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映画『ラ・ラ・ランド』ロケ地レポート ─ 米ロサンゼルス、名シーンの舞台に行ってみた

ララランド ロケ地 聖地

アカデミー賞史上最多タイである作品賞他14ノミネート、ゴールデン・グローブ賞では歴代最多7部門を受賞したデイミアン・チャンゼル監督『ラ・ラ・ランド』。2016年12月9日に全米公開されてから大絶賛の嵐となった空前絶後の話題作が、ここ日本でも2017年2月24日にようやく公開となった。

2016年12月、既にメディア関係者や一部の幸運な映画ファンらに向けた試写会が実施されたが、残念ながら筆者は機会に恵まれず。鑑賞を終えたファンらのSNS上で吹き荒れる絶賛コメントの数々、さらにアカデミー賞ノミネート発表での”ラ・ラ・ランド無双”を目の当たりにし、「日本公開まで待てない!」「こうなったら、何が何でも日本公開前に観てやるぞ」と震える手でパスポートを握りしめ、映画の舞台となったロサンゼルに飛んだ。ハリウッドの中心、チャイニーズ・シアターのレーザーIMAXで『ラ・ラ・ランド』を鑑賞し、映画のロケ地を巡るためだ。

この記事では、映画『ラ・ラ・ランド』の撮影ロケ地を実際に周ってきた筆者が、その先々で撮影した独自写真とともに、実際のロケ地の様子をお伝えしたい。きっと、『ラ・ラ・ランド』がより身近な作品に感じられるはずだ。

この記事には、『ラ・ラ・ランド』のネタバレが含まれています。

まず筆者が向かったのは、『ラ・ラ・ランド』のメインビジュアルにも使われている、ミアとセバスチャンが”A Lovely Night”に乗せて情熱なタップ・ダンスを見せた丘。ふたりの間にあった、やわらかな電撃が恋愛の糸に変わりゆく瞬間を演出した地だ。ふたりは「普通の夜景」とおどけていたが、ハリウッドの夜景を一望できるなんともドラマチックなこのエリアはMt.Hollyrood Driveと呼ばれるドライブウェイで、グリフィス天文台の近くにある。

地元の人の話によれば、劇中で二人が座っていたベンチと、揺れ動く恋心をそっと照らしていた街灯は撮影用に設置されたものだという。

筆者の『ラ・ラ・ランド ロケ地巡り』の一路は、ここを目指す所からスタートする。移動には車がないと少々辛いロサンゼルスの街だが、幸いにも現在は2017年、配車アプリUberを使えば自由自在に移動することができる。スマホでアプリを起動し、現在位置と目的地をピンで指定すれば、近隣を走っているUberドライバーが迎えに来てくれるのだ。ドライバーは既にアプリ上で乗客の目的地を確認しているので、異国の地で言葉が通じなくても目的地を伝えるのに一切苦労しない。おまけに相乗りサービスUber POOLを選択すれば、更に格安での移動が可能になる。

出発地点はハリウッドの中心、チャイニーズ・シアターから。Uberを起動して目的地の住所を入力すると、早速5分ほどでドライバーが迎えに来てくれた。目的地となるMt. Hollywood Driveはグリフィス・パークのど真ん中。”パーク”とは行っても山のように広大な敷地だけあって、「こんなところに行くの?」と驚かれた。

時刻は17時過ぎ、30分少々走るとグリフィス・パークに到着。ナビに従って夜路を進んでいくが、思った以上に日の入りが早い。おまけにこの日はロサンゼルスでも珍しいという雨と濃霧に見舞われた夜だった。「今年はおかしいの。こんなに雨が降るなんて滅多にないんだけど」どうやら渡米のタイミングが悪かったらしい。

「あなたには悪いけど、ここまでしか行けないみたい」と車を停められ、観ると『STOP』…進入禁止のサインが。「時間は調べた?」と聞かれたが、どうやらドライブウェイは夜間通行禁止になるらしい。Googleマップを観ると、目的地までは徒歩でここから1時間くらいかかる。

