【解説】「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」完全没入ガイド ─ ダークな世界を「生き抜く」希望、傑作ドラマを噛みしめる

ハードな噛みごたえだ。しかし、間違いなく血肉になってくれる。Huluプレミア「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は、そんなドラマである。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

© 2018 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved.

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の舞台は、近未来ディストピア社会。環境汚染によって不妊問題が深刻化。かつてのアメリカは、原理主義勢力によって乗っ取られ、ギレアドという名の全体主義的神政国家に姿を変えていた。そこでは、妊娠可能な女性たちは侍女として、上流階級の男性に文字通り身体を捧げなければならない。女性が「産む道具」とみなされるのだ。「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」では、アンタッチャブルなトピックを堂々と扱い、時に理解が追いつかない描写で観るもの全ての感情を激しく揺さぶる。


主演のエリザベス・モスは、本ドラマのジャンルを「非常に表現しがたい」と言う。「私が今まで見たり携わってきた作品とは、全く異なるトーンを醸し出す作品」であるゆえ、「この作品型にはめて説明することは非常に難しい」と述べる。それでも、エリザベス・モスほか、監督のリード・モラーノ、共演のアレクシス・ブレデル(オブグレン役)、プロデューサーのブルース・ミラーは、本ドラマを様々な角度から紹介してくれている。彼女らの言葉から分かることは、本ドラマは「絶望」ではなく、むしろ「希望」を描いた力強い作品であるという事実だ。

この記事では、THE RIVER編集部に届けられたプロデューサーやキャストらのオフィシャル・インタビュー原稿を元に、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」を味わい尽くす。ネタバレは無いため、未見の方には本ドラマの世界へと誘う手引書として、既に鑑賞を始められた方には次エピソード以降をより楽しみに、理解を深めるためのガイドとしてご提供したい。

「ダーク」と「ヘヴィ」の狭間で

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の世界観設計は巧みだ。確かに、紛れもなくダークではあるが、シーズンを通じて「重苦しさ」や「息苦しさ」を感じる瞬間は、思いのほか少ない。製作陣は、こうした世界観設計にとりわけ気を使ったという。「当初は、ドラマのダークな側面が全面に出てしまわないかが非常に気掛かりでした」と語るリード・モラーノによれば、「ドラマのエモーショナルな面を描く際の軸となるルール作り(次のディレクターへの説明のために)が一番大変」だったという。彼女らは、「ダーク」と「ヘヴィ」の境界線を明確に心得ており、その繊細な綱の上を、いとも危なげなく渡ってみせるのだ。このスタンスは、プロデューサーのブルース・ミラーの語るこだわりとも一貫する。

「『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』のトーンは、原作の小説が醸し出す雰囲気の延長線上にあり、間違いなくダークな世界ですが、決してダークなドラマではありません。ドラマのテーマは希望と物事の見方です。それは望みを捨てずにいつか自分の人生を取り戻すということ。自分が置かれている環境が現実ではないと信じ、決して屈しないということです。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

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こうした発言からも分かるように、本ドラマはドス黒さ隠しきれない闇をテーマとしながらも、決して「鬱々しさ」「救いようのなさ」はことごとく感じさせない巧妙な仕上がりとなっている。もう少し具体的な説明に落とし込んでいこう。

根っからの悪人や狂人が存在しない

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」で女たちは、「赤いセンター」と呼ばれる訓練所に強制連行されると、人権と財産の全てを奪われ、「産む道具」として富裕層階級の屋敷に「派遣」される。エリザベス・モスが「抵抗を繰り返すも心をズタズタにされた彼女は、肉体的にも精神的にも限界を迎えて」いると紹介する本作の主人公ジューンは、この世界で本名を奪われ、「オブフレッド」と呼ばれる。お気づきのようにこの名は、所有の意味の「オブ(of)」を付けた…つまり「フレッドのもの」という意味。女性がモノ同然に扱われるショッキングな設定は、観る前こそさぞ悲痛感が支配するであろうと想像させられる。

それでも「ハンドメイズ・テイル」に精神力を消費しつくされることなく「ハマって」しまう魅力に大きく貢献していると思われるのが、本ドラマには根っからの悪人や狂人が目立って登場しないという点だ。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

主人公ジューンが仕えるウォーターフォード司令官 © 2018 MGM Television Entertainment Inc. and Relentless Productions LLC. All Rights Reserved.

