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【ネタバレ】『ラ・ラ・ランド』ラスト徹底解説 ─ エンディングの意味、監督の意図、影響を与えた映画とは

映画『ラ・ラ・ランド』はロサンゼルスを舞台に、二人の男女が恋愛とそれぞれの夢、葛藤を歌い踊るミュージカルだ。アカデミー賞をはじめ多くの映画賞に輝いた本作は、同時に全世界で賛否両論を呼んだ一本でもあった。その大きな理由は、作品の結末にもあるだろう。

本作の劇場公開当時、脚本・監督のデイミアン・チャゼルやプロデューサーのフレッド・バーガー氏らは本作のラストについてインタビューなどでしばしば語っていた。製作の初期段階から決まっていたというラストの展開は、「何があっても変更しない」という強い意志をもって取り組まれたもの。その意味や作り手たちの真意を、いくつもの発言から解剖してみたい。

この記事には、映画『ラ・ラ・ランド』の重大なネタバレが含まれています。

ラ・ラ・ランド
La La Land © 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

監督たちがこだわった結末

『ラ・ラ・ランド』の主人公は、スタジオのカフェで働きながら女優を目指しているミア(エマ・ストーン)と、売れないジャズミュージシャンだが、いつか自分の店を持ちたいと夢見る“セブ”ことセバスチャン(ライアン・ゴズリング)。あるパーティーで知り合った二人は恋に落ちるが、やがて自分の夢を求めることですれ違うようになっていく。やがてセブとミアは道を分かち、出会ってから5年後の冬、女優として活躍していたミアは別の男性と結婚し、二人の間には子どもも生まれていた。

ある日、ミアは夫とともに、偶然にもセブの開く店を訪れた。ミアの姿に気づいたセブが思い出の曲を弾き始めると、そこには実際にはなかった、しかしありえたであろう二人の過去が浮かび上がってくる。もしも、セブとミアが別れずに結婚していたら。もしも、二人の間に子どもが生まれていたら。セブが曲を弾き終わったあと、ミア夫妻は店を出ていく。わずかな時間だけ二人は視線を交わし、セブはミアの姿を見送るのだった。

ラ・ラ・ランド
La La Land © 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

もともと『ラ・ラ・ランド』の企画が始動したのは、デイミアン・チャゼル監督の前作『セッション』(2014)よりも以前のこと。しかし、当時無名のチャゼル監督や音楽家のジャスティン・ハーウィッツによるオリジナルのミュージカルであること、いまや大人気とは言いがたいジャズを扱う物語であることなどから、監督の希望に沿う形で企画に出資するスタジオは見つからなかったという。製作の実現につながったのは、『セッション』が高く評価されたことだったのだ。

チャゼル監督によれば、『ラ・ラ・ランド』の結末は製作の一番最初から決まっていたものだという。しかし資金調達に苦戦していたころ、チャゼル監督やプロデューサーのフレッド・バーガー氏には“結末を変更せよ”との要求もあったそうだ。フレッド氏は当時を振り返って、チャゼル監督と出会ったころから「結末は変えない」との意志を固めていたことを明かす。

「二人とも結末には大きな自信がありましたし、このビジョンを守ることに大きな責任を感じていました。とても明確で力強いものだったからです。製作初日から――『セッション』よりもずいぶん前ですが――彼(チャゼル)は本物の才能だったし、映画に対するビジョンを強く持っていました。困難かもしれないが、やり遂げなければならないと。

(プロデューサーの)ジョーダン・ホロウィッツとデイミアン、それから僕の間では、何があってもラストで二人をくっつけることはしないと決めていたんです。[中略](結末を)変更するよう求められたことは、それだけ独創的で新しい内容なんだと、僕たちの自信を強くしてくれました。」

「愛情」は三人目の主人公

なぜチャゼル監督たちは、セブとミアの恋愛を幸せな形で終えようとしなかったのか。『ラ・ラ・ランド』公開当時、チャゼル監督はラブストーリーに対する自身の考え方を語っていた。その言葉からは、監督が結末で最も大切にしていたのが“セブとミア”ではなく“二人の愛情”だったことがわかってくる。

「僕は、恋人たちが最後に結ばれないラブストーリーが大好きなんです。とてもロマンチックだと思うんですよ。歴史に残る優れたラブストーリーが、ほとんどハッピーエンドでないことには理由があると思います。つまり愛の物語を描くのなら、愛は登場人物よりも大きな存在でなければならないんです。」

チャゼル監督は『ラ・ラ・ランド』を執筆するうえで、ミアとセブが育む愛情を「その後も生き続けていく、三人目の登場人物」として捉えていたという。「たとえ二人の関係そのものが終わってしまっても、二人の愛情に終わりはありません。愛情は続いていく、それこそが美しいんです」

同じくプロデューサーのバーガー氏も、本作の結末で一番大切だったことは“セブとミアが結ばれるかどうか”ではなかったことを強調する。

「大切なのは、その後の二人にもずっとお互いの存在があるということ。それぞれの現在地に到達するために、二人にはお互いが必要だった。二人は出会ったことで、もし出会えなかったよりもずっと幸せになっているんです。」