「どうすべきか一緒に考えてあげるわ」ドライバーは親切にも、なんとか近くまで車を進められないか調べてくれたのだが、為す術はないようだった。
「仕方ないので、歩きます」と伝えると「本当に?一時間くらいかかるわよ。動物が出るかもしれないし」と止められる。確かに辺りはすっかり暗くなり始めている。温暖なロスといえ2月の夜は冷え込むし、今夜は霧雨もひどい。こんな環境で見慣れぬアメリカの山道をひとり傘をさして歩くのはさすがに危険だろうか。それに、ネットで得た住所情報が、ピンポイントでロケ地の丘を指しているかも定かではなかった。いわゆる「代表地点」ってやつで、大雑把に「このあたり」に案内しているだけかもしれない。街灯もないであろう夜霧の最中を、あちこち探し回るのは気が引ける。

「どうする?行くか行かないか、あなた次第よ。」

筆者は、どうしてもあのミアとセバスチャンがロマンスを深めた丘の写真を撮らなければならないと思った。しかし、ロサンゼルス最大、4,210エーカーの広大なグリフィス・パークは秒刻みで闇と濃霧に呑まれていく。方や筆者には、片道1時間の山道を進むほどの心づもりも服装もない。

「諦めます。その代わり、グリフィス天文台まで連れて行ってくれませんか。」

Mt Hollywood Dr
Los Angeles, CA 90027

グリフィス天文台

ドライバーは、快くグリフィス天文台まで送ってくれた。

ロサンゼルスで最もロマンチックな観光地の筆頭に挙げられるのが、グリフィス天文台だろう。このアールデコ調の美しい天文博物館は、かつてメキシコの銀鉱で富を築いた資産家グリフィス・ジェンキンスが1896年にクリスマス・プレゼントとしてロサンゼルス市に寄付したという、その歴史もロマンスと夢に満ちている。ミアとセバスチャンは、後に登場する『リアルト』で『理由なき反抗』を途中まで鑑賞した後、ティーンエイジャーのような衝動に任せここに訪れ、夢見心地の時間を共にした。

一方、筆者が訪れた際は、ロサンゼルスでも類まれなる悪天候に見舞われ、自慢の夜景は何一つ見えずじまいであった。我ながら、どこまでもロマンスに縁のない男である。

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何も伝わらない写真で恐縮だが、晴れの日はライトアップされたアールデコ調の建物と魔法のような夜景が、嘘みたいに美しい。

Photo credit: kla4067 via VisualHunt.com /  CC BY
Photo credit: kla4067 via VisualHunt.com / CC BY

天文台には無料で入場でき、展示物もすべて無料で見て周ることができる。正面の扉を開くと、まず出迎えてくれるのは12メートルのワイヤーが圧巻の巨大な振り子時計。42時間をかけてゆっくりと一回転するこの”フーコーの振り子”は、永遠に止まること無く時を刻むのだという。ミアとセバスチャンも、”永久”がゆっくりと揺れるその側で愛のダンスを見せた。

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中では月の石など、空と宇宙、天体にまつわる様々な展示物を楽しむことが出来る。ミアとセバスチャンも、宙の星々の神秘に思いを馳せながら歩いたのだろうか。

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ゆっくり周って見れるだけの様々な展示物があり、宇宙好きにはたまらない場所だろう。運が良ければ、空想にふけるアインシュタインにも出会えるかもしれない。

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また、セバスチャンとミアが驚いたテスラ・コイルの実演も楽しめる。

『ラ・ラ・ランド』のハイライトのひとつとも言えるのが、天文台プラネタリムのシーンだ。グリフィス天文台にもプラネタリウムが実在するが、劇中に登場したシーンはレプリカセット。実際のプラネタリム場内へは、有料の鑑賞チケットを購入すれば誰でも立ち入ることができる。劇中のように、勝手に入ることはできないということだ。

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映写機が劇中のものと異なることがわかる。また、セバスチャンが押したスイッチ台もない。

プラネタリウムのチケットは大人7ドル。プログラムは3種類あり、平日は8回、週末は10回の上映スケジュールが組まれている。

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上映も、日本のプラネタリムのような淡々としたものではなく、アメリカらしくエンターテインメントに満ちたプログラムだった。上映が終了したら、ミアとセバスチャンがいたあたりに立ってみると良いだろう。全身を纏う重力から解放され、星空の幻想世界に向かって舞い上がるような気持ちになれるはずだ。

