韓国歴代NO.2映画『国際市場で逢いましょう』から考える韓国の現代史と精神性
「君の名は。」の興行収入が200億円を突破し、「ハウルの動く城」を抜いて邦画歴代2位の偉業を打ち立てました。大変喜ばしいことですが、お隣韓国の歴代興行収入2位の映画は何かご存知でしょうか?答えは2014年公開のヒューマンドラマ「国際市場で逢いましょう」です(ちなみに第1位は同じく2014年公開「バトル•オーシャン」。秀吉の朝鮮出兵に抵抗した李氏朝鮮の戦いを描いています)。
ポスターを見てもなぜこんな地味そうなドラマ映画が?と思うことでしょう。ですが、実際に作品を見ればわかります。極めて”国民的”な物語になっているからです。もしかしたら、いまニュースで見る韓国の政治スキャンダルも、この映画を理解の手がかりにすることができるかもしれません。浅学ながら、僕なりに解釈した「国際市場で逢いましょう」の見方をまとめてみました。
大国に振り回され続けた韓国の過酷な歴史
タイトルにある国際市場(いちば)とは釜山にある名物市場で、たくさんお店が立ち並ぶ観光名所です。元々のルーツは朝鮮戦争で北部から避難してきた人々の開いた闇市であり、戦後、韓国が独立してから豊かになるまでをずっと見守ってきた歴史的なスポットでもあります。
本作はその国際市場で叔母から受け継いだ店を守り続ける老人ドクスがこれまでの人生を振り返る話となっています。ドクスの人生は韓国の現代史とイコールの関係です。彼は朝鮮戦争で父と妹と生き別れ、家族を支えるために西ドイツの炭鉱やベトナム戦争への出稼ぎで命をかけ、数多の苦労の末に幸せで温かい家庭を築いていくのですその過程はまるで現代史の教科書をたどるようであり、また、ドクスという男の人生が刻まれたアルバムのページを一つずつめくるようでもあります。
「国際市場で逢いましょう」は さしずめ、韓国版「フォレストガンプ」と言ったところでしょうか。「フォレストガンプ」は戦後アメリカがベトナム戦争や公民権運動など激動の時代を経て世界一の豊かさを誇る国になっていくまでを、フォレストガンプという一人の男の人生に仮託して描くハリウッド映画です。
しかしながら、「フォレストガンプ」と「国際市場で逢いましょう」は映画として雰囲気が大きく異なります。それは、本作が韓国現代史の悲しく残酷な面を徹底して見つめているからです。あまり直接的に触れられるシーンは多くありませんが、ドクスの人生には常に「アメリカ」「中国」「日本」の影が大きくちらつきます。朝鮮(南北の分断は終戦後なのでこう表現します)は有史以来常に近隣の大国の意向に大きく左右されてきました。朝鮮の歴代の為政者は世界史の大きな流れを注意深く読み、どこにつけば最も自国の利益となるのかをいつだって考えなければならなかった歴史があります。朝鮮は基本的に中国の冊封体制下にあったのですが、時に日本、時にロシアに接近して、したたかに振舞いました(振り回されていたとも言えます)。最近もアメリカと中国の間を行ったり来たりして、どちらにつくのが美味しいポジションなのか伺っている感じがしますよね。悪く言えば「長いものに巻かれろ」な事大主義ではあるのですが、これは常に争いの絶えない東アジアのど真ん中に位置してしまった韓国の地政学的な悲運なのです。
そして家族のためひたすら戦争に向かうドクス自身、厳しい試練を乗り越えてきた韓国に生きる人間として大きな歴史の波に揉まれる不運な男であると言えます。また、だからこそ、豊かな暮らしを享受するドクスの子や孫たちの笑顔がより一層尊く、輝いて見えます。
ドクスの生き様に見る韓国人の儒教的価値観
ドクスは朝鮮戦争で悲劇的な別れを経験した後、避難先の韓国で比較的安定した暮らしを手に入れたにも関わらず、西ドイツの炭鉱やベトナム戦争へ出稼ぎに赴きます。彼は危険な場所に行き、何度も死にかけ、最終的には真っ直ぐ歩けなくなってしまいます。しかも西ドイツへの出稼ぎに行く理由は、弟と妹の学費を払い、母親たちと住む一軒家を買うため、ベトナム戦争に向かった理由も叔母の店を守る(そして妹の結婚資金を拠出する)ため…すべて家族のためです。自分のためではありません。念願の大学入学が目の前にあっても、最愛の妻が泣き叫んで止めても、彼は戦場に向かいます。なぜでしょうか?
おそらく、それは韓国の人々が儒教的な価値観を重んじ、血縁をとても大切にしているからです。ドクスは父親亡きあと一家の主として家族を養う義務を負います。そのために彼は私を捨てて、家族のために世界中を飛び回ります。また家族もそんなドクスを頼り、学費から結婚資金まで、何でもかんでも彼に背負わせてしまいます。
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