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映画『ジャスティス・リーグ』は、いかにして「結集」と「最初の一歩」に集中したか

2017年11月23日に公開されたDCEU映画の5作目にあたる『ジャスティス・リーグ』。『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)にてスーパーマンが死んだ後の作品となります。今作に登場するメインのヒーローはバットマン、ワンダーウーマン、フラッシュ、アクアマン、サイボーグとなりますが、それ以外にも多くのキャラクターが登場し、映画ではこれまでに描かれなかった世界が提示されました。

注意

この記事には、映画『ジャスティス・リーグ』の内容が含まれています。

ヒーロー達が集まり、それぞれの映画への新たな一歩を踏み出した『ジャスティス・リーグ』

これまでのヒーローが大集合する映画では、登場するヒーローはすでに多くの実績を持ったキャラクターであることが多かったのですが、今作『ジャスティス・リーグ』では、これまでとは違い、ヒーローとしてのキャリアがなかったり、なんらかの事情で表舞台から去っていた者達がそれぞれの悩みを抱えた上で、異界に繋がる扉「ブームチューブ」を通ってやってきた侵略者ステッペンウルフとその尖兵パラデーモンに立ち向かいます。

死したスーパーマンの意思を継いでヒーローに復帰したバットマン

今作ではバットマンとワンダーウーマンは戦いに関してはベテランとなっていて、スーパーマンの死を間近で見ているために彼の意思を継いでヒーロー達を探す役割を背負っています。バットマンは20年以上に渡る犯罪との戦いと、ジョーカーとハーレイクインによるロビンの殺害、それにスーパーマンとゾッドの戦いによって無力感を抱いて心が折れてしまったことから『バットマンvsスーパーマン』では悪に堕ちてスーパーマンを殺そうとしていました。

バットマンが悪に染まる展開はコミックでは近いうちに翻訳される『インフィナイト・クライシス』の周辺イベントで描かれており、こちらではバットマンの狂気が作った兵器によって彼のチームメイト2名が殺害されています。このことから『バットマンvsスーパーマン』はむしろ最悪の事態を防ぐことができたと言えます。

悪に堕ちていたバットマンですが、『ジャスティス・リーグ』では別人のような明るさと社交性を見せており、スーパーマンの影響がどれだけ強かったのかがわかる形となっています。まだ未熟なヒーロー達に対し、上から目線の高圧的な態度ではなくヒーローの重要さと世界に迫る危険を諭し、スーパーマンに犯してしまった過ちを償おうと、慣れないことをする姿が見られます。

映画『ワンダーウーマン』(2017)にてせっかくワンダーウーマン/ダイアナにスティーブ・トレバーの写真の原本を渡したのに、映画『ジャスティス・リーグ』で彼の名前を馬鹿にするようなニュアンスで出して彼女を激怒させたのは失態でしたが、そこでいじけずにアクアマンにジョークを飛ばす強さも見せています。これほどに親しみの持てるバットマンの存在こそが『ジャスティス・リーグ』で描かれたバットマンの新たな一歩と言えるでしょう。

ワンダーウーマンは100年越しにトレバーとの約束を果たす

WONDER WOMAN AND ALL RELATED CHARACTERS AND ELEMENTS ARE TRADEMARKS OF AND C DC COMICS. © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ワンダーウーマンは映画『ワンダーウーマン』の直後の時系列から始まっており、スティーブ・トレバーの写真の原本をバットマン/ブルース・ウェインから受け取った後の話になります。今作でのワンダーウーマンはまさに中心人物というに相応しい安定感を見せ、サイボーグに対しても根気強く穏やかに説得しています。

ワンダーウーマンことダイアナは100年の時を超えても第一次世界大戦にて愛を交わしたスティーブ・トレバーのことを想っており、ある意味で引きずっているのがバットマンを吹き飛ばしたシーンからも伝わります。

