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【インタビュー】エミリオ・エステベス監督が『パブリック 図書館の奇跡』で描く公共図書館に隠されたアメリカ社会の縮図とは

パブリック 図書館の奇跡
© EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ボビー』(2006)『星の旅人たち』(2010)などで知られる映画監督エミリオ・エステベスの新作『パブリック 図書館の奇跡』が、2020年7月17日(金)に公開を迎える。約8年ぶりの監督作でエステベスが選んだ物語の舞台は、自身にとっても馴染みの深い「図書館」だ。

俳優として『アウトサイダー』(1983)『ヤングガン』(1988)など、1980年代を彩る数々の青春映画に姿を見せたエステベスは、代表作『ブレックファスト・クラブ』(1985)で、休日に居残りをさせられ、教師という大きな存在に立ち向かう生徒たちの1人を演じている。

私生活では幼い頃から両親によく連れられた図書館は、監督にとって「ベビーシッター」のような場所でもあるという。そんな市民の学びの場“公共図書館”を舞台にした本作は、完成までに約11年の歳月を費やしたエステベス監督の力作だ。

記録的な大寒波がオハイオ州・シンシナティの街を凍らせる中、行き場のないホームレスたちは勤勉実直な司書・スチュアート(エステベス)を“盾”に公共図書館に立てこもる。死の恐怖と隣り合わせのホームレスたち社会的弱者と、これを阻止する警察や政治家、そして事件を利用するメディア、という複数対立構造にて物語は展開。ユーモアとサプライズ、あたたかな人間味にあふれた本作は、先が読めない巧みなプロット、さらには災害や格差に揺れる現代社会への問題提起をもはらみ、2018年のトロント国際映画祭で大きな喝采を浴びた。THE RIVERでは、エステベス監督ご本人に製作の真意を訊いてみた。

実際の風景を図書館で観察、監督に響いた生の声

『パブリック 図書館の奇跡』
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※以下2問は、全媒体向けの内容。

──新型コロナウイルス流行の前後で、監督の生活は変わりましたか?また、俳優や映画の製作活動にはどのような影響を受けましたか?

劇場で映画が観られなくなることが心配です。この状況からすでに立ち行かなくなってしまっている映画館もあると思いますし、これからの配給はストリーミングが増えるかもしれないと心配しています。『飛べないアヒル』(1992)のリブートをバンクーバーで撮影していたのが、新型コロナウイルスの影響で中座している状態で、いつ再開するのかまだ目処がたっていない状態なんです。(再開の)日程はまた出てきていますけど、それが実際にできるかどうか分かりません。バンクーバーへ行けたとしても14日間の隔離期間が必要で、現場での撮影ルールも定まっていません。父親のマーティン・シーンは、ジェーン・フォンダやリリー・トムリン、サム・ウォーターストンらと再会すると言っていますけど、再会できるかもわかりませんし、他の製作現場も皆同じだと。

特に、アメリカは日本よりも新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられていないので、果たして本当にどうなるかという感じです。『ヤングガン』のリブートへの参加も決まっていますけど。良かったなと思っているのは、現代物をつくるとコロナのことに触れざるを得なくなるということ。そのことについてどうするかとなった時、時代物だったら触れなくていいんです。コロナなんか無い世界で展開するから。もしかしたら、時代物が増えるかもしれませんね…。

パブリック 図書館の奇跡
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──本作は新聞記事から着想を得たとのことですが、当時のエピソードを詳しく教えてください。既に図書館を舞台にした映画を撮ろうとネタ探しをしていたのでしょうか?あるいは何気なく新聞を読んでいた中で目に留まり、アイデアが広がっていったのでしょうか?

エッセイを読んだ後、これは映画になると感じたというよりも、図書館で何かできるのではないかと感じ、ロサンゼルスにあるダウンタウンの公共図書館で、静かにそこで起きることを観察することをしていました。まず、最初にロサンゼルスでつくるイメージがあったので、ここで、というような感じで考えていましたけど。特に司書と訪れる方のやりとりを見ていて、だいぶ足を運んだ時に、常連さんが自分に対して、いつもいるなと信頼し始めてくれたところがありました。どうやって自分がホームレスになったか、ということから話をしてくれるようになりましたね。オープンな人もいれば、“何だこいつ”っていう人もいますし、声をあげられたりして自分の方が怖くなってしまったこともありましたが、そうやって色々な人の話を聞いてこの作品を作っていきました。

彼らとの会話や図書館で過ごした時間は得難い価値があったと思います。人の振る舞いを観察することもできましたから。ホームレスになった人はサバイバルモードになってしまっています。でも、図書館に行くと1日8〜10時間くらいは室内に入れて、本が読めたり情報にアクセスができたりできるから、彼らにとっては安寧を感じられる場所なんですよ。

日本とは違うアメリカでの図書館の意義

※以下より、THE RIVER独占による内容。

パブリック 図書館の奇跡
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──『ブレックファスト・クラブ』でも校内の図書館を舞台に、生徒vs先生の構図が描かれていましたが、今回はホームレスvs警察&メディアというように感じられました。そもそも何故、図書館が舞台である必要があったのでしょうか?

