハン・ソロ』監督降板の真相 ─ 撮影初日から衝突か、どうなる若手監督起用計画

2016年『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』に始まった、『スター・ウォーズ』のスピンオフ(アナザー・ストーリー)作品の第2弾『ハン・ソロ(仮題)』が大きな転換点を迎えている。2017年6月21日(日本時間)、監督を務めていたフィル・ロード&クリス・ミラーがプロジェクトから降板したことが判明したのだ。2017年2月に公式に撮影が開始されてから4ヶ月以上が経過しており、残りの撮影期間はわずか数週間だったという。

映画ファンや『スター・ウォーズ』ファンたちは、この突然の知らせに驚愕し、なぜこのような事態に至ったのかと推測を始めている。また『LEGO®ムービー』『21ジャンプストリート』などで強い人気を誇るフィル&クリス監督が降板したことは、決して少なくない人数のファンを落胆させている状況だ。

すでに現地メディアは、今回のニュースについて次々に続報を発表している。しかし大手メディアであるバラエティ誌とハリウッド・レポーター誌は事態の経緯を同じ論調で伝えており、この騒動があらゆる噂をともなう降板劇ではない、すなわちほぼ唯一の出来事に支えられたものであろうことを予感させている。本記事では、降板の第一報からおよそ1日が経過した現在わかっている情報を総括するとともに、『ハン・ソロ』が今後迎えるであろう展開にも触れていく。

「望んでの降板」ではなく「解雇」

『ハン・ソロ』を降板するにあたって、フィル&クリス監督は以下のようなコメントを発表している。

「残念ながら、私たちのビジョンと製作プロセスはこのプロジェクトのパートナーと折り合いがつきませんでした。普段は“創作上の相違(creative differences)”という言葉が好きではないのですが、今回だけはこの決まり文句が真実です。出演者とスタッフによる世界一の仕事ぶりを心からうれしく思います」

『スター・ウォーズ』のウェブサイトで公開された、ルーカスフィルム社長であるキャスリーン・ケネディ氏と両監督の声明は(降板劇の例に漏れず)穏やかなものだ。しかしバラエティ誌とハリウッド・レポーター誌はそろって、今回の降板劇が両監督の望んだものではなく一方的な解雇だったことを報じている。

両誌は解雇の主な原因として、フィル&クリス監督がケネディ社長や脚本家ローレンス・カスダン(『エピソード5/帝国の逆襲』などを執筆)と衝突したことを挙げている。やや異なるのは、バラエティ誌がケネディ社長との軋轢を押し出しているのに対して、ハリウッド・レポーター誌はカスダン氏との衝突を強調していることだ。

撮影初日から不和?

代表作『LEGO®ムービー』『21ジャンプストリート』などを観るとわかるように、フィル&クリス監督の持ち味とされるのは、その類まれなるコメディ・センスと洗練された演出である。もちろん『ハン・ソロ』にもそうした作風が求められて起用されたはずなのだが、ケネディ社長やカスダン氏との不和は、まさに二人のセンスとやり方に起因するものだったようだ。

バラエティ誌は、フィル&クリス監督は「自分たちの方法で作品を製作する自由がない」と感じていたということを報じている。同誌が取材した関係者によると、ケネディ社長は両監督の撮影スタイルや俳優・スタッフとの関わり方を受け入れられず、現場を厳しくコントロールしていたというのである。

「撮影初日から文化の衝突が起きていた。彼女(ケネディ社長)は彼らの靴下のたたみ方すら気に入らないような状況だったよ。二人には、彼らがするべきことをするための余地は与えられていなかった」

一方でハリウッド・レポーター誌は、両監督が得意とする即興性を重視する演出がカスダン氏の怒りを買ったとも伝えている。カスダン氏は脚本の言葉に強いこだわりを持っており、「書かれていることは撮影されるべき」という考え方だったのだ。また降板に至るまでには、ハン・ソロというキャラクターへの考え方の相違もあったという。なお同誌も、両監督と脚本家の衝突は撮影の開始後すぐに起こったと記している……。

ハリウッド・レポーター誌の報道のうち、バラエティ誌と認識が異なるのは、こちらでは「ケネディ社長がカスダン氏の味方についた」とされていることだ。ハリウッド・レポーター誌は、フィル&クリス監督の降板はあくまでカスダン氏との不和が最大の原因だという見方なのである。しかしこれに関しては、バラエティ誌に証言した関係者のコメントに説得力があるだろう。