Griffith Observatory
2800 E Observatory Ave
Los Angeles, CA 90027
(213) 473-0800
公式サイト:http://www.griffithobservatory.org/

映画スターの壁画

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翌日に訪れたのは、チャップリンやモンロー、ジェームス・ディーンなど、ハリウッドで成功を収めた往年のスターたちが描かれた壁画、”You Are the Star” Mural。ハリウッドを象徴するスポットのひとつだが、思った以上に「あ、こんなとこにフッツーにあるんだ」という感じで佇んでいる。

華やかなスターたちの前を、パーティーで”誰か”を見つけられなかったミアは足早に通り過ぎた。セバスチャンが演奏するピアノの音色に誘われ、”Lipton’s”の扉に吸い込まれていく。そこでセバスチャンはJ.K.シモンズ演じるオーナーのビルにクビを言い渡され、ミアと”最悪の出会い”を果たす。
現実では”Lipton’s”のある位置は”Muse Lifestye Group”というナイトクラブだ。

“You Are the Star” Mural
Wilcox
Los Angeles, CA 90028

グランド・セントラル・マーケット

恋人となったミアとセバスチャンは様々な場所でデートを楽しむ。そこで一瞬チラリと映るのが、ダウンタウンに位置するグランド・セントラル・マーケット。中華やメキシカンなど、世界各国の様々な食材や料理を楽しむことができる。いわゆる『築地市場』のような場所を想像して向かったが、さすがLA、いちいちオサレだ。活気あふれるマーケット内では、色鮮やかなネオンや食材、洗練されたデザインのカフェやバー、ベーカリーが次々と飛び込んできて、どこを切り取ってもフォトジェニックな光景が続く。

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テーブルとイスがそこかしこに設置されているので、特に何も無くとも座ってみて、見たことのないお店をあちこち眺めているだけでも楽しい。小腹がすいたら異国料理にチャレンジしてみたり、コーヒースタンドで一息いれるのも良いだろう。

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もし日本食が恋しくなっても、ここにはラーメン屋もあるし、ジャパニーズ・ベントーも食べられる。

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ミアとセバスチャンも、色とりどりのネオンを一緒にくぐり抜けながら、ここでささやかな食事と会話を楽しんだに違いない。デートスポットとしてオススメしたい。

Grand Central Market
317 S Broadway
Los Angeles, CA 90013
(213) 624-2378
公式サイト:http://www.grandcentralmarket.com/

エンジェル・フライト・レールウェイ

グランド・セントラル・マーケットの真正面にあるのが、ミアとセバスチャンがキスをしたオレンジ色の鮮やかなケーブルカー。1901年から1969年にかけて、バンカー・ヒルを昇り降りする乗客を運んだが、長らく運行を休止していた。この可愛らしいオレンジの車体は1996年に仕事復帰を果たしたが、2001年に事故による死者を出してしまってから、再び運行を取りやめている。その後、2010年に再復帰するも、2013年にまたシャットダウンされた。

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誰にも乗られることなく、すっかり手入れもされていないであろう車体は、オレンジの塗装も褪せ始めている。

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線路の中腹あたりでシンと止まったままの2台は、ミアとセバスチャンの恋の行方を占っているかのようだ。
脇の階段は、落書きとゴミで荒れている。夜間にはあまり来たくない場所だろう。

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ロサンゼルスの地元ニュースによれば、カリフォルニア州公共事業委員会はこのレールウェイが『ラ・ラ・ランド』の撮影に使われることを撮影クルーから知らされていなかったという。

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Angels Flight Railway
351 S Hill St
Los Angeles, CA 90013
(213) 626-1901

コロラド・ストリート・ブリッジ

続いて向かったのは、ロサンゼルス北東部の高級住宅街パサデナに架かるコロラド・ストリート・ブリッジ。1913年からの歴史と伝統を持つボザール様式の美しいコンクリート製アーチは、マジック・アワーをも制したミアとセバスチャンの劇的な恋を爽やかな夏の風で祝福した。

