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『キングコング:髑髏島の巨神』監督、ベトナムで暴行され重傷を負っていた ― 犯人は逃走、自ら調査を実施

キングコング:髑髏島の巨神
©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

映画『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)を手がけたジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督が、2017年9月、ベトナム・ホーチミン市(サイゴン)のナイトクラブにて激しい暴行を受け、頭蓋骨骨折などの重傷を負っていたことがわかった。

2018年7月に刊行された米GQ誌では、ロバーツ監督の受けた暴行や、彼自身がその犯人を追った経緯が、監督とともに事件の真相を究明したジャーナリストのマックス・マーシャル(Max Marshall)氏によって報告されている。本記事では、その内容の要旨をお伝えしたい。

キングコング:髑髏島の巨神
©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ナイトクラブでの暴行事件

『キングコング:髑髏島の巨神』の撮影でベトナムを訪れたジョーダン監督は、2017年3月にアメリカ人としては初めてベトナム観光大使に就任。当時ハリウッドでの活動に息苦しさを感じていたジョーダン監督は、再び大作映画を撮るのではなく、観光大使としての仕事に精力的に取り組んでいた。ベトナムに旧知の映画関係者を招くことを計画、観光会議に出席し、現地の観光ビデオを制作するなどしていたという。のちにジョーダン監督は、アメリカを離れてホーチミン市に移住している。

2017年9月9日、ホーチミン市のナイトクラブ「XOXO」を友人らとともに訪れていたジョーダン監督は、未明に二人の屈強な男性から暴行を受けた。突如顔面を殴られて倒れたところ、身体を激しく蹴られ、大きな酒瓶で頭部を殴打されたのである。監督に暴行を加えた二人と、男たちの属するグループは暴行のあとクラブから逃げ去ってしまった。

GQ誌には監視カメラに記録された映像をもとに、暴行の具体的な様子や、それ以前に二人の男性が監督のテーブルで嫌がらせをしていたなどの経緯が記されている。このとき監督を助け出したのは、同席していた『キングコング:髑髏島の巨神』のスタントマンであるイルラム・チョイ氏。取材に対してチョイ氏は「ジョーダンは死にかかっていました。けれども、誰もなにもしなかった」と振り返っている。

ジョーダン監督への暴行事件は9月11日にベトナムのニュースサイトにて報じられた。現地の病院で検査を受けたところ、ジョーダン監督は打撲や出血のほか、頭蓋骨骨折、大脳に空気が入るなど重篤な状態であったことが判明。しかし10日間の入院措置を受ける中、監督は自らを暴行した人物の正体を突き止めようと動き始めている。ところが現地の犯罪などに詳しい人々は、みな「誰がやったのか、深追いしないほうがいい」との反応を示したという。彼らは守られているし、その手は世界に広がっているから、と。

9月20日、脳の後遺症が生涯にわたる可能性を医師から伝えられたジョーダン監督は、アメリカの自宅に戻って複数の医師による診察を受けている。そこで伝えられたのは、彼が脳しんとうを起こしていたこと、ベトナムの病院で判断された以上に危険な状態であったことだった。ジャーナリストのマーシャル氏に対して、監督は「ほとんど殺されかけていた」「僕は限りなく死に近づいていたんだ」とのメールを送っている。暴行から数週間が過ぎても、目まいや頭痛といった症状はおさまらなかった。

暴行の犯人はドラッグの売人か

その後、ジョーダン監督はベトナムの友人やクラブの客と連絡を取りながら、犯人を見つけるため積極的な行動に出ている。彼が最初に受け取った情報は、犯人は地元の人間ではなく、ドラッグの売人をしているベトナム系カナダ人である可能性が高いということだった。二人の犯人はともに「クオン」と呼ばれており、彼らが属するグループは、カナダ・バンクーバーからベトナムへ逃れ、ドラッグの販路を拡大しようとしている一団だとみられたのである。

のちに複数の情報源から、ジョーダン監督を襲った男の一人がケン・クオン・マン・グエンという人物であったことが判明する。ケン・クオンはただのチンピラではなかった。1999年にバンクーバーのナイトクラブにて敵対するギャングを殺害し、王立カナダ騎馬警察から指名手配を受けている男だったのだ。

