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【インタビュー】『ハニーボーイ』はトラウマを思い出す追体験、アルマ・ハレル監督に訊いた

ハニーボーイ
© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.

シャイア・ラブーフが、自身にとっての“毒親”とも言える父親役を自ら演じた、親と子の間の愛とエゴと傷の物語を繊細に紡ぎ出す映画『ハニーボーイ』が、2020年8月7日(金)より日本公開となる。

子役時代よりハリウッドで活動し、時に“お騒がせ”タレントとされることもあるシャイア・ラブーフの半自伝映画。前科者で無職の“ステージパパ”の屈折した思い、成長しても癒えない傷と、肉親への複雑な感情……。物語の主人公となるオーティスという人物は、幼き日(12歳)を『フォードvsフェラーリ』(2019)ノア・ジュプが、青年期(22歳)を『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)のルーカス・ヘッジズが2人1役で丹念に演じる。

シャイア自身が、セラピーとして過去のトラウマを綴った手記。これを基とした脚本を映画化したのは、イスラエル出身のアルマ・ハレル監督。シャイアとは親友でもある間柄だ。ドキュメンタリーとフィクションの境界線を曖昧にする独創的な手法で知られる。コカ・コーラやシャネル、P&Gなど世界的企業のコラボレーションCMで数々の称賛を受けており、ポン・ジュノ監督からは「2020年代に注目すべき気鋭監督20人」のひとりとして名を挙げられる。

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アルマ・ハレル監督 © 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.

THE RIVERでは『ハニーボーイ』について、ロサンゼルスのアルマ・ハレル監督へオンライン・インタビュー。この繊細で美しい作品の裏側を語ってもらった。

アルマ・ハレル監督『ハニーボーイ』解説

トラウマである父親を演じたシャイア

この映画『ハニーボーイ』で、シャイア・ラブーフは自分の父親役を演じました。とても勇気が要ったことと思います。彼がこの脚本を書いている時はセラピーの最中にありました。映画で描かれたものと同じです。

彼にとって、父のトラウマから抜け出すには、父を理解し、共感することだけだった。役者として上手く演じるためには、その役を深く理解する必要があります。彼が父への理解を深めていく様子はとても興味深かった。それに、彼は演じることに集中していましたから、もしかしたら見ている私の方が辛くなるような時もあったかもしれません。それくらい彼は没頭していました。

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役作りのため、彼はお父様に会いに南アメリカに飛びました。そして、お父様と一緒に脚本を全文読んだのです。1週間かけて、お父様との会話を録音もして、私に送ってくれました。それをルーカス(・ヘッジズ)と一緒に聞いたのですが、ルーカスの役作りには大いに役立ったと思います。まるでワークショップのようでした。

この映画まで、シャイアはお父様と7年間も話をしていませんでした。とてもドラマティックであると同時に……、癒やしがあったと思いたいです。“時間”こそが最高のドクターだと思います。シャイアが父と再会したおかげで、この映画を製作することができました。お父様との再会で、彼がどう感じたか。それがこの映画で語られていることと思います。

実はシャイアは、初めはお父様に、「メル・ギブソンが親父を演じるから」とウソをついていたんです(笑)。ご本人もすごく喜んでいたと。メル・ギブソンが大好きなんですって。だから事実を知らせたときは、ちょっとガッカリされてしまいましたね(笑)。お父様もこの映画をすごく気に入ってくださっています。とても喜ばしいことです。映画がロサンゼルスで封切られた時にも、シャイアとお父様は一緒に数週間を過ごされていました。シャイア個人の話題なので私からお話することはありませんが、お父様との間にも“つながり”が生まれたように思います。

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私の父はアルコール依存症でした。だからオーティスにとても共感できたんです。描きたかったのは、自分に痛みをもたらした存在と関わりを持つということや、そんな存在こそが、時に自分を誰よりも愛する存在であるということ。「親父が唯一くれた価値あるものは“痛み”だ」という劇中のセリフに良く現れています。彼はその“痛み”によって演技に力を付けていたんです。愛と痛みの複雑な関係を描きたかったんです。

