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【ネタバレ】『ジョーカー2』考察 ─ 偶像崇拝と幻滅の後日譚

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

この記事には、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のネタバレが含まれています。

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

リーがアーサーに期待したように、アーサーもリーに期待し、最後には残酷なすれ違いを生んだ。これとよく似たように、観客と映画の間にも期待の乖離が起こった。本国での初週末興収は3,768万ドルで、このジャンルの不振の象徴となってしまっている『モービウス』(2022)3,900万ドルをも下回る。レビューサイトでは、批評家からも観客からも、不支持の声の方が多いのが実情だ。

「『アクアマン』であれ『ジョーカー』であれ、億ドル級ヒットの映画の続編を作るのは賢い賭けだと考えられている。しかし、フェニックスに2,000万ドル、フィリップスに2,000万ドル、ガガに1,200万ドルという規格外の予算を費やしたことを鑑みると、本作は少なくとも4億5,000万ドルの劇場興収で収支トントンだ。」(Vairety)

なぜ『フォリ・ア・ドゥ』初動はここまで拒絶されたのか。米Varietyは本作のボックスオフィス惨状についてまとめたコラム記事で、DCファン層を「無視したこと」や「軽視したこと」を挙げている。「このジャンルでは、ファンの期待に耳を傾け、注意を払わなければ、失敗することになる」と、実際の製作関係者の声も紹介した。

ここに難しい問題がある。そもそも『ジョーカー』は1作目の時点で、DCコミックスの神話よりも、マーティン・スコセッシの映画をなぞることに積極的だったからだ。あの1作目は、いわば”アメコミ映画”の領域から意図的に軸脚を外していたようなもので、だからこそファン層の外へのアプローチが可能となり、アカデミー主演男優賞、ベネチア金獅子賞といった、従来では到達が難しいような栄誉も与えられた。

ジョーカー
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

本作でその姿勢が変わったわけでもない。若きハービー・デントがトゥーフェイスとなるオリジンを与えるといったコミックファンへの目配せはサイドクエスト的にこなしつつ、ハーレイ・クインの扱い方は明らかにコミックからは離れた独自路線。手法としては前作を踏襲した、正しいと言えば正しい続編をフィリップスは作った。ただ、主人公にさらなる力を与えるのではなく、その力を奪い、制裁を下すという道を選んだ。

それによってこの映画は、前作の続編というより、延長線という方がふさわしい仕上がりになった。そこでは自ら作り出したピエロの象徴によって破滅に追い込まれた哀しき男の後日譚が語られ、彼の空虚な素顔が明らかになると共に、社会や人々が残酷な反応を示す様子が描かれる。この幻滅こそが映画の核心なのであり、偶像崇拝の危険性や皮肉を我々に示す。

とりわけ、前作では日本でも実際の刺傷事件へ影響してしまった以上、この幻滅はあるべくして生み出されたのかもしれない。だからといって、筆者はそれを受け入れるべきだと主張しているわけでは全くない。フィリップス監督が偶像崇拝と幻滅をこの映画でどのように扱ったかは非常に興味深いが、そのことと、この期待作を観たあなたがどう感じたかは別であって良い。

そして我々がジョーカーの狂った夢から醒め、いっせいに彼の元から離れた時、そこにはアーサー・フレックという哀れな男の残骸だけが残る。フィリップスはこう語る。

「哀しきことに、彼はアーサーなのであり、誰もアーサーなんて気に留めないのです。」

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

Source:IGN,Variety

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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