監督とジャーナリストのマーシャル氏は、その後、ベトナムの組織犯罪に深くかかわる人物についての調査を続け、この人物に関するいくつかの情報を得ている。ケン・クオンが「チャイナ・ボーイズ」というカナダの巨大ギャング・チームに身を置いていたこと。前述した殺人事件で逮捕され、2012年に仮釈放を受けていること。そして2015年、仮釈放中に訪れたベトナムで姿を消したということだ。
さらにバンクーバー警察によれば、ケン・クオンは「国際連合(United Nations)」と呼ばれる巨大麻薬シンジケートとつながっていたという。グループのリーダーの一人は、ベトナムに拠点を構え、現地の麻薬抗争を裏で操っているというビリー・トラン。「ドラッグで数百万ドルを稼いだ男」と呼ばれる、世界で暗躍する売人である。

2017年9月27日、ジョーダン監督はベトナム観光大使として、暴行事件に関するコメントを発表している。そこには、事件がベトナムに対する愛情に影響を与えることはないということ、また、犯人がベトナムという国や国民を代表するものではないこと、そして権力が正義を行うことに全幅の信頼を抱いていることが記されていた。

しかし数ヶ月が経過しても、ケン・クオンではないもうひとりの犯人の手がかりはつかめないままだった。後遺症がおさまらず、事件のトラウマに苦しめられる中、ジョーダン監督とマックス氏はベトナムへ戻ることを決意する。

もうひとりのクオン

ベトナムにて聞き込みや調査を実施したジョーダン監督とマックス氏は、ある有力な情報を入手する。犯人である二人のクオンが乗っていたとみられるメルセデス・ベンツには、「6666」というナンバープレートが付けられていたというのだ。その番号は、麻薬シンジケートのリーダーであるビリー・トランやその一味の居住する地区を示していた。しかし情報源の人々は、犯人を特定することは難しいだろうと口を揃えたという。周囲を嗅ぎ回って暴力の餌食になることを恐れているように思われた、とマックス氏は記している。

ところが、依然として行方のつかめない「もうひとりのクオン」の正体は思わぬ形で発覚する。事件当日、ナイトクラブにて記録された映像による犯人ふたりの写真をマックス氏が王立カナダ騎馬警察へ提出したところ、バンクーバーでギャングの捜査をしていたという元警官の男性から情報が入ったのだ。その人物の見立てによれば、ひとりは確かにケン・クオン。そしてもうひとりはヴェト・クオン・トラン。なんと、それは巨大シンジケートのリーダーであるビリー・トランの別名だというのだ。その真相に直面した際の印象を、マックス氏はこう綴っている。

「私たちはビリー・トランが関わっているなんて夢にも思っていなかった。追っているのは手下であって、国際的犯罪組織のボスだとは思っていなかったのだ。」

ジョーダン監督は、その後も「もうひとりのクオン」が本当にビリー・トランだったのかについて調査を実施するなど、マックス氏と共同で事件の解決に向けて取り組みを続けている。
そんな中、2018年6月に事態は急展開を迎えた。ケン・クオンが麻薬組織への関与によってインドで逮捕されたのだ。この知らせを受けたジョーダン監督は、喜びのメールをマックス氏に送っている。ケン・クオンはインドにて12年間の懲役を受けるか、カナダかベトナムへ引き渡されるとみられている状況だ。しかし「もうひとりのクオン」が本当にビリー・トランだったのかは判然とせず、監督の身に起こった出来事は真の解決をまだ迎えていない。

米GQ誌の報告には、本記事で要約したジョーダン監督への暴行事件やその後の経緯とともに、彼が事件によって受けた傷を少しずつ癒やしていく様子や、自分自身の抱える葛藤に相対していく様子が克明に記されている。全文英語の長い文章ではあるが、ご興味がおありの方は、ぜひお目通しいただければ幸いである(GQ 2018 July “Attack on Skull Island”)。

今後、ジョーダン監督が次の映画をいつ手がけるのか、拠点をどこに構えるのかはわからない。ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズの実写映画化を手がけるとの情報もあるが、こちらの動向は続報を待つほかないだろう。一人の映画ファンとしては、監督の心身が一刻も早く全快することを心からお祈りするばかりである。

ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督作品『キングコング:髑髏島の巨神』ブルーレイ&DVDは現在発売中。

Sources: GQ, Vancouver Sun
©2016 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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