ノア・ジュプとルーカス・ヘッジズが演じるオーティス

ルーカス・ヘッジズが青年期のオーティスを演じていますが、シャイアは彼に演じる上でのアドバイスなどをしていません。そもそも彼はオーティスという役を演じたわけで、シャイアの再現ということではありませんでしたから。

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とは言え、シャイアを参考にしてはいます。「おとぼけスティーブンス一家」(シャイアが子役時代に出演していたドラマシリーズ)を毎日観たり、シャイアが18歳〜20歳だったころのインタビュー映像を観たりしていました。それにシャイアの私服も着ていましたね。だからシャイアからの影響は大きいですが、新しいキャラクターを演じてもらうということも心がけました。もしもシャイアが自分で自分を演じていたり、彼そっくりな人がシャイア役を演じていたりしたら、退屈な映画になっていたと思います。ルーカスというキャラクターは、シャイアやルーカス、ノアと、様々なものによって創られているのです。

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ノア・ジュプの起用はプロデューサーの提案でした。私は『ワンダー 君は太陽』(2017)でノアを見ていました。愛らしく、オープンで、卓越した子だと思っていたのですが、この役を演じられるかどうかは分からなかった。ノアはイギリス出身ですし。最初はロサンゼルス現地で、(演技が)素人の子を発掘しようと考えていたんです。でも、ノアをオーディションしてみて、オーティスとの共通点が大きいと気付いたんです。彼も子役であり、ご両親に支えられていましたから。

ノアの初オーディションを見て、私、泣いてしまいました。自分の書いたテキストを(役者が)読んでいる姿を見て。すごい、本物の役者だ、って。私はドキュメンタリー出身なので、実は役者というものにあまり慣れていなくて。役者を信頼しきれない時もあるんです。現実にいる人の方が良いって。でも、役者じゃない人を“現実の人”って言って、役者を“現実じゃない”って言うのは可笑しいですよね。だって役者も現実の存在なんですから。

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私は、役者というものを別の監督の視点を通じてばかり見ていたのだと思います。だからこそ、『ワンダー』のノアでもなく、『クワイエット・プレイス』(2018)のノアでもなく、現実の存在としてのノアを見た時、彼がこの役をやるべきなのだと実感できました。

同時に、彼がシャイアと対等に共演できるということも確かめておきたかった。そこで彼にロサンゼルスまで来てもらって、他に候補になっていた子役も交えて、シャイアと何度かオーディションしました。そこでのノアとシャイアの相性が抜群だったのです。

ドキュメンタリー映画の手法

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右がアルマ・ハレル監督。 © 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.

私はドキュメンタリー映画出身とあって、この映画をリアルに感じられる仕上がりとはどういうものか、今ここで現実に起こっているという感覚はどういうことかが分かります。こうした感覚を本作にも活かしました。アドリブも取り入れて、(役者には)“演じる”のではなく、キャラクターそのものに成りきってもらいました。そう、この映画にはアドリブのやりとりも沢山あるんですよ。

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それから、最初に脚本を読んだ時、ストーリーが一本道だったんですね。子供時代から始まって、色々語られて、色々終わって、次にルーカス(=青年時代)が登場して、リハビリを受けて、そして最後に……、という。

この脚本で撮影して編集に入った時に、うーん、あまり上手くいってないなと思ったんです。そこで、20代になって、過去を思い出す感覚ってどんなだろうって考えました。強烈な感覚や思い出が最初に思い出されて、それからだんだんと細かい思い出が現れると考えたんです。だから、ルーカスがセラピーを受けるところから映画をスタートさせて、過去を思い出していくという形式にしたんです。記憶をたどって、自分の人生に何があったのかを突き止めていくんですね。

脚本を基に映画の流れを組むのは、まるでパズルでしたね。壁に色々と貼り付けて、これをこっちに持ってきたらどうか、ということをずっと試行錯誤していました。2つのタイムラインを同時に動かすのは大変でしたが、とても楽しかったです。

シャイアが書いた脚本そのものが、リハビリの一貫として、過去を思い出しながら書き出されたもので、それが映画として仕上がったのです。だから、ストーリーボードがあって、計画を練って、流れがハッキリとしている物語というわけではありません。ただ、真実が込められた物語なんです。

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映画『ハニーボーイ』は2020年8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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THE RIVER編集部THE RIVER

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