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『ジョーカー』米国で社会現象広がる、ロス市警と米軍が警戒態勢へ ─ 各映画館が警備を強化、プレミアイベントは記者の入場禁止に

ジョーカー
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

狂気の犯罪王子、ジョーカーの誕生をホアキン・フェニックス主演で描く『ジョーカー』が、2019年10月4日(金)に日米同時公開となる。本作については、凶悪なキャラクターを共感をもって描くストーリーゆえ「現実の暴力を誘発するおそれがある」との声が上がっており、すでにワーナー・ブラザースなどが声明を発表、早くも社会現象的な状況が生まれている。背景にあるのは、『ダークナイト ライジング』(2012)の劇場公開時、上映中の映画館で発生した銃乱射事件だ。『ジョーカー』の公開にあたり、遺族はワーナー宛ての公開書簡を発表したのである。

現在、『ジョーカー』は『ヴェノム』(2019)を超えて10月公開作品のオープニング興行収入記録を更新する可能性もあると予測されている。このたび米Deadlineは、ワーナーや映画館サイドが、一連の出来事について「恐怖が過剰に高まっている」との見方を示していると伝えた。ロサンゼルス市警によれば、管轄内に明らかな脅威はないとのこと。FBIと国土安全保障省は、現時点で『ジョーカー』に関連する脅威はないと予測しているという。

2019年9月26日(米国時間)、ロサンゼルス市警は『ジョーカー』の公開にあたって以下の声明を発表した。

「ロサンゼルス市警は、『ジョーカー』のプレミア上映にともなう社会的関心と歴史的重要性を把握しております。ロサンゼルス地域に明らかな脅威はありませんが、市警では映画の公開時、映画館周辺に高い注意を払う予定です。みなさんには週末の余暇をすべて楽しんでいただくようお薦めするとともに、その一方で、注意を怠ることなく、ご自身の周囲には常に気をつけていただきたいと思います。いつも通り、不審物を見かけたらお知らせください。」

また米Gizmodoは、米軍がソーシャルメディアにおいて『ダークナイト ライジング』銃乱射事件を参照する不穏な投稿を確認しており、すでに内部向けに警戒を呼びかけたことを伝えている。また、ダークウェブでは『ジョーカー』公開劇場を狙った攻撃を示唆するような投稿も確認されたとのこと。ただし米軍も、ロサンゼルス市警と同じく、現時点で明らかな脅威はないと見ている。あくまでイタズラや仲間内での悪ふざけ、愉快犯的な投稿と理解しているということであろう。

全米映画館主組合(National Association of Theatre Owners)は、『ジョーカー』の公開にあたって、FBIやその他の法執行機関から脅威についての報告を受けてはいないとのこと。各映画館チェーンはそれぞれの基準で警備を実施することになり、Alamo Drafthouse Cinemaは『ジョーカー』の公開週末に警備員の人数を増やすことを発表している。AMC Theatresでは素顔が分からない格好でシアターに入場することを禁じることが強調され(同チェーンでは日頃から禁止されている)、Landmark Theatersでは劇場内でのコスプレが禁止されるという。なお、Alamoを除くチェーンは具体的な対策を発表していないが、いずれも来場者とスタッフの安全を重視し、専門機関と連携しながら警戒にあたるとのことだ。

しかしながら本作は、トッド・フィリップス監督や主演のホアキン・フェニックスをはじめ、作り手の意志からは激しく乖離した形で話題が集まっている感が否めない。監督やホアキンに対しても、インタビューにて「作品が現実の暴力を誘発するのではないか」との問いかけが繰り返されており、すでに2人はそれぞれの答えを述べているのだ。

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一連の状況を受けて、ワーナー・ブラザースは、2019年9月28日(米国時間)に開催されるハリウッドでのプレミア・イベントに、放送・活字を問わず、各メディアの記者の入場を一切認めないという異例の対応を講じた。これにより、マスコミ関係者はカメラマンのみレッドカーペットへの入場が許される。これは会場警備をより厳重に行うためであり、同時に、出演者やスタッフに直接デリケートな質問がぶつけられることを防ぐ意図もあるだろう。もとよりホアキンはメディア対応に消極的であることで知られ、先日「この映画が(主人公と)同じような人々を刺激し、悲劇を生む可能性もあります」との発言を受けた際には、その場で取材を1時間にわたって離席したと伝えられている。

『ジョーカー』はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)を受賞する高評価を受け、ホアキン・フェニックスの演技には「キャリア史上最高」との絶賛も寄せられている。それでも公開直前にして激しい反応がみられる現状には、作品の内容以上に、銃乱射事件が頻発するアメリカの情勢や、『ダークナイト ライジング』公開時の銃乱射事件の影響があるのだ。公開後、作品の評価がこうした話題から切り離された上で行われること、また興行面や賞レースへの大きな影響が出ないことを願うばかりである。

なお、『ジョーカー』を上映する全米第2位の映画館チェーンRegal Cinemasは、まず人々の安全を優先するという方針を示しながら、「私たちは、いかなる映画の存在や内容も、暴力の原因やきっかけになるとは考えていません」とのメッセージを打ち出した。

映画『ジョーカー』は2019年10月4日(金)日米同日、全国ロードショー

Sources: Deadline, Variety(1, 2), Gizmodo, EW

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。