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『ラ・ラ・ランド』ミアの舞台、実際に上演されていた ─ 渾身のパロディ『さらば、ボールダーシティ』が私たちに教えてくれたこと

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映画『ラ・ラ・ランド』(2016)の劇中でエマ・ストーン演じるミア・ドーランが上演する舞台『さらば、ボールダーシティ(So Long, Boulder City)』が、なんと実際に舞台化されていたことをご存知だろうか。

しかしながらこの舞台版はデイミアン・チャゼル監督が脚本や演出を手がけたわけでもなければ、エマ・ストーンが出演したわけでもない。代わりに脚本・出演を務めたのはコメディアンのジミー・フォーリー。そう、これは『ラ・ラ・ランド』のパロディであるコメディ・ショーなのだ…!

この記事では、映画『ラ・ラ・ランド』の内容に言及しています。

ラ・ラ・ランド
こちらは本家『ラ・ラ・ランド』La La Land © 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

パロディ舞台、まさかのブロードウェイ進出

『ラ・ラ・ランド』の劇中で、女優を目指すミアは一念発起して自らが脚本を執筆、一人芝居『さらば、ボールダーシティ』を上演する。しかし本番の日に観客はほとんど集まらなかったうえ、作品の評判は最悪。あろうことか、恋人のセブ(ライアン・ゴズリング)が劇場を訪れることも叶わなかった。しかしその後、ある映画プロデューサーがこの舞台を観ていたことが判明し、ミアはスター女優への道を歩み始める……。

現実の舞台版『さらば、ボールダーシティ』では、先述の通り、このストーリーをもとにコメディアンのジミー・フォーリーが脚本と出演を担当。映画ではほぼ描かれないミアの一人芝居を約60分のフルバージョンで上演するという趣向で、共同脚本と演出は同じくコメディアンのジョーダン・ブラックが務めた。この企画を思いついたきっかけを、ジミーはこう述べている。

「映画を観て、すごく混乱しましたね。ほとんど誰も観てない散々な評価のショーが、ものすごいキャリアの出発点になる。“えっと、それってどんなショーだったの?”って思ったんです。」

ジミーはTwitterに「もしも『ラ・ラ・ランド』の一人芝居のフルバージョンを書いたら、みんな見に来てくれる?」と投稿。『ラ・ラ・ランド』を「嫌になるほど」見返しながら脚本を執筆したという。なお本編では、ミアの半生が少女時代から(勝手に)描かれ、その過程でドラッグ依存や過食症に陥ったことが示唆されたとのこと。夢見る女優の卵やハリウッドの内幕を風刺するストーリーを、舞台照明のミスや長すぎる衣装替えといった「いかにもダメなステージ演出」で笑わせながら見せたという。

パロディ舞台版『さらば、ボールダーシティ』は2017年7・8月にロサンゼルスで上演され、なんと7月の公演は発売後72時間でチケットが完売。上演後には現地メディアや批評家からまさかの絶賛を受けており、2017年12月から2018年1月にはニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されることが決定していた。

 
 
 
 
 
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ニューヨーク公演、打ち切りに

結論からいって、パロディ舞台版『さらば、ボールダーシティ』のニューヨーク公演は芳しい成果を上げることができなかったようだ。2017年12月7日から2018年1月7日まで1ヶ月間にわたって予定されていた公演は、開幕からわずか6日後の12月13日に打ち切りが発表されている。公演が終了したのは12月17日、予定の約3分の1にあたる11日間の公演となった。

脚本・出演のジミーは、公演終了の報道に際して「このメチャクチャなショーをニューヨークで演じられて楽しかったです。