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しかし、長い自動車道のど真ん中にあるこの橋を、徒歩で横断する用事はそう無いはずだ。セバスチャンは、二人の情愛の高まりを表現するかのように鮮やかなピンクのドレスをまとったミアの腕を引きこの橋を歩いていたが、いったいどこからどこへ向かっていたのだろう。そんな野暮なことを考えながら、ふたりが歩いた歩道を、全く同じようにゆっくり足を進めてみる。

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これが、ふたりの眼に写っていた風景だ。

実際に劇中に登場した場所と全く同じ場所に立ってみよう。

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© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

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スマホを使って透かしてみると、まるでそこにミアとセバスチャンが歩いているかのような没入感を味わえる。今まさに、映画に登場した場所と全く同じ地に立ってみると、筆舌に尽くし難い高揚感を得ることが出来る。

ララランド ロケ地 聖地

コロラド・ストリート・ブリッジには、先程のグランド・セントラル・マーケットやエンジェル・フライト・レールウェイを周ったダウンタウンから車で30分ほど。

Colorado Street Bridge
504 W Colorado Blvd.
Pasadena, CA 91105

リアルト・シアター

そこから車をチャーターし、10分ほどで到着したのは、同じくパサデナにあるリアルト・シアター。ミアとセバスチャンがジェームス・ディーンの『理由なき反抗』を鑑賞した印象的な劇場で、ミアの独り芝居の公演会場でもある。劇中でも途中から閉館してしまうが、実際の劇場も、2007年に閉館したまま野ざらし状態になっている。

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1925年に設立されたこちらの劇場外観からは、ムーア様式の窓に、アール・デコの影響も見て取れる。今では立ち入ることができなくなてしまったが、キャパシティはなんと1,300人、在りし日には折衷主義の贅沢な内装で、映画のみならず寄席でも観客を楽しませたそうだ。近隣にはいくつかの飲食店も立ち並ぶ住宅街の交差点の一角でひっそりと眠りについた劇場入り口では、かつて様々な映画や演芸のポスターを収め、訪れた客を様々な表情で出迎えたであろうフレームたちが沈黙を貫いていた。日本版パンフレットによれば、「現在、総合娯楽施設として再オープンが期待されている」らしいが、ここでミアを待ったセバスチャンのように、地元の住民も劇場の復活を待ちわびているのだろう。

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『雨に唄えば』が”今週”の土曜に公演されるというサインが出たまま、リアルト・シアターの時は止まっている。

Rialto Theatre
1023 Fair Oaks Ave
South Pasadena, CA 91030
(626) 799-1824

ミアのアパート

夜になって訪れたのは、ミアが暮らしていたアパート。これまで巡ってきたロサンゼルスの中央部を大きく離れ、ロングビーチまで向かう必要がある。ハリウッドの中心地からは最短ルートでも32マイル(約51キロメートル)ほどで、これは東京駅から首都高速に乗ってさいたま県春日部駅までの距離におよそ相当する。1時間少々、電車に揺られてミアの暮らしたアパートに向かった。

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到着するころにはすっかり暗くなってしまったが、実際は映画で見られたように淡いピンクの外壁が可愛らしい。近くで見ると、錬鉄製のバルコニーと彫刻入りの木製ドア、ムーア調の装飾が可愛くも優美。

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ただし、この場所は完全に住宅街で、実際には住人が生活している。人通りもままあり、カメラを向けてパシャパシャやるのは少々気が引けた。実際に訪れる際には、近隣の方の迷惑にならないように気をつけて欲しい。カラフルなドレスを着て友人と路上で踊る場所ではなさそうだ。

さて、いよいよ物語のクライマックスに登場した、あの場所に向かってみよう。

1728 E 3rd St #2
Long Beach, CA 90802

ブラインド・ドンキー(SEB’s Bar)

ここまでお付き合い頂いた『ラ・ラ・ランド』ロケ地巡りの旅最後の目的地は、ミアとセバスチャンの運命のすれ違いを映画史上に残るほど美しく、そして切なく演出した『SEB’s Bar』だ。
ミアが夫とともに偶然立ち寄った、一見何の変哲もないバー。心地よいジャズの調べが、ミアとセバスチャンをあまりにも哀しい運命のいたずらへと誘う。