愛する人の死を抱えていたワンダーウーマンでしたが、彼に告げられた「僕は今日を救う、君は世界を救え」は100年の時を超えてようやく、新たな仲間の助けもあってワンダーウーマンがステッペンウルフの斧を粉砕し、相手を絶望させたことで果たすことができました。彼女が目覚めたばかりのスーパーマンを”カル・エル”の方の名前で呼びかけるのはコミック読者には嬉しいサービスと言えるでしょう。

友だちができて就職先も決まったフラッシュ

ドラマ『THE FLASH/フラッシュ』でも活躍が目覚ましいスピードスターのヒーロー、フラッシュ/バリー・アレンは映画ではオタクで調子に乗りやすいが挙動不審になってしまうことが多い、未熟なキャラクターとして描かれています。

ドラマのバリー・アレンが見せる明るさは三代目フラッシュのウォリー・ウェストの要素が多く引き継がれていますが、映画のバリー・アレンはオタクで学生っぽさがあり、新人であることを加味しても落ち着きがないという描写から少年スピードスターヒーローのインパルス&4代目フラッシュであるバート・アレンの要素が強く見られるようになっています。映画のフラッシュはコミックやドラマと同じで父を冤罪で投獄されているだけでなく、対人関係を築くのが苦手て進路も決まっていないという不透明さがあります。

バリーは友達が欲しいということでバットマンのスカウトを二つ返事で了承しましたが、ヒーローとしてはまだデビューというデビューもしていない状態であり、右も左も分からない有様でした。そんな彼がブルースから人助けのアドバイスをされて、同じ視点で話せる友人がいないという悩みも駆けっこ相手ができたことで解決し、おまけに進路も決まりました。

孤独に苛まれていたアクアマンは友達と居場所ができる

アクアマン/アーサー・カリーは予告編では『バットマン ブレイブ&ボールド』に出てくるような陽気で愉快な人物に思われましたが、劇中の描写ではコミックの落ち着きのある佇まいと『バットマン ブレイブ&ボールド』の陽気さが合わさったキャラクターとなっています。

アクアマンと言えば”魚と話せる”ことに関連したジョークのネタになるという不遇な立場であり、市民からも馬鹿にされがちですが、劇中でジョークにしたのはバットマンのみでした。そのバットマン/ブルース・ウェインがスカウトしに行った際には周囲の人々に庇われる姿が見られており、翻訳されたコミックよりも後の時系列にあるような認められた状態であることが伺えます。

しかし、地上人とアトランティス人のハーフであるアクアマンが強烈な疎外感を抱いているのは同じであり、コミックでは長年連れ添う恋人のメラとの関係性も薄いことから孤独感で投げやりになっていました。そんなアクアマンが真実の縄に触れたことでようやく友人を作ることができた心情を吐露するシーンは胸が暖かくなります。

怪物になる恐怖を抱えたサイボーグは人間性を自覚

サイボーグ/ヴィクター・ストーンといえば、初登場は『New Teen Titans』であり、長年に渡ってティーンタイタンズのまとめ役を担ってきたメカヒーローです。コミックも映画も大怪我を負ってしまったところを実の父親に改造されたことで、人ではない体となってしまった悩みと、無断で人体改造をした父親に対して確執のあるキャラクターです。コミックでのサイボーグは無骨ですが思いやりに溢れており、フレッシュで思春期であることから悩みの多いティーンヒーロー達の心を癒やす光景が多く見られます。サイボーグはその心と振る舞いからチームメイトに”(名前は石=ストーンだが)彼は巨岩のような男だ”と賞賛される名ヒーローです。

そんなサイボーグは映画では改造されてまだ日が浅く、マザーボックスという未知のアイテムで改造されたことから、人でなくなった悲しみと父への怒りだけでなく、未知の物質によって自分が知らないものに作り変えられていく恐怖を抱えています。

