【ネタバレ】『ラ・ラ・ランド』ラスト徹底解説 ─ エンディングの意味、監督の意図、影響を与えた映画とは

映画『ラ・ラ・ランド』はロサンゼルスを舞台に、二人の男女が恋愛とそれぞれの夢、葛藤を歌い踊るミュージカルだ。アカデミー賞をはじめ多くの映画賞に輝いた本作は、同時に全世界で賛否両論を呼んだ一本でもあった。その大きな理由は、作品の結末にもあるだろう。
本作の劇場公開当時、脚本・監督のデイミアン・チャゼルやプロデューサーのフレッド・バーガー氏らは本作のラストについてインタビューなどでしばしば語っていた。製作の初期段階から決まっていたというラストの展開は、「何があっても変更しない」という強い意志をもって取り組まれたもの。その意味や作り手たちの真意を、いくつもの発言から解剖してみたい。
この記事には、映画『ラ・ラ・ランド』の重大なネタバレが含まれています。

監督たちがこだわった結末
『ラ・ラ・ランド』の主人公は、スタジオのカフェで働きながら女優を目指しているミア(エマ・ストーン)と、売れないジャズミュージシャンだが、いつか自分の店を持ちたいと夢見る“セブ”ことセバスチャン(ライアン・ゴズリング)。あるパーティーで知り合った二人は恋に落ちるが、やがて自分の夢を求めることですれ違うようになっていく。やがてセブとミアは道を分かち、出会ってから5年後の冬、女優として活躍していたミアは別の男性と結婚し、二人の間には子どもも生まれていた。
ある日、ミアは夫とともに、偶然にもセブの開く店を訪れた。ミアの姿に気づいたセブが思い出の曲を弾き始めると、そこには実際にはなかった、しかしありえたであろう二人の過去が浮かび上がってくる。もしも、セブとミアが別れずに結婚していたら。もしも、二人の間に子どもが生まれていたら。セブが曲を弾き終わったあと、ミア夫妻は店を出ていく。わずかな時間だけ二人は視線を交わし、セブはミアの姿を見送るのだった。

もともと『ラ・ラ・ランド』の企画が始動したのは、デイミアン・チャゼル監督の前作『セッション』(2014)よりも以前のこと。しかし、当時無名のチャゼル監督や音楽家のジャスティン・ハーウィッツによるオリジナルのミュージカルであること、いまや大人気とは言いがたいジャズを扱う物語であることなどから、監督の希望に沿う形で企画に出資するスタジオは見つからなかったという。製作の実現につながったのは、『セッション』が高く評価されたことだったのだ。
チャゼル監督によれば、『ラ・ラ・ランド』の結末は製作の一番最初から決まっていたものだという。しかし資金調達に苦戦していたころ、チャゼル監督やプロデューサーのフレッド・バーガー氏には“結末を変更せよ”との要求もあったそうだ。フレッド氏は当時を振り返って、チャゼル監督と出会ったころから「結末は変えない」との意志を固めていたことを明かす。
「二人とも結末には大きな自信がありましたし、このビジョンを守ることに大きな責任を感じていました。とても明確で力強いものだったからです。製作初日から――『セッション』よりもずいぶん前ですが――彼(チャゼル)は本物の才能だったし、映画に対するビジョンを強く持っていました。困難かもしれないが、やり遂げなければならないと。
(プロデューサーの)ジョーダン・ホロウィッツとデイミアン、それから僕の間では、何があってもラストで二人をくっつけることはしないと決めていたんです。[中略](結末を)変更するよう求められたことは、それだけ独創的で新しい内容なんだと、僕たちの自信を強くしてくれました。」
「愛情」は三人目の主人公
なぜチャゼル監督たちは、セブとミアの恋愛を幸せな形で終えようとしなかったのか。『ラ・ラ・ランド』公開当時、チャゼル監督はラブストーリーに対する自身の考え方を語っていた。その言葉からは、監督が結末で最も大切にしていたのが“セブとミア”ではなく“二人の愛情”だったことがわかってくる。
「僕は、恋人たちが最後に結ばれないラブストーリーが大好きなんです。とてもロマンチックだと思うんですよ。歴史に残る優れたラブストーリーが、ほとんどハッピーエンドでないことには理由があると思います。つまり愛の物語を描くのなら、愛は登場人物よりも大きな存在でなければならないんです。」
チャゼル監督は『ラ・ラ・ランド』を執筆するうえで、ミアとセブが育む愛情を「その後も生き続けていく、三人目の登場人物」として捉えていたという。「たとえ二人の関係そのものが終わってしまっても、二人の愛情に終わりはありません。愛情は続いていく、それこそが美しいんです」。