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トランプを強く意識するも…失速否めない『ハウス・オブ・カード』シーズン5総まとめレビュー

2017年5月よりNetflixにて『ハウス・オブ・カード 野望の階段』シーズン5の独占配信が始まりました。

『ハウス・オブ・カード』とはNetflixで独占配信されている政治ドラマです。ホワイトハウスを舞台に、主人公フランク・アンダーウッドが様々な陰謀や計略を駆使し、権力の頂点を目指し続ける様をスリリングに描いた作品です。現実の世相を強く反映した内容になっており、ロシアのプーチン大統領をモデルにしたペトロフ大統領や、IS(イスラミックステート)の問題、2016年のアメリカ大統領選を題材にした展開が話題を呼んでいます。シーズン4までの内容については以前も紹介しているので、こちらも併せてご覧ください。

ついにシーズン5始動!

『ハウス・オブ・カード』シーズン4は現職のフランシス・アンダーウッド大統領と対立候補である共和党の若きリーダー、ウィル・コンウェイの壮絶な大統領選挙戦が描かれました。フランシスお得意の政治的な駆け引きに加え、妻クレアの裏切り未遂など波乱万丈の展開となりましたが、シーズン4では選挙の途中で幕を閉じ、大統領選の結果はシーズン5で描かれることになりました。

一方、シーズン5配信までの間に現実世界では異色の大富豪ドナルド・トランプが事前の予想を覆して大統領選挙を勝ち抜き、世界中に衝撃が走りました。「事実は小説よりも奇なり」の言葉通り、ツイッターを駆使した選挙活動など破天荒な言動で社会を混乱させる大統領が登場してしまったのです。『ハウス・オブ・カード』は「ありえないけどリアル」な悪のカリスマ的大統領を描くことで人気を集めてきたシリーズですから、トランプ誕生を受けてのシーズン5配信は大変多くの注目を集めていました。そして2017年5月、いよいよ最新シーズンが満を持して登場したというわけなのです。

サプライズは用意されているものの…

正直な感想を言うと『ハウス・オブ・カード』シーズン5はシリーズ最低の出来ではないかと思います。

本シーズンは大きく分けてふたつのパートに分かれます。前半は大統領選挙の続き、後半はフランシスの失脚です。前半の大統領選挙は決着の付け方に大きなサプライズが用意されるなど、非常に面白い点も多いのですが、全体的に冗長で盛り上がりに欠けます。そして大統領選の「その後」を描く後半は、緻密な政治ゲームからかけ離れた雑な展開です。シーズンを通してみればスリリングな駆け引きやサプライズが満載なのは確かです。しかし、13話のバランスでみると少々チグハグで、従来の疾走感や迫力あるパワーゲームの面白さは損なわれているといえるでしょう。前半と後半に分けて、その内容を詳しく検討したいと思います。

ヤマ場は多いが、ハデさに欠ける前半

シーズン5前半の見どころは言わずもがな「フランシスがどうやって選挙戦を勝ち抜くか」です。

シーズン4ではテロの脅威を悪用してうまく立ち回り、コンウェイより一枚上手だったフランシス。シーズン5では苦戦します。お得意の議会工作が通用しない大統領選挙戦ですから、思い通りにいかないのも当然でしょう。さらに、コンウェイ陣営の助っ人アッシャーのほか、クレア大統領誕生を画策するデイヴィスなど、魅力的な新キャラクターも加わり大統領選挙の戦いは激しさを増します。

それに対してフランシス・アンダーウッドは相当にあくどい手段を使います。データサイエンティストのエイダン・マカランを操りインターネット上の情報操作やサイバーテロを画策します。極めつけは選挙当日、フランシスの敗戦が濃厚になる中、FBIを操ってテロ騒ぎを各地で起こし、勝負の行方を握るオハイオ州の投票所を封鎖させるという暴挙に出ます。これは合衆国憲法修正第12条の悪用です。原文では以下の通りです。

大統領として最多得票を獲得した者を大統領とする。ただし、その数は任命された選挙人総数の過半数でなければならない。もし何人も右の過半数を得なかった時は、大統領として投票された者の内、三名を超えない最高得票者の中から、下院が直ちに秘密投票により大統領を選任しなければならない。大統領の選任に際して、各州の下院議員団は一票を有するものとし、投票は州を単位として行う。

結局、下院投票ではなく仕切り直しの投票がオハイオ州で行われ、暴言により支持を失ったコンウェイが敗れ去ります。一度はフランシスから直接敗北宣言を受け取っていたコンウェイが投票所閉鎖以降、精神のバランスを崩し没落していく様は非常に切ないです。同時に、勝つためなら何でもするアンダーウッド夫妻の恐ろしさ、怪物っぷりが強調され、かなり面白い展開になっています。Twitterやフェイクニュースで支持を集めたとされるトランプ大統領に対し、フランシス・アンダーウッドは狡猾な手段を使って権力を手中に収めました。どうやって視聴者を喜ばせようか製作陣は相当頭をひねったことでしょう。クレバーなトリックには思わず私もうなりました。

