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【レビュー】バットマン最新アニメ映画『バットマン:キリングジョーク』ガッカリ部分と好きな部分

今最もアツいDCEU映画『スーサイド・スクワッド』の公開を控えていたり、続々と新しい情報も公開されたり、なにかと話題に欠かないDCコミックス関連ですが、こちらの記事では、原作コミックはファンから高い人気を誇り、先日コミコンで初公開され、その数日後からBlu-Ray発売まで全米で期間限定の劇場公開もされて、ただいま日本語版でも手に入る『バットマン:キリングジョーク』をレビューします。

『バットマン:キリングジョーク』

「DCユニバース・オリジナル・ムービー」というDCのアニメ部門から2016年8月公開の最新のバットマンのアニメ映画の一本。

あらすじ

〔前半〕

バットガール/バーバラ・ゴードンはバットマンとともに街を守るヒーローとして活躍しています。彼女はヒーローとして、一人の女性として、自分の在り方と師であるバットマンとの関係性に悩みます。ある事件をきっかけに大物マフィアの放蕩息子に目をつけられ、ゴッサムの街を彼女自身を危険にさらします。そしてこの事件を解決した後、しばらくバーバラはバットガールを休業します。

〔後半〕

バットマンがまた一匹狼に戻ったある日、アーカムにいるはずのジョーカーによる犯罪と思わしき事件が起こり、実際にジョーカーは脱走していた。今回の脱走はいつもとは違った目的があるらしく、バットマンは調査に乗り込みます。ジョーカーはバットマン警察本部長のジム・ゴードンとその娘でバットガールのバーバラを餌にバットマンをおびき出します。ジョーカーの目的とは、ジョーカー自身がほかの誰ともそこまで違いはなく、こんなにも狂ってしまうのは実に簡単なことであると証明するためでした。

レビュー

原作コミックの『キリングジョーク』はとてもファン人気が高い作品の一つ。また、今回の映像化にあたっては、声優陣に、二人とも昔から同役の声優を務めていた、バットマンとしてケヴィン・コンロイ、ジョーカーとしてマーク・ハミル(スターウォーズのルーク・スカイウォーカーの俳優)が再び演じることとなって、話題になりました。そしてもう一つ、この作品に対する期待値をあげる要因として、この作品は本国ではR18指定を受けている、ということです。日本では「*不快な描写が…」との注意書き程度で、特に日本用のカットはされてない模様ですが。本国でR18指定を受けていれば、この作品はとてもバイオレントでダークな一本になることは間違いない、と期待ができます。 上記の点が、『バットマン:キリングジョーク』を観る前に期待できること。 レビューするにあたって、筆者はこの原作コミックを読んでいないことと、アニメのバットマンを多くは観ていないということで、バットマンやジョーカーというキャラクターには愛着があるものの、コミックファンならではの視点や、声優が戻ってきたことに対するノスタルジア的な視点は一切持ち合わせず、この『バットマン:キリングジョーク』を一本の映画として鑑賞するという前提でレビューします。

結論から言うと、期待にはそぐいませんでした。時はもうグラフィックが進化しきっている2016年で劇場公開もされるR18指定のバットマンということで、期待は大きくなりすぎていましたが、ちょっと残念なところが目立ちました。それでも、好きな部分、評価できる部分はあるので、良かった点、悪かった点を前後編に分けて紹介します。前半は否定的な意見が多く、後半は良い点が多いので、ネガティブな意見をあまり気にしたくない方は後半のレビューを読んでください

前半、バットマン&バットガールのパート

前半は、バットガール/バーバラ・ゴードンが主人公と言っていいでしょう。彼女を演じていたターラ・ストロングはバットガールとバーバラをうまく分けながらちゃんと一人のキャラクターとして離れすぎることのないよう演じられていて良かったし、キャラクター自体には好感が持てました。以上、これが前半でよかった点です

前半における他の点は色々と支離滅裂でした。 まずは、映像について。これを本当にアメリカでは劇場公開したのかと疑いたくなるほどのレベルの映像です。日本の地上波でお金を払わずに見れるアニメの方がアニメーションの質が良いとまで思えます。ものすごくひどすぎる、作画崩壊ということではありませんが、2016年なのにお粗末だなと思ってしまいます。
劇場レベルでは到底なく、お家で見るにもちょっと粗さが目につくがBlu-Rayスルーのクオリティならまあ納得はできる。そんな映像のアニメーションです。前半のアクションシーンやカーチェイスシーンは映像から緊迫感や爽快感などが全く伝わってきませんでした。

