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【レビュー】『イット・フォローズ』『ドント・ブリーズ』2016年を代表するホラーの魅力を比較&考察!

まだ今年も始まったばかりの2016年1月、低予算のB級映画……と見せかけて映画ファンをうならせたホラー映画が公開された。“それ”はどこまでもついてくる、追いつかれたら殺される。そんな恐怖に巻き込まれた少年少女たちを描いた『イット・フォローズ』だ。

そして1年も終わろうとする12月、再び私たちを恐怖にどん底に突き落とす映画が日本にやってきた。『死霊のはらわた』(2013年)でおなじみの、フェデ・アルバレス監督による『ドント・ブリーズ』だ。

2016年の最後には、年も忘れるほど放心状態になる、この今年を代表するホラー2作品を振り返っていこう。

新感覚のホラー、『イット・フォローズ』の魅力

http://anotherwordforattic.com/2015/08/11/it-follows-is-a-great-horror-movie/
http://anotherwordforattic.com/2015/08/11/it-follows-is-a-great-horror-movie/

映画を観ていて、「MV作品みたいだなあ」という感覚をもったことがある方は少なくないと思う。『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クインの登場シーンや、優雅に空中でヨガをするハーレイちゃんと楽曲“You Don’t Own Me”のマッチし具合、クラブのシーンで流れるSkrillex、そして派手な映像を彩るイケイケなヒップホップ・ナンバー。あるいは、『スプリング・ブレイカーズ』のネオンの輝きと、刺激的でいて叙情詩のような描かれ方……。

しかしホラー映画では、「MV作品のようだ」と感じることはなかなかないだろう。しかし『イット・フォローズ』は、もちろん怖いし、とびっきりヒヤヒヤするのだが、その一方でとにかくおしゃれなのだ。海辺のシーンなどは、“イット”さえ追っかけてこなければごく普通の青春のひと時を切り取ったようである。

また、この作品でとても印象に残るのは“色”だ。プールの青、血の赤……。

肝心の追いかけてくる“イット”が何なのか分からないために、私たちは映画を観ながら考えをめぐらせる。

水のシーンが多いのは、どういう意味があるのか? なぜ“イット”は姿を変えるのか? このシーンにはどんな意味があるのか? 場面のひとつひとつやその構図、色から、私たちも“イット”を読み取ろうとする。ただビックリするだけではない、グロテスクな映像がつづくわけではない、でもその底知れない恐怖にゾッとして観入ってしまう。これこそ『イット・フォローズ』が“新感覚のホラー”と称される理由だろう。

超体育会系ホラー、『ドント・ブリーズ』の面白さ

さて、『ドント・ブリーズ』だ。3人の強盗がターゲットに選んで入った場所、そこは最恐最悪の老人が住む家だった! 果たして彼らは金を持ち出すことができるのか、そもそも無事に脱出することができるのか?というストーリーだ。盗みを働こうとしている若者たちと、盲目なのにとにかく強いおじいちゃんが戦う話なのである。もう設定だけでめちゃくちゃおもしろい。

http://www.rogerebert.com/reviews/dont-breathe-2016
http://www.rogerebert.com/reviews/dont-breathe-2016

『ドント・ブリーズ』は、『イット・フォローズ』のような“おしゃれ系ホラー”ではない。そもそもおじいちゃんの家はボロボロの空き家だし、おしゃれさのかけらもないのである。しかし「構図がこんな感じでセンスが良くて〜」とか「ここの色とこの色が対照的で〜」とかごちゃごちゃ考える以前に、観ている私たちも思わず“ドント・ブリーズ”する、そんな作品だった。

http://www.heraldnet.com/life/sadistic-dont-breathe-delivers-real-scares-but-goes-awry/
http://www.heraldnet.com/life/sadistic-dont-breathe-delivers-real-scares-but-goes-awry/

『イット・フォローズ』の場合、“イット”に追いかけられる少年少女たちをどこか客観的に眺められている自分がいたが、 『ドント・ブリーズ』はそうはいかない。すでに私は、作品を観る前から「盲目のおじいちゃんから逃げるためには、音を立ててはならない」という情報をインプットされていた。もちろん家に入った瞬間から、聞こえる音のひとつひとつにヒヤッとしてしまう。