SEB’s Barの撮影ロケ地は、建物の内部と外部とで異なっている。今回皆さんをお連れするのは、内部での撮影に使われた、ブラインド・ドンキーという名で実在するバーだ。実はこのブラインド・ドンキー、先程のミアのアパートからなんと徒歩20分ほどの近距離にあり、それも一度角を曲がるだけのほぼ直線上に位置する。『ラ・ラ・ランド』の始まりと終わりは、ロングビーチのイースト・ブロードウェイ通りで運命的に結ばれていたのだ。

ヘッドフォンで”City of Stars”を聴きながら歩いていると、あっという間にバーに到着した。こちらがSEB’s Barの撮影に使われた、ブラインド・ドンキーだ。

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入り口のボードには、「ストローは要らないですよね、ライアン・ゴスリングと間接キスできるかもしれないから」なんていう、粋なコメントが書かれている。間違いない、ここだ。

ブラインド・ドンキーへは、地下階段を下って入る。『ラ・ラ・ランド』では入り口にセキュリティも立っていたし、落ち着いた店内イメージから、ちょっとお高いお店だったらどうしよう…なんてドキドキしながら入ると、これが意外にも非常にカジュアルなバーであった。店の出入りを店員が対応することがないので、フラリと立ち入って適当に空いている席に着いて、好きなように店内をウロウロできる。おかげで、店内を自由に撮影することができた。

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SEB’s Barでは、キャンドルと共にゆったりとしたソファがいくつも並んでいたが、実際のお店は木目調のスタンディングテーブルが縦に3台並んでおり、店内を流動的に行き来する客の導線を確保している。向かって右側にはグループで楽しめるソファ席があり、左側はカウンター席となっている。

店内に流れているのは、セバスチャンが愛した古き良き時代のジャズ…ではなく、往年のロックナンバーだ。おまけに店内のモニターではSF映画が流れていた。どうやらNetlixを流しているようで、映画がひとつ終わると次の作品を店員が選んでいる様子が見られた。

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劇中でもミアと夫がバーボンを嗜んでいたが、ここはとにかくバーボンの種類が豊富で、酒好きにはたまらないだろう。分厚いメニューはすべてお酒の銘柄で埋まっており、フードの提供は行っていない。何かつまみたい時は、店内にある自動販売機でポテトチップスやプレッツェルを買うと良い。

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劇中のステージ向かって左側にはビリヤード台とダーツボードがあり、10ドルでプレイできる。

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さらに、ストリート・ファイターⅡとモータル・コンバットの昔懐かしいアーケード・ゲームも設置されている。ロックミュージックが流れ、ビリヤードやダーツで盛り上がる店内は、映画のイメージとは打って変わって非常に賑やか。ここブラインド・ドンキーは、活気ある若者文化の街ロングビーチの夜に程よいパーティーを提供するバーなのだ。

平日は17時〜20時、土日は19時まではハッピーアワーで全てのメニューが半額になる。筆者は半値の4ドルでビールを頼み、せっかくなのでおかわりを頼んだ。オーダーの際に「映画を追って来ました」と伝えると、「あら、そうなのね」と微笑んでくれたが、店員さんは然程気にしていない様子だった。

劇中の光景を想いながら、ひとりしみじみとビールを愉しんでいると、ヒッピー風のカップルに話しかけられた。ワシントンDCから来たという二人は、週末にあるレゲエのフェスが目的だという。「なぜこのお店を見つけたの?」と尋ねられたので、『ラ・ラ・ランド』という映画のロケ地になっているからだと伝えると、こちらも「あら、そうなのね」という程度のリアクションで、そこまで刺さってはくれなかった。

さて、せっかくSEB’s Barその場所まではるばるやってきたのだから、とことん浸ってみるとしよう。劇中では店内前方に赤いカーテンが掛かったステージがあったが、訪れてみるとあれは撮影用であったことがわかる。実際にもステージのような壇が設けられているが、映画で見られたものとは異なる。壇の上にはグランド・ピアノ…ではなく、黒い大きなソファが置かれている。