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」では、誰もが全体主義の理不尽さを理解しており、その枠組の中で時に迷いや同情も見せながら、それぞれが必死に生きているのである。これは、「ドラマには前向きな場面も多く、実際、オブフレッドは助けの手を差し伸べてくれる人々に何度も遭遇します」と語るブルース・ミラーの、人に意図して危害を加える人間は極稀です」という考えの現れだ。

これぞ、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」における大きなトピックのひとつである。劇中では、女性らが危害を加えられる場面や理不尽さに理解苦しむ場面がいくつか登場するが、それらは個人的な憎悪に駆り立てられているわけではなく、または「女同士のドロドロ」の産物とか、あるいはキャラクターが現実離れし過ぎている、というものでもなく、あくまでもギレアド共和国という全体主義が招いた悲劇として描かれている。実際、侍女らを”教育”する”おば”役リディアからは、葛藤の表情を度々読み取ることができる。「良い世界とは、すべての人にとって良い世界というわけではない」──主人公オブフレッドが仕えるウォーターフォード司令官のセリフは、こうした設定を凝縮したものだ。

希望と生命力

では、ダークな世界観の中に敵意なき人々が配されると、どのようなテーマが浮かび上がるか。ここに「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の最も重要なアイデンティティが見つかる。再びブルース・ミラーの言葉を借りてご紹介したい。

「『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』には支配、生物的性差別、女性蔑視、残虐行為など幅広く大きなテーマが織り込まれていますが、最大のテーマは希望と生命力です。それがストーリーの全てです。主人公が目指す最終地点は、この状況を生き抜き、娘と再会し、いわゆる普通の生活を取り戻すことです。」

主演のエリザベス・モスからは、道徳と政治が大きな関心ごととなる本ドラマにおいて「人に焦点を当てた作品にしたいと考えていた」という事実も伝えられている。また、「悲惨な場面ばかりが連続するだけの作品ではなく、見る者に希望をもたらすような作品」とも語っている。

ブルース・ミラーとエリザベス・モスが語ったところにより、本ドラマは、ただ悪戯に「過酷」や「理不尽」「絶望」を書きなぐるのでなく、根底には純粋な希望を敷き詰めていることがわかるだろう。その上層にある闇が黒ければ黒いほど、隙間から輝く希望のレイヤーは眩しさと純白さを増す。エリザベス・モスは、「この物語が、如何にポジティブでインスピレーションを与えるような作品だということを知ってもらえるのが楽しみでなりません」と、あくまでも明るい。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

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リアリティとユーモア

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」を味わうと、理不尽さがもたらす刺すような苦味が最初に訪れることだろう。クリエイターは、この苦味を限りなく現実的なものにするため、細部に渡るまで神経を行き届かせた。「出生率の著しい低下により、少しでも出生率に影響を及ぼすと考えられた要因、例えば携帯基地局、化学薬品、食べ物に含まれている如何なる化学物質も社会から排除されて」いるという劇中設定の映像への現れは大変興味深い。ここで侍女たちは読み書きすらも禁じられているため、ギレアド共和国は「目に見える言語のない世界」となっているという。「例えば、食料品を売る店に入ると、ラベルが全ての食品に貼られていますが、文字は一つも使われていません。シンボルで埋め尽くされた社会です」と、ブルース・ミラーは解説する。

リアリティへの飽くなき追求は、もちろんキャラクター設計にも深く及ぶ。現代の私たちの暮らす世界にも蔓延る暗部を極端にデフォルメしたような世界観の中、そこに生きる人々の行動原理には親近感を覚えてならない。エリザベス・モスは「ギレアド共和国が今、建国されたら、私は侍女にされると思います」と、現実に置き換えて没入する。これこそが彼女の心に強く刺さったものだったという。

これは侍女である彼女のストーリーであり、私やあなたとあまり変わらない一人の女性のお話です。彼女は戦闘員ではなく、武器の使い方も知りません。特別なスキルを持っているわけでもありません。出版社に勤めていたこともありましたが、特別なスキルは持ち合わせていません。彼女は私たちの1人でもあるのです。

こうしたリアルな苦味がまず染み渡った後、次第にじわりと広がるのが「ユーモア」のエッセンスだ。出演のアレクシス・ブレデルは、「ドラマが見せる世界観に親しみを覚え始め、驚きを通り越すと、視聴者はユーモアが巧みに織り込まれていることに気付くと思います。ダークとユーモアが絶妙なバランスの上に成り立っている作品です」と分析する。