床のきしむ音や扉の音、そして息遣いに全身の毛がよだち、全神経が敏感になる。映画が上映されている約90分間、私たちの体はこわばりっぱなしだ。自分自身もこの家に入り、おじいちゃんと生死をかけたかくれんぼに挑まなくてはいけない。そんな超体育会系ホラーなのである。

シチュエーション・スリラーの空間

いわゆる「シチュエーション・スリラー」と呼ばれる作品には、絶対安全であるはずの“自宅”を舞台とした映画が少なくない。たとえばジョディ・フォスターが強盗と戦う『パニック・ルーム』、耳の聞こえない女性が殺人鬼と対峙する『サイレンス』などは、「もし自分の家にこんなヤツらがやってきたら……」と思うだけで身震いがする作品だ。

しかし『ドント・ブリーズ』の場合、自宅という狭い空間だけでほとんどの物語が展開するにもかかわらず、家だけとは思えないほど散々動きまわったような感覚に陥った。その理由は“上下移動”である。

https://www.yahoo.com/movies/dont-breathe-terrorizes-rivals-with-winning-152236858.html
https://www.yahoo.com/movies/dont-breathe-terrorizes-rivals-with-winning-152236858.html

おじいちゃんも強盗3人組も、1階から2階に行ったり 、1階から地下に行ったり、地下からまた2階まで行ったり、そしてまた地下に戻ったりと、とにかく上へ下への移動を繰り返す。その動きが、家という狭いはずの空間でも“広さ”を演出しており、まるで私たち自身が階段を登り降りするかのような疲労感を与えてくれる。

ちなみに、『ドント・ブリーズ』が私たちを肉体的に振り回すかのような感覚にする一方、『イット・フォローズ』は私たちを視覚的に振り回す。海辺の風景や少年少女たちの甘酸っぱい(?)場面に対して、突如現れるがらんとした廃墟。アルバムをめくって日常写真を見ていたら、そこにいきなり心霊写真が紛れ込んでいたような感覚だ。

ホラーが苦手なあなたにもおすすめ

『イット・フォローズ』『ドント・ブリーズ』は、普段ホラーを観ない人でも挑戦しやすい作品だと思う。

私も、あの幽霊の怖〜い顔は苦手だ。お風呂場でシャンプーをしている時には後ろに誰かいないかとヒヤヒヤするし、扉の隙間からあの顔が出てきたらどうしよう……などとも考える。おばけじゃなくても、“あばら骨むき出し!内臓ぶっ飛び!”なんてグロ映像ばかりだと少々まいってしまう。でも今回ご紹介している2作品は、あんまり後に響かない怖さなのだ。

それに、どちらの作品にもそこまでグロテスクな映像は出てこない。盲目の老人は恐ろしいやつだが、見た目はタンクトップに身を包んだマッチョなおじいちゃんだ。このおじいちゃんが鏡の後ろに立っている所を想像してもシュールなだけだろう。“イット”も怖いが、何度も後ろを振り返り振り返り、という ビクビクした怖さは“フォローズ”してこない。どちらの映画も、確かにビックリするしヒヤヒヤするし恐ろしいのだが、きっと観てすぐの感想では「面白かった!」と言う人が多いはずだ。ホラーだけど、ホラーかどうかは関係なしに面白い

怖くて面白い『ドント・ブリーズ』は、例えるなら、急降下するジェットコースターから降りてきた感覚に近いかもしれない。不気味でおしゃれな『イット・フォローズ』は、“狂気的で知られる現代アート作家の個展に行ってきたら意外とハマった”みたいな感じだろうか。普段ホラーがちょっぴり苦手な人でも、楽しみながら観ることができるだろう。

みなさん、2016年のモヤモヤを吹き飛ばすつもりでご覧になってはいかがだろうか? 怖いのに、もしかしたらスカッとしちゃうかも。

https://theriver.jp/it-follows/

https://theriver.jp/dont-breathe/

Eyecatch Image: http://wheresthejump.com/jump-scares-in-dont-breathe-2016/
http://www.impawards.com/2015/it_follows_ver9.html
http://collider.com/dont-breathe-comic-con-screening/
© 2014 It Will Follow. Inc,
© 2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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