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あなたは、ミアが座っていた座席あたりか、それともセバスチャンがピアノを演奏したあたりか、どちらに腰掛けたいだろうか。

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店内は活気に溢れ騒がしいが、問題ない。イヤフォンかヘッドフォンを装着して、『ラ・ラ・ランド』のサウンドトラックから”Epilogue”を再生すれば良い。静かに目を閉じ、ミアとセバスチャンの叶わぬ恋の夢が色を変えながら回転していくのを追いかけるのだ。ここまで辿ってきた道のりと、『ラ・ラ・ランド』が見せてくれためくるめく夢の物語を重ね合わせながら目を開けると、まさにそのクライマックスが展開された全く同じ場所にいる。

静かに二杯目のビールを飲み干し、筆者の『ラ・ラ・ランド』ロケ地巡りの旅は終わった。ブラインド・ドンキーからは、すぐ側の1st St駅から帰ることが出来る。人通りもあり、多少遅くても大丈夫だろう。ありがとう『ラ・ラ・ランド』、さぁ帰ろう。

Blind Donkey
149 Linden Ave Ste B100
Long Beach, CA 90802
公式サイト:http://www.theblinddonkey.com/

『ラ・ラ・ランド』その他のロケ地

ロサンゼルスの街は広大で、1日や2日で全てを効率よく周ることはできない。ここからは、筆者が訪れることのできなかったロケ地を簡単に紹介したい。

105/110 フリーウェイ・インターチェンジ

© GAGA Corporation. All Rights Reserved.
© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

これだけでも拍手喝采を贈りたい、極上のオープニングを見せた渋滞中の高速道路。2015年8月、撮影のために道路を封鎖し、土日の2日がかりで撮影したそうだ。ダミアン監督は、道路の傾斜、車体を焦がしながら照りつける日光、撮影用クレーンに吹き付ける強風に苦労したと語っている。

105/110 freeway interchange
Interstate 110
Los Angeles, CA 90061

ワーナー・ブラザース・スタジオ

様々なハリウッド映画の撮影に使われるスタジオ。同所では、事前にチケットを購入すれば実際の撮影セットや舞台裏を巡るツアーに参加できる。チケットはVIPツアーが54ドル、Deluxeツアーがランチ付で250ドル。

『ラ・ラ・ランド』でミアがアルバイトしていたコーヒーショップは撮影用セットだが、その向かいにあった『カサブランカ』の窓のセットは本物だ。

Warner Bros. Studios
4000 Warner Blvd
Burbank, CA 91522
(818) 954-6000
公式サイト:https://www.wbstudiotour.com/

スモーク・ハウス・レストラン

https://www.google.com/maps/@34.1455841,-118.3414482,0a,73.7y,53.03h,82.88t/data=!3m4!1e1!3m2!1sbeJWKKSap3YAAAQfr88cgw!2e0?source=apiv3
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セバスチャンが退屈なクリスマスソングから、激情的な曲を演奏し、クビになったあと、ミアと出会った”Lipton’s”内装は、ワーナー・ブラザーズ・スタジオすぐ近くのスモーク・ハウス・レストランという名のお店。ステーキやロブスター、バーベキューにパスタを楽しめる。

Smoke House Restaurant
4420 W Lakeside Dr
Burbank, CA 91505
(818) 845-3731
公式サイト:http://www.smokehouse1946.com/

ジャー・レストラン

© Copyright Jar, Inc. All Right Reserved. http://thejar.com/
© Copyright Jar, Inc. All Right Reserved. http://thejar.com/

洗練されたレトロモダンなこちらのお店は、ミアが彼氏とのディナーに連れて行かれた場所。”BGM”として流れたジャズ・ピアノの音色に、セバスチャンへの想いを確信するシーンの撮影で使われた。ステーキやソテーなどのお上品なお料理が頂けるようだ。

Jar Restaurant
8225 Beverly Blvd
Los Angeles, CA 90048
(323) 655-6566
公式サイト:http://thejar.com/