ラ・ラ・ランド
La La Land © 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

セブ役のライアン・ゴズリングとミア役のエマ・ストーンは、この結末にいたる地盤を固めることに大きく貢献したという。たとえばライアンの場合、脚本の段階で、セブの夢について「ミュージシャンとしての成功ではなく、もっと具体的な夢を」と提案。これをきっかけにセブの夢は「自分の店を持つ」という設定へと変更された。また、ミアがセブの店「セブズ」の看板を描くという展開はエマ自身が提案したアイデアだったという。二人は俳優としての視点から、セブとミアの関係を確固たるものにしようと考えたのだろう。

しかしそれゆえだろうか、ミアを演じたエマは「二人が結ばれることは絶対になかったのか、それはわかりません」とも述べている。「二人はお互いの夢に影響を与えあい、それゆえに別れてしまいます。でもそれは、彼らが愛情を軽んじていたということではありませんから」。

なおチャゼル監督は映画の結末について、そしてこの作品のコンセプトについて、このような言葉も口にしていた。

(現実には)ハッピーエンドの後にもいろんな出来事が起こります。それでも同じ思い出を持っている二人がいれば、そこにはとても純粋なものがある。二人の思い出を汚せるものは何ひとつありません。(『ラ・ラ・ランド』では)物事が必ずしもうまくいくとは限らない現実のうえで、かつてのミュージカル映画をやってみたかったんです。」

ラ・ラ・ランド
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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

結末に影響を与えた映画

チャゼル監督は、『ラ・ラ・ランド』の結末に影響を与えた作品をひとつ挙げている。1927年製作のサイレント映画『第七天国』だ。

主人公である下水掃除人のチコ(チャールズ・ファレル)は、貧しい下宿の7階にある自室を「第七天国」と呼んでいた。ある日、チコは姉に虐待されていた少女ディアーヌ(ジャネット・ゲイナー)を救う。チコがディアーヌを「第七天国」にかくまったあと、二人は惹かれあい、そして結ばれる。しかし第一次世界大戦が起こり、チコは戦場へと旅立っていった。帰りを待つディアーヌだったが、彼女にはチコが戦死を遂げたとの報せが届けられる。それでもディアーヌは、チコは生きている、必ず帰ってくると頑なに主張するのだった。

そして物語は、結末において急旋回をみせる。チコが生きていたことが突如として判明し、彼はディアーヌと暮らしていた第七天国へ帰ってくるのだ。戦場で視覚を失ったチコにディアーヌの姿は見えないが、帰りを願っていたディアーヌは「私があなたの目になる」と語りかける。そして二人は抱きしめあい、そのまま画面は暗転していく……。

Image by John Irving https://www.flickr.com/photos/62100938@N02/6851773740

チャゼル監督はこの謎めいた展開と結末について、いくつかの仮説を提示している。一つ目は、スタジオが監督のフランク・ボーゼイギに対してハッピーエンドを要求したという説。二つ目は、この結末はチコの帰りを願っていたディアーヌの妄想で、とうとう彼女は狂ってしまったのだという説。そして三つ目は、チコは本当に死んでしまっているが、結末では生きているという説だ。チャゼル監督は、最後の説を一番気に入っているのだという。

「ふたつの出来事が共存できるのは、女性がそれほど彼を深く愛しているからです。あまりにも切実な、心の底から湧いてくる感情が、時間や現実、物理という原則を失わせてしまう。“感情がすべてを圧倒する”という発想は、“映画にできることとは何か”という問いかけへの回答なんです。」

ディアーヌの願いと想いが、すでにこの世にいないチコを生かしてもいる。相反する出来事を共存させるという発想は、『ラ・ラ・ランド』のラストに影響を与えたものだという。だとすれば、セブによる演奏をきっかけに始まる「実際にはなかった、しかしありえたであろう」セブとミアの過去は、あの瞬間だけは「実際にあったこと」なのかもしれない。鮮やかで幸せな時間はすぐさま現実に取って代わられてしまうが、あの時だけは現実そのものだったかもしれないのだ。そんなメチャクチャな…と思うかもしれないが、チャゼル監督はこうも語っている。

「これまで作られてきたすべてのミュージカルは、その(感情がすべてを圧倒するという)考え方に直接つながっているといえます。感情が大きく高ぶると、いきなり天国から90人のオーケストラが現れて私たちを歌のなかへと連れていく。メチャクチャで非合理的ですが、少なくとも僕には、それがとても正しく思えることがあるんです。そのとき、幻想のような映画を僕たちは受け入れているんですよ。」

ちなみにチャゼル監督と編集担当のトム・クロスは、この“5年後の冬”の場面を編集作業の一番はじめにすべて作り上げ、映画全体をそこから逆算して構築していったそう。あらゆる意味で本作は、すべてが結末ありきで構築された映画だったのである。

映画『ラ・ラ・ランド』Blu-ray&DVDは発売中。

Sources: THR(1, 2, 3), CNNSAG-AFTRA, Vulture, CB

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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