1つのロケーションで展開する物語にしたいと思っていました。『ボビー』(2006)の時と同じようにアンサンブルで、1つのロケーションにしようと思ったのは、独立系で予算がない中で一番費用を抑えやすいのは単一の場所で移動を入れないことでした。『ボビー』の場合は建物が壊されてしまって、セットを作らなければいけませんでした。今回はそれをせずに済みました。あとは、2007年に単純にチップ・ウォード(原案者)のエッセイを読んだ時、次の映画のロケーションが自然に図書館となったんです。

ダヴィデとゴリアテの物語は知ってると思いますけど、勝ちそうもないダヴィデが巨人に勝つわけで。そういう形式の物語は世の中にたくさんありますが、私は常にダヴィデの応援をしています。ヒーローがダヴィデなんです。あとは、(これからも逮捕されると思いますが)父のマーティン・シーンが70回逮捕されていることから、彼はダヴィデとして戦い続けているわけなんです。それにインスピレーションを受けているというのもあるんですよ。核に関するものであったり、こういったホームレスであったり、そのほかの社会的に弱い立場にいる人をより脅かすような何かがあった時に、立ち上がって戦っているんです。

パブリック 図書館の奇跡
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──行き場のないホームレスの出入りやあまり知られていない司書の仕事内容など、図書館内における真実と、人種差別や民主主義vs全体主義、強者vs弱者など、アメリカ国内での社会問題。本作を通して大きくこの2つの気づきがありました。監督の狙いとしては、どちらに重きを置いていたのでしょうか?

両方とも同じくらいだと思います。2つに差はなく、2つとして観るならば等しく描いています。映画監督が上から目線で観客に教えてあげる、というような形でつくると、観客は頻繁にそれをはじいてしまいます。だから、私は現代の司書の仕事が何なのか、とにかく正しく描きたいと思いましたし、図書館という機関の大切さというものをまず考えながら描いて、両方の大きな社会的なことも含め、平等にしっかりと描きたいと思いました。この映画を大きなコンペンションで、図書館員たちの前で上映した時に、最初に聞かれた質問が「どうやって私たちのことをこんなに正確に描いたのですか?」と言われた時は、嬉しかったですね。

社会的弱者へ手を差し伸べるために

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──本作を観てから、“公共図書館”へのイメージが変わりました。なぜなら日本では、政治と図書館が結び付いたイメージがあまり無いからです。劇中で描かれる図書館の在り方というのは、アメリカ特有のものなのでしょうか?特に「図書館は民主主義の最後の砦だ」というジェフリー・ライト演じる館長の言葉が響きました。

知識は力である、ということなんです。そして、知識へのアクセスもさらに大きな力であるということ。なので、図書館のような私たちの学びが得られる場所を失うということは、私たちの想像以上に大きなものを失うということに他なりません。なぜかというと、図書館は様々な形で私たちに色々なものを与えてくれているから。社会的なセーフティネットを含めてです。

──監督演じるスチュアートは劇中で唯一の中立的な立場にいたと思います。しかし、現実にはスチュアートのように両方の気持ちを理解できる人はそう多くないと思います。そうした中で、弱者に手を差し伸べてあげられる人になるためには具体的に何をすればよいのでしょうか?

私が大切にしているのは、分からないことは分からないと言うことです。それは脆さかもしれないけれど、それを人に見せたっていいと思うんです。何か壊れているところがあるかもしれないし、そうあることを否定しなくていいと思います。今、それが世界中で問題になっているんじゃないでしょうか。分からない、ということが皆言えないから、こんなことになってしまっているんです。新型コロナウイルスなんかもいい例で、いろんな専門家が分からないと言わずに“こうすればいいんだ”と言っていますけど、実際によく分かっていなかったりとか。政府もアメリカの場合は、お願いすれば(ウイルスが)どこかに行ってくれるんじゃないかという感じだったけど、もちろんそんなことはなくて。分からないと言えずにこういう状況になってきています。

脆くていいんだよ、というのはまさにこのスチュアートのキャラクターだと思います。彼はそういった部分も持っているし、すごく光り輝くキャラクターじゃないかもしれません。でも逆に、自分のことでいっぱいなキャラクターではない。まさに依存症とか、リカバリー中で回復しているところで、もちろん心の病みたいなものも患ってはいますが、セカンドチャンスを与えられて、自分が正しいと思ったことをしようと思っています。ただ、この映画の中でも冒頭、正しいことをしていたのに訴えられてしまって。彼の足元が崩れそうになり始めたところから、始まっている映画であるんです。ルールに則っていたはずのスチュアートなのにです。

『パブリック 図書館の奇跡』作品情報

異例の大寒波に襲われたオハイオ州シンシナティのダウンタウン。司書である主人公のスチュアートが勤務する公共図書館である日、常連のホームレスたちが、大寒波の一夜を何とかしのぐために図書館職員たちと対立、建物を一晩だけの避難所にしようと“座り込み”という名の占拠を行う。市民の抵抗運動として端を発したこの動きは、メディアや警察までも巻き込んだにらみ合いへと発展していく…。

本作は、米ユタ州にあるソルトレイク公共図書館の元アシスタントディレクター、チップ・ウォードが、2007年にLos Angeles Timesに寄稿した新聞記事に着想を得て製作された。エステベスは本作で製作・監督・脚本・主演を兼任。共演者には、警察官ラムステッド役に『ミッション:インポッシブル』シリーズのアレック・ボールドウィン、検察官役にクリスチャン・スレイター、さらに『007』シリーズのジェフリー・ライト、『ネオン・デーモン』(2016)のジェナ・マローン、Netflixドラマ「オレンジ・イズ・ニューブラック」(2013-2019)の主演女優テイラー・シリングも登場する。

映画『パブリック 図書館の奇跡』は、2020年7月17日(金)全国ロードショー。

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。