正体不明のアイテムによって体だけでなく、心も変わっていくのではないかという恐怖は三代目ブルービートル/ハイメ・レイエスで描かれていたものです。三代目ブルービートルの方は両親や妹が一般人であることから、常に変化していく体に対して妹からは恐怖や怯えの目を向けられることもありました。それでも変身アイテムであるスカラベ(識別コード:Khaji Da)は初代ブルービートルと二代目ブルービートルの戦いを間近で見たことからヒーローに感化されており、意思疎通が可能な限りは安心でした。

けれど、サイボーグの方はと言うと体を作り変えたマザーボックスそのものが未知のアイテムであることから多くの謎を秘めており、明日には怪物になってしまっているかもしれないというヴィクターの恐怖が真に迫っていました。機械になった体に悩んでいたサイボーグでしたが、スーパーマンと協力して世界を救ったことでようやく、青年らしい笑顔を浮かべ、本来の人間らしい心を素直に表現できるようになり、ヒーローとしての希望を持って進むことができました。ファンサービスとしては、サイボーグが映画の中で着ていたスウェットのパーカー上下は彼がコミックで初登場した時に着ていた上下のパーカーの色違いとなっています。

スーパーマンはようやくの犠牲のない戦いを達成

予告の段階では登場が隠されていたスーパーマン/クラーク・ケントですが、『ジャスティス・リーグ』はスーパーマンが登場した映画『マン・オブ・スティール』(2013)、『バットマンvsスーパーマン』の三部作目にしてスーパーマンが名実ともに真のスーパーマンになる映画です。DCEUでの初代スーパーマン映画になる『マン・オブ・スティール』ではクラーク・ケントが如何にしてスーパーマンになったのかを描き、『バットマンvsスーパーマン』ではスーパーマンが何もかもを救うことはできないジレンマにどう対応するかを描きました。そして、『ジャスティス・リーグ』ではスーパーマンがどれだけ世界に必要であるかと、その影響力を描いています。

スーパーマンの影響力とは、本来はスーパーマンの正体であるクラーク・ケントに根ざしたものであり、バットマンが語るように豊かな人間性によるものに他なりません。冒頭の子供によるスマホインタビューでは、これまでの映画では描かれてこなかった”スーパーマン/クラーク・ケントの真摯で優しい性格”と、それを市民がどれほど慕っていたのかがわかるようになっており、バットマンは事あるごとにスーパーマンこそが世界に必要とされるヒーローであると語っています。バットマンが復活を強行して見事に蘇り、意識が混濁してヒーロー達に襲いかかった際も正気に戻したのはスーパーマンではなくクラーク・ケントが愛していたロイス・レインですし、スーパーマンがチームに合流してからは明確に事態が好転しています。

『マン・オブ・スティール』では断腸の思いでゾッドに専念せざるを得なかった民間人の救助も、ステッペンウルフとの戦いでは敵の相手を仲間に任せて民間人の救助を優先することができるようになっています。あらゆる意味で強力なヒーローのスーパーマンですが、最もチームで戦う恩恵が描かれたのもスーパーマンだったといえます。

DCEUの通算5作目にしてついに発足した世界を守るヒーローチーム、ジャスティス・リーグ。映画では様々な悩みを抱えたヒーロー達が団結し、協力し合うことで最初の一歩を踏み出し、その上でスーパーマンの復活と王道ヒーローの凄みを見せました。『ジャスティス・リーグ』は来る暗黒惑星アポコリプスと邪神魔王ダークサイドの存在もちらつかせたりと、今後の展開が気になる上で、ヒーローの気持ちよさと爽快感を表現した超王道快作ヒーロー映画なのです。

Writer

小村健人村上 幸

DCコミックスと非ヒーローコミックスをメインに読んでいます。ユーロコミックスを原語で読むのが現状の目標です。好きなヒーローチーム:ジャスティス・リーグ・インターナショナル好きなヒーロー:たくさんのDCヒーロー(特にキース・ギッフェンがライターを担当した時のヒーローかヴィラン) salarmko@outlook.jpお仕事の依頼はこちらへ。

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