 

「生き残る」と「生きる」の違い

形容しがたいほどのテイストも馴染み始めたころ、視聴者は「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」に込められた最大のテーマ、「希望と生命力」が描かれる様を目の当たりにする。ブルース・ミラーは、主人公オブフレッドの中で「生き残る」と「生きる」は対立する選択肢であると解説する。この二つの言葉は、ごく近い意味を持つように見えて、実は真逆のものであることが描かれるのだ。

「この2つの選択肢の間で、オブフレッドは揺れていたのです。自分の部屋でおとなしくしていれば、恐らく生き延び娘に再会することも可能ですが、その時の自分はどうなってしまっているのか?オブフレッドは、人として生きるチャンスを得る時があります。例えそれが友達を持つという小さなことでも。彼女の生きる世界で友達を持つということは危険で、チャンスを掴んだり、異性と仲良くしたりすることなど尚更のことです。
これらは全てオブフレッドに与えられた人間らしい生活を送るチャンスなのですが、生き残るチャンスが減る要因でもあります。オブフレッドは、人間らしい生活を送るチャンスと、娘と再会するまで生き残るという2つの選択肢を天秤にかけ決断を強いられます。今日のために生きるのか、それとも未来のために生きるのか。

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

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主演のエリザベス・モスは、この繊細さ求められる複雑な心情を見事に演じ上げている。ブルース・ミラーが「皆に愛され慕われる原作のキャラクターに息を吹き込む彼女の演技は素晴らしい。この一言に尽きます」、リード・モラーノが「圧巻の演技」と評するエリザベスだが、演じた本人もおそらくブルースの言う「生き残る」と「生きる」の違いを心得ていただろう。
オブフレッドとして「生き残る」か、ジューンとして「生きる」か。その振れ幅が、エピソードを追うごとに次第と定まっていく様を、エリザベスはこう語る。

シーズンを通して、ジューンとオブフレッドは少しずつ距離を縮め、ついに1人の人間となります。もう、ジューンはオブフレッドの対極ではありません。シーズンが終盤に差し掛かるにつれ、オブフレッドを通じてジューンの姿が見え隠れする機会が増えていきます。そういう場面はとても素晴らしく、ストーリーの中でそういう瞬間を見つけ出しては、ジューンらしさを表に出すようにしました。」

鮮烈な色彩

ドラマでは、物語と視覚とのコントラストも楽しみたい。例えば侍女たちが纏う真っ赤な衣装からは、血や生命力、痛み、出産など様々な意味を読み取ることができる。ブルース・ミラーは本ドラマに使用される色彩について、「全ての原点は色彩パレットです」と振り返る。

「人が一生で赤という色について議論に費やす時間を遥かに超えた時間をかけて色彩について話し合いました。傘、手袋、セーターの全てに同じ赤の色を使用しています。キャラクターをそれぞれ表現する特定の色の使用は小説と同じですが、我々は更にその先を映像化しています。ドラマではキャラクターに独自の色とスタイルを与えることにしたのです。誰にも奪うことが出来ないもの、洋服によって表現する己の個性です。」

ハンドメイズ・テイル/侍女の物語

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ブルースは「侍女たちが身にまとうドレスを全て手作業で製作しており、全て手縫いです。ケープやブーツだけでなく下着も全て手縫いです」と加える。「美しく優雅で官能的な衣装」が、倫理観の退廃した世界に絵画的に映える様は、本ドラマを唯一無二たらしめている。

 

「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は、物議を醸す衝撃的な世界の中でも、「生きる」ために屈しない女性たちの力強い意志と希望、そして生命力を描く。原作者マーガレット・アトウッドが「なぜ、声をあげることができるうちに声をあげることが重要なのか、一票を投じることが可能なうちに投票をすることが如何に大切なのか、視聴者の皆さんに理解してもらえたらと思います」と意義を呼びかける一方で、心情を揺さぶるエモーショナルなドラマとしても感受し応えのある一作だ。ブルース・ミラーは「我々が創り上げた世界に生きる人の生きざまを見て欲しい」と、はやる気持ちを隠していない。最後まで深く噛みしめるようにお楽しみいただきたい。

Huluプレミア「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン1はHuluにて独占配信中!

Hulu「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」配信URL:https://www.happyon.jp/static/the-handmaids-tale/

(文:Naoto Nakatani)

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