次にストーリーについて。せっかくよく演じられているのに、脚本の問題で好感は持てても、感情移入まではできません。ヒーローものでは定番の表の顔と裏の顔、という風に描いて行きます。バーバラの裏と表の顔を使って女性向けロマンティックコメディものの型にも押し込めます。その結果、このパートは女性向けロマコメの特に出来の悪い類を見ているようでなりませんでした。マフィアの放蕩息子はバーバラ惚れていて、バーバラにはバットマンのことを思う気持ちがあるってそれは一方通行、だが、バットマンはバーバラと彼が戦うことすら快く思わない嫉妬をする、という三角関係になります。バーバラとマフィアの息子の好意にもバットマンの嫉妬にも説得力・信憑性がないので、ロマコメに見せたいなら失敗しています。
何よりもバットガールパートを悪く見せてしまっているのが、バーバラの親友として現れる恋愛相談に乗るゲイのキャラクターです。特に作品名は上げませんが、女性向けのロマコメに出来が良く、男性も楽しめるものはたくさんあり、その中にも時折このタイプのゲイのキャラクターが効果的に出てきたりするので、見せ方がよければ、このフォーマットは面白くなるはずなのです。
しかし、『キリングジョーク』の前半では、全く効果的に映っていませんでした。暗くなりがちなバットマンでこのゲイのキャラをコミックリリーフに見せようというのは伝わるのですが、作品の空気にあっていません
そのキャラクターは自らをゲイだと説明的にしゃべるシーンがあるのですが、2016年に大人にターゲットを絞っている作品ならば、そのくらい説明しなくとも理解はできると思います。製作側が、なぜわざわざこのキャラクターをゲイにしたのか理解に苦しみます。(ちなみに誤解が怖いので書いておきますが、筆者はゲイ差別などは全くしておりません。むしろLGBTの権利などを支持する考えを持っています。)

また、このロマコメパートでもう一つ納得できないのが、バットマンが街をパトロールしていたバットガールにコーヒーを差し入れするシーンです。納得のいかない理由の一つに、この演出がロマコメのステレオタイプすぎる点。もう一つは、普通に考えてバットマンがスーツのままコーヒーショップに行く訳がないという点です。もし、ヒーロー活動中ではない時間にブルースがバーバラに差し入れをするならが、少し忘れられかけている設定ですが、ブルースのプレイボーイさが垣間見えて説得力がある気がします。しかし、ここでは二人ともヒーローのコスチュームを着たままビルの屋上でコーヒーをすすりながら喋っているのです。製作側はこれがどんなに馬鹿げた状況か考えなかったのでしょうか。

そして、バーバラのロマコメと並行して、バットマン&バットガール対マフィアの戦いのストーリーがあります。こちらのサイドもあまり良いものではありませんでした。バットマンという作品では肉弾戦もさることながら、心理戦も非常にサスペンスフルで頭を捻りながら見るのが楽しいものです。しかし、そのようなサスペンスは前半にはありませんでした。
伏線も分かり易すぎて、回収されても「いや、そうなるのわかってたし…」と全く感心できません。追っている敵がまあまあなサイコパスである、と説明が入るのですが、こちらとしてはバットマンとジョーカーの心理戦を期待していたので、このマフィアのボスの自信過剰ナルシー放蕩息子程度の精神異常者では「こんなのはかわいいもんだ」とまではいきませんが、結局のところスリルを感じられません。そして前述のとおり、アクションシーンも出来の良いものではないので作品がダレてしまいます。

ここまでR18と思われる描写は一切出てきません。またネタバレになる恐れがあるのでここで詳しく書くのは避けますが、バットマンとバットガールが経験することはPG13の域を出ない描写で収まります。

後半、ジョーカーvsバットマンのパート

こちらはノーラン版バットマン『ダークナイト』でもおなじみのジョーカーvsバットマン、とその間に入るジェイムズ・ゴードンという構図で展開されます。そしてこの3人がゴッサムシティにとってどのような存在であるのか、を再定義するような、深いテーマまで見せます。 マーク・ハミルのジョーカーとしての演技は鬼気迫るものがあり圧巻の一言でした。画面にジョーカーが登場し話しているだけで、大きな緊張感が生まれます。ジョーカーというキャラクターが好きという感情を指し抜いても、この演技から生み出される張り詰めた空気は素晴らしいものだといえます。
またケヴィン・コンロイ演じるバットマンも相手がジョーカーとなると、そこにはケミストリーが生まれ、前半で三流の悪党を相手にしているのとは違った焦燥感や強いが歪んでもいる正義感が演技でもよく表れています。

後半のジョーカーパートでのアニメーションは前半ほど酷くはないといえます。それは、こちらがジョーカーとバットマンの心理的な戦いに重きを置き、派手なアクションが控えめになっていて、演出と演技で作品の質を高めているので、絵をたくさん動かす必要がないからでもあります。しかし、原作を読んでなくともわかる、コミックのカット割りをそのままの流用して、原作にあるであろう緊迫感が、画面を見るだけでも生まれるようになります。