エル・レイ・シアター

apeshit https://www.flickr.com/photos/apeshit/4935429814/in/photolist-8veny7-Mm6yy-t9EBwR-eweVQs-5vYhbu-ewbBh8-sevE39-scKJzr-8w5h1B-ewbQVD-eC7SiB-3aNSkX-bEGLAF-8w8mWj-8w5i7R-e7DNgB-8w8nku-9HScfx-eweNc3-ewf43u-ewf7rW-8w8iwW-8w8jc3-ewbYyF-ewbS2n-scKHJi-sevL6S-8w8nAW-8w5drB-8w5d9B-e6zp8D-stMjqU-ewf5gh-ewbSXZ-eweM8A-8w8ftw-8w8i5s-ewbFB6-ewf6iC-8w8iUy-rNizi-8w5dHe-8w5hnK-4QH7qA-7gKyxx-ec4MvK-ewbN4T-ewbPsi-ewbL6e-vK6ebY/
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セバスチャンが始めたバンドのライブは、ミラクルマイルのウィルシェア・ブールバードにあるエル・レイ・シアターで撮影された。ジョン・レジェンド演じるキースのスムースな歌声が響いたこのシアターは、毎夜様々なバンドのライブで賑わっている。

El Rey Theatre
5515 Wilshire Blvd
Los Angeles, CA 90036
(323) 936-6400
公式サイト:http://www.theelrey.com/

ライトハウス・カフェ

「ジャズは嫌い」と言い放ったミアに、その魅力を説くべくセバスチャンが連れて行ったこのライトハウス・カフェは同名で実在する。(ただし、内装はセット)
1949年以来、多くのジャズ・ミュージシャンのショーケースとなり、1950年代から1970年代までウエスト・コースト・ジャズの中心地となった。古き良きジャズに再びスポットライトを当てた『ラ・ラ・ランド』をお店も喜び、同店ゼネラル・マネージャーは公式サイトで「こんな場所ですが、音楽を愛する新たなファンベースにお店を公開して頂けて、感謝してもしきれません」と述べている。2017年3月10日の夜にはここで『ラ・ラ・ランド・パーティー』も催されるようだ。

The Lighthouse Café
30 Pier Ave
Hermosa Beach, CA 90254
(310) 376-9833
公式サイト:http://www.thelighthousecafe.net/

『ラ・ラ・ランド』をより身近に

ここまで、『ラ・ラ・ランド』の撮影に利用された様々なスポットを紹介させて頂いた。『ラ・ラ・ランド』は、古き良きジャズや往年のミュージカル映画を思わせる演出やカラフルな色彩感覚など、映画を映画たらしめる要素がふんだんに盛り込まれていた。その一方、ミアが使っているiPhoneがバキバキに割れている所とか、夢に見切りをつけながら妥協した大人になっていく過程、決してハッピーエンドではないすれ違う恋模様などのリアリティに、誰もが「これは私の物語だ」と共感できる作品だったと思う。

その演出にはロケ地の選出も大いに役立っている。世界中から”夢みる愚か者”が集まるハリウッドを中心に、人々の生活が息づくロサンゼルス各所の風景は映画の魔法で彩度とコントラストを増し、観客に地続きの夢を見せてくれる。実際にロケ地を巡ってみると、『ラ・ラ・ランド』が辿った魔法の痕跡を肌で感じとることができた。日本公開となった2月24日、再度今作を鑑賞してみると、まさに今記事で周ってきた景色の数々が1950年代のミュージカル映画風に仕上げられ、スクリーンに鮮やかに映し出されていることに改めて感動を覚えた。

今記事で、映画『ラ・ラ・ランド』をよりリアルな物語に感じて頂けたら嬉しい。この映画は、私の物語であり、あなたの物語であり、彼ら・彼女らの物語である。劇中に登場する景色やお店、建物は実在するものばかりだし、ミアとセバスチャンは私たちが想像するロサンゼルスの街のどこかで今日も暮らしている。ミアは撮影の合間にコーヒーショップに立ち寄っているだろうし、セバスチャンは今夜も大好きなジャズを奏でているだろう。

そんな夢を何度でも観るために、映画館は今もあなたを待っている。

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撮影写真:©THE RIVER(ORIVER cinema)

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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