しかし、その「見せ方」には不満点も多いです。

まず、戦いの舞台がホワイトハウスや議会ではないので、フランシスお得意のパワーゲームが存分に発揮されません。コンウェイ優勢ということもあり、アンダーウッド陣営が「守り」に入ってしまいます。そもそもテーマが「選挙戦」なので、政治的駆け引きはそれほど期待できないのですが。

そして、勝つために彼のやることと言えば、裏工作がほとんど。大統領選挙らしい華々しさには欠けます。シーズン4では大迫力の演説・遊説シーンや討論番組、ニュース映像など、選挙戦のお祭り感も楽しかったのですが…。シーズン5では大統領執務室や会議室での会話シーンが多く、少々地味でした。本当に大統領選挙をやっていたのか?という感じです。

クレアとトム・イエーツの恋愛模様も作品のテンポ感を削ぐ要因になっていたと思います。クレアの人間的な面を掘り下げる展開として非常に重要ですが、特に深みも生まれず、ただ冗長に感じてしまいました。トムがあまり役に立っているようにもみえず、単なる「夜のお友だち」になり下がってしまったのが残念でした。

緻密さに欠ける後半

後半では、過去の不正が暴かれたフランシスが窮地に立たされる様が描かれます。ゾーイ・バーンズ殺害の疑惑(シーズン1)や大統領弾劾の裏工作(シ-ズン3)など、過去に握りつぶしてきた悪事が次々に暴かれていきます。あれだけ強引に敵を排除してきたんだから、一度誰かの不満が噴出してしまえば抑えきれなくなってしまうのも当然かもしれません。さらにフランシスの再選にも疑惑の目が向けられ、にっちもさっちもいかなくなってしまいます。

しかし、終盤で衝撃の事実が明かされます。なんと一連の不正追及すらフランシスの陰謀だったというのです。彼は「真の権力」が大統領ではなく、それを操る実力者にあるのだということに気付き、妻クレアを大統領にすることでホワイトハウスの内外からすべてを操ろうとしたのです。ところが、最後にさらなるどんでん返しが待ち構えています。クレアの裏切りです。フランシスは不正の追及を逃れるため、大統領になる妻に恩赦を出すよう要求し、政界の表舞台から去るのですが、見事に裏切られます。夫フランシスと妻クレアの徹底的な対立が表面化したところでシーズン5は終幕。『ハウス・オブ・カード』は新たな局面を迎えることになりそうです。

非常にスリリングな展開が用意されている後半ですが、前半と同じく冗長で緻密さを欠いた印象を受けます。特に妻クレアの裏切りは、正直フランシスの根回し不足としか思えません。シーズン4でも一度裏切られかけているのに、なぜ彼女をコントロールしきれると考えたのでしょうか。丁寧に戦略を組み立てていく様が魅力的なキャラクターだっただけに、あまりにツメの甘い失敗にガッカリしてしまいました。

加えて「邪魔な人間を(物理的に)消す」という陰謀を多発しすぎです。シーズン5の終盤だけで作家のトム・イエーツ、データサイエンティストのエイダン・マカラン、クレアの右腕で選挙の不正に関わっていたリアン。ハービーの3人が殺されます。これまでもピーター・ルッソ(シーズン1)やゾーイ・バーンズ(シーズン2)などアンダーウッド夫妻にとって邪魔な存在は度々陰謀によって殺害されてきました。しかし、基本的には法的にも倫理的にもぎりぎりアウトになるかならないかのラインを攻めながら、政略で敵をつぶしていくのがこのドラマの面白さだったはずです。都合の悪い人物を安易に殺してしまってはリアリティラインは壊れるし、政治ドラマとしての緻密さにも欠けると思います。おそらく3人の死はシーズン6以降のフランシスとクレアの対立で活かされていくのでしょうが、『ハウス・オブ・カード』としては一線を越えてしまったのではないでしょうか。

不満は多いが…続編に期待

一定の面白さは保たれているものの、これまでの完成度の高さに比べると一段落ちてしまった印象を受ける『ハウス・オブ・カード』シーズン5。しかし、続編が作られることを匂わせるラストになっており、まだまだ期待はできると思います。第13話のラスト、妻の裏切りを悟ったフランシスは「絶対に殺す」とつぶやき、クレアはフランシスのように画面の向こうに語りかけ「次は私の番よ」と宣言しました。いったい、アンダーウッド夫妻はどうなってしまうのでしょうか。シーズン6制作決定のニュースを待ちたいと思います。

Source:https://www.amazon.co.jp/dp/B01M7SOJGX/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_KwntzbEEA3G6C

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。