『キリングジョーク』の後半のストーリーで良い点は、ジョーカーにしっかりとしたオリジンストーリーが与えられているところです。彼がどうしてあんなに狂ってしまったのか。また、執拗にバットマンをつけ狙う理由はなんであるのか。明確なオリジンストーリーがあることによって、ジョーカーの行動に強い理由付けがされます。ジョーカーのオリジンはもともと三流の犯罪者とかマフィアの下っ端などが多い中、『キリングジョーク』では貧乏で売れないコメディアン、しかも妊婦の所帯持ちといういたって普通に近い人物像になっています。そこから狂うに至った出来事がフラッシュバックで描かれます。

もう一つ、筆者は大変気に入ったが、賛否両論あって仕方がない、むしろ否定されても仕方がないと思えるシーンがあります。それは、ジョーカーによるミュージカルシーンです。怪しげだが妙に明るいサーカスの曲調に乗せてジョーカーと彼の仲間で犯罪者のフリークスたちが踊って歌うのです。起こっている状況と怪しくも楽しげな歌のギャップが狂気の沙汰の極みへ達しています。

ティム・バートン映画のファンならば、バットマン、フリークス、ミュージカルの組み合わせはたまらないでしょう。ただ、ミュージカルシーンは唐突すぎるので、頭に「?」が浮かんだままになってしまう人もいるでしょう。

『キリングジョーク』におけるベストなことは、ジョーカー、バットマン、ゴードンの立ち位置の再定義でしょう。表向きはジョーカーは悪で、バットマンとゴードンは正義という構図です。しかし、ジョーカーとバットマンは表裏一体のような関係で法律を無視した活動しているバットマンを犯罪者たらしめないのはゴードンという揺るぎない良心があるから、という構図です。ジョーカーとバットマンは両者とも狂気に触れ、犯罪・人殺しという一線を越えたのがジョーカー、一線は越えず正義でありながらも闇であるというバットマン。この両者の対立が見事に表現されていました。 後半にもバーバラは2シーンほど出てきますが、前半に起こったこととは一切関係がありません。彼女が登場したシーンの一つはプロットディバイスとして、もう一つはイースターエッグ的なファンサービスとしての登場です。前半で30分近く使って描いたことの帳尻合わせは全くありませんでした。

また、R指定のような表現は、あまり見当たらりません。ゴードンのおじさんヌード、フリークスのビジュアルが少々ショッキングかもしれないという程度で、Fワードなどの強い口調も見られず、R指定にするほどのものは見受けられませんでした。

まとめ

前半はバットガールの声優によるパフォーマンス以外はあまり評価できるものはありませんでした。 しかし後半はというと、派手なアクション以外のバットマン映画に期待できることはおおむね期待通り、また予想もしてなかったミュージカルなども含め、しっかりバットマンとして楽しめる作品となっていました。 前半と後半の整合性は全くないこと、本国ではR18指定されているのにもかかわらず、ビジュアル的にも言葉遣い的にもPG13の域を出る者がないこと、これら期待外れな点でした。 ノーラン版バットマンの哲学的なところ、バートン版バットマンの少し荒唐無稽なところが好きであれば、後半は大いに見る価値があるといえます

まとめ、とは言ったものの、この下でネタバレありで2点、一つは、前半のツッコミどころについて、もう一つは最後のシーンの解釈について、一言ずつ書かせてもらいます。既に『バットマン:キリングジョーク』をご覧になった方、ネタバレを気にしない方はこの先に進んでください。

前半ツッコミどころ

バットガールとバットマンの関係性ですが、バーバラの好意の末に二人はコスチュームのままセックスをします。キスのあとの直接的描写はないが、のちのセリフで行為に及んだことが言及されます。この点が一番意味不明です。バットマンとバットガールの関係性は師弟関係であり、擬似の父と娘の関係性のはずです。百歩譲って、このセックスを除くバットガールパートのすべて許すとして、この行為はキャラクターの意図も製作側の意図も全く読み取れませんし、真っ向から否定します。

ラストシーン

バットマンとジョーカーの決戦の末、二人はなぜか落ち着き、ジョーカーが狂った2人の精神病者についてのジョークを言い、オチを言ったら二人で狂ったように大笑いする、という終わり方です。しかし、笑い声が2人のものから、ジョーカーの声が止まり、バットマンだけが笑って終わるのです。ここで示唆されるのは、どんなに異常で凶悪な犯罪者でも、人を殺さないという掟を持ったバットマンが、ついにジョーカーを殺害したのではないか、ということです。解釈は完全に視聴者に任されたいます。筆者はバットマンが殺しをするわけがないと思いながらも、このあまりにも明らかな演出をされると、疑いが濃くなっていくばかりです。皆さんはどう思われるでしょうか。

Writer

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Nao C.V.Nao Goto

パンクロックと映画が好きです。ストレートエッジになりたいのに、ストーナーフィルムに憧れています。ヴィーガンです。スタンドアップコメディアンもやってます。