ハンス・ジマー、初日本公演の直前に語った「本当の思い」 ─ 単独ロングインタビュー6000字

いいえ。私は人がそういう体験ができる状況を創造するまでです。「この曲でこう感じてほしい」とは絶対に伝えません。感受の可能性があることを伝えるだけです。

──世界各国で演奏する中で、異なる国、文化、バックグラウンドの観客から異なる反応を感じることはありますか?
あります。一番賑やかなのは……アイルランド人かな。彼らは私たちのことを、映画音楽というよりも、ロックバンドだと見ているような。だからアイルランドの観客は、ロックバンドの観客のようでした。香港の観客も素晴らしかった。
Mariko:それから、ヨーロッパやドイツの観客もとても温かくて、素晴らしかったです。とても音楽を愛している。
本当に、素晴らしく、馬鹿馬鹿しいほどに、見事で、光栄です。私は67歳なのですが、突然ロックスターになった気分だ(笑)。コーチェラをやる時も、あれは砂漠地域で開催されるのですが、合唱団とオーケストラを砂漠に連れ出す人なんていませんよ。誰もやったことがないのだから、きっと面白いことになると思いましたね。
──これまでのキャリアで多くのことを成し遂げられました。今後、実現したいことはありますか?
ガールフレンドと一緒に無人島に行って、部屋に籠ることです(笑)。
──数々のクリストファー・ノーラン監督作の音楽を手掛けてこられましたが、彼の最新作『The Odyssey』は担当されないのですね。代わりにルドウィグ・ゴランソンが就任されています。よろしければ、理由をお伺いしても?
『DUNE/デューン』のためです。まず、私は18歳の頃に『デューン 砂の惑星』を読んで、大好きになりました。好きすぎたもので、デイヴィッド・リンチ版の映画は観ていないんです。私が見た映画版のイメージが、自分の頭の中にあるものとかけ離れていたからです。頭の中に思い描く夢を壊したくなかった。
ドゥニから、何気なく「『デューン』という小説をご存知ですか?」と聞かれ、それが彼と仕事をするきっかけになりました。彼の頭にあるものと私の頭にあるものは同じだと、その時感じたのです。だから、クリスの『TENET テネット』(2020)など、他の作品をやることができなくなってしまったのです。
ルドウィグのことは大好きですし、友人です。非常に才能がある。全員が納得していますよ。クリス・ノーランとはとても良い友人関係です。時には友情そのものを大切にすることも必要です。仕事だけじゃなくて、プライベートな関係としての友情。そこに重きを置くべきときもあるんです。
ドゥニと一緒に『DUNE/デューン』に取り組んだのは、とても面白い経験でした。お互い10代の頃に戻る感じでした。でも、我々はこれまでたくさんの映画を作ってきています。技術も仕事のこともわかっているし、やり方もわかっている。だから、想像の中にあったことや心の中にあったことを実際に実行することができた。『DUNE/デューン』は今まではできなかったことだし、20年前にやっていたら酷い映画になっていたでしょう。
昨晩もドゥニとやり取りをしました。彼は今、私の曲を頭の中で流しながらストーリーボードをやっているんです。頻繁に連絡をとっています。とても良い友人関係で、まるで兄弟のようです。もうそろそろ撮影が始まる頃で、私もそれに備えて準備をしているところです。
──最新作は、ブラッド・ピット主演の『F1/エフワン』ですね。現在、製作状況はいかがでしょうか?レースのスピード感やアドレナリンを、どのように楽曲に落とし込んだのですか?
もう作業は完了しました。レース映画は私にとってこれで3作目です。だからスピード感の表現方法については、もうわかっている。最初の頃は、よく監督と「まだ速さが足りない!」と言い合っていました。そうするうちに、うまい形が見つかっていきました。カーレースというものはノイズがつきものですが、ノイズと音楽というのは相性がめっぽう悪い(笑)。
大切なのは、この映画は劇場で観なければ魅力が半減するということです。今作では、エンジンの唸りを体感してほしい。クルマというのは、ノイズがなければダメだ。今作では、適切な周波数やら何やらを見つけるという、楽しい科学的な探究がたくさんありました。楽しい映画です。最近は楽しい映画もあまり作られなくなった。面白い(funny)ではなく、楽しい(fun)映画です。ダークなものではなく、心理描写に深入りするものでもない。そういう映画は『ラッシュ』でも既にやりました。その前には『デイズ・オブ・サンダー』もあった。心理的なものは既にやってきました。だから、ライバル関係とか、得意なことについての映画を作るのはとても素敵なことでした。
──映画が待ちきれません。ところで『F1/エフワン』はジョセフ・コシンスキー監督作ですが、彼とトム・クルーズは『トップガン マーヴェリック』の続編を構想しているようです。もし実現したら、あなたもまた戻ってきますか?
無人島でガールフレンドと籠っている時に電話に出られればやりましょう。電話に出なければ、ノーです(笑)。
──あなたはこれまで、たくさんのDC映画で作曲を手がけてきました。『ダークナイト』トリロジーや『ワンダーウーマン』は名曲ばかりです。これからDCユニバースは刷新され、新しいシリーズが登場します。DC映画への復帰には前向きですか?