「キャシー(ケネディ社長)のチームとローレンス・カスダンは長い間自分たちのやり方でやってきた。自分たちが作りたいものも、その作り方も彼らはわかっているんだよ。そこで現場は分裂してしまったんだ」

ちなみに一説には、フィル&クリス監督に解雇が言い渡されたのは公式発表の前日だったともいわれている。信憑性は定かではないが、真実ならいくらなんでもひどすぎるのではないか……。

新監督に3人の有力候補者、しかし……

フィル&クリス監督の降板についての声明で、ケネディ社長は「新しい監督はまもなく発表します」と記している。しかし公式発表に先行する形で、すでに新たな監督には候補者の名前がいくつか挙がっている。

まずバラエティ誌が名前を挙げたのは、『インフェルノ』(2016年)『白鯨との戦い』(2015年)などのベテラン監督ロン・ハワードだ。同誌はルーカスフィルムがすでにハワードとの交渉に入っているが、まだ契約には至っていないと報じている。

またハリウッド・レポーター誌は、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011年)のジョー・ジョンストンが有力なほか、監督歴のあるカスダン氏がメガホンを取る可能性もあるとしている。さらに、根拠のない情報としては『ローグ・ワン』で(製作トラブルはともかく)ケネディ社長に気に入られたギャレス・エドワーズや、同じくディズニー傘下のマーベル・スタジオで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を成功に導いたジェームズ・ガンの名前も聞こえてくる。

しかしながら、この候補者のうち、カスダン氏が『ハン・ソロ』の監督を引き継ぐ可能性は限りなく低い。なぜなら全米監督協会(DGA)が、緊急事態を除いて同じチーム内で監督を交代することを禁じているからだ。これは、不満を抱いたプロデューサーが監督をプロジェクトから追い出して作品を乗っ取ることを防ぐためだという。カスダン氏は『ハン・ソロ』で脚本のほかエグゼクティブ・プロデューサーも務めているため、このルールを破ってまで、ルーカスフィルムがカスダン氏にメガホンを握らせることは考えづらい。

したがって『ハン・ソロ』の新監督には、ロン・ハワードあるいはジョー・ジョンストンが就任するのが現実的な状況なのである。

[2017年6月23日 11時追記]
『ハン・ソロ』の新監督はロン・ハワードに決定したことがルーカスフィルムから発表された。ケネディ社長のコメントほか、詳細は以下の記事をご覧いただけると幸いである。

『ハン・ソロ』製作、この後の展開は?

ハリウッド・レポーター誌によると、やはり『ハン・ソロ』の撮影は現在中断されており、その間にフィル&クリス監督が手がけた部分の振り返りや、新体制による撮影再開に向けた準備が行われるという。新監督を迎えて撮影が再開されたあとは、フィル&クリス監督が残した数週間ぶんの撮影が行われ、そこで本撮影は終了するとのことだ。

しかし新監督を迎えるとはいえ、フィル&クリス監督は数年前から『ハン・ソロ』の製作に携わっており、実際に約4ヶ月ぶんの撮影は両監督の手で行われている。二人が撮影した素材をどう引き継ぎ、いかに再編集するのか、という大きな課題が本作には残されているのだ。そもそも完成した作品には、誰の名前が監督としてクレジットされるのだろう?

『ローグ・ワン』という成功体験

今回の製作トラブルは、『スター・ウォーズ』ファンにとって、2016年の夏に報じられた『ローグ・ワン』の大規模な再撮影を思い出させずにはおかない。同作では本撮影の終了後、ポスト・プロダクションの時点で本編の大半に再撮影・再編集が加えられたのだ。しかもそこで陣頭指揮を執ったのはギャレス・エドワーズではなく脚本家のトニー・ギルロイだった。さらに当時、公開までに残されていた時間は約半年しかなかったのである……。

大きな話題を呼んだこの“事件”は、結果的に『ローグ・ワン』が大ヒットと高評価を収めたことで「結果オーライ」どころか「やって良かった」ものという印象に変わった。間違いなく、ルーカスフィルムには『ローグ・ワン』の“作り直し”が成功体験として残ってしまったのである。きっと『ハン・ソロ』も、その成功体験を踏まえて、新たな監督(ロン・ハワード)による膨大な再撮影・再編集が行われることだろう。

『ローグ・ワン』『ハン・ソロ』に限らず、今後もルーカスフィルムは「スター・ウォーズ」というブランドを守るため、観客の期待する(あるいはスタジオの重鎮が求める)ものでない映画には莫大な投資を施して作品を作り直すはずである。しかし、あまり考えたくはないことだが、もし彼らが財力と人材をもって作品に手を入れれば「なんとかなる」と考えているのだとすれば……それは映画や作り手に対してあまりにも傲慢すぎるのではないか?

[2017年6月23日 11時追記]
前述の通り、『ハン・ソロ』の新監督にはロン・ハワードが起用された。以下に記す通り、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』以降、ルーカスフィルムは若手監督を起用する方針を貫いているが、『ローグ・ワン』ではギャレス・エドワーズが作ったものをトニー・ギルロイに再構築させ、『ハン・ソロ』ではフィル&クリスが作ったものがロン・ハワードによって作り直される事態となっている。いずれも若手監督がその腕をふるうことが一度は約束されながら、最後にはベテランの映画人による“作り直し”が行われているのだ。果たしてルーカスフィルムの「若手監督起用計画」は本当に成立しているといえるのだろうか?

どうなる、『スター・ウォーズ』若手監督起用計画

J.J.エイブラムス監督による『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』以降、ルーカスフィルム、そしてケネディ社長は今後のキャリアに期待が集まる若手監督を作品に起用する方針を貫いている。『ローグ・ワン』ではギャレス・エドワーズ、『ハン・ソロ』ではフィル・ロード&クリス・ミラー、そしてお蔵入りになった「ボバ・フェット」ではジョシュ・トランク。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』にはライアン・ジョンソン、そして『エピソード9(仮題)』にはコリン・トレボロウだ。しかし現時点で、J.J.を除いたギャレス、フィル&クリス、ジョシュは軒並みスタジオの干渉により製作の最前線を退いている

バラエティ誌の取材に応じたルーカスフィルムの関係者によると、ケネディ社長は「若い監督を雇って大評判を得ようとしているが、結局のところ創作上の決定権を与えようとはしていない」という。これが本当なら、次に心配なのは『最後のジェダイ』『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を手がける二人だろう。

ところが『最後のジェダイ』を手がけるライアンは、ファンからの「あなたは創作を完全にコントロールしていると喜んでいたけど、ミラーとロードは自身のビジョンのせいでクビになったよ。おかしいね」というコメントにこう返している。

「僕は『最後のジェダイ』の創作をコントロールしてるよ。今まで作った映画の中で一番ね」

これはライアンのビジョンがケネディ社長にうまくハマったという、ただそれだけのことなのだろうか? しかし、どうやらそうではなさそうである。

なぜなら『スター・ウォーズ』の本シリーズと、アナザー・ストーリー(スピンオフ作品)には大きな違いがあるからだ。『フォースの覚醒』のエイブラムス、『最後のジェダイ』のジョンソン、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』のトレボロウは自身が脚本を執筆しているのに対し、ギャレスとフィル&クリス、ジョシュはルーカスフィルム主導で作った脚本を渡されているのである。もしもここに、若手監督起用計画が連続で挫折している原因が眠っているのだとすれば、もう二度と同じ悲劇を繰り返さずに済みそうだが……。

ちなみにフィル&クリス監督については、『ハン・ソロ』の撮影の合間にワーナー・ブラザース/DCコミックスと接触していたという情報も流れている。こうなってしまった以上、二人の力がバツグンに活かせる場所で、再び快作を生み出してほしいところだ。

映画『ハン・ソロ』は2018年5月25日に全米公開予定。ほんとに、これからどうなっちゃうんだろう?

Sources: http://www.starwars.com/news/a-message-from-lucasfilm-regarding-the-untitled-han-solo-film
http://variety.com/2017/film/news/star-wars-han-solo-kathleen-kennedy-director-fired-1202473919/
http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/star-wars-why-han-solo-movie-directors-were-fired-1015474
http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/han-solo-firing-what-happens-star-wars-movie-1015658
http://comicbook.com/2017/06/21/star-wars-rian-johnson-says-he-has-creative-control-over-the-last-jedi/
Eyecatch Image: https://twitter.com/chrizmillr/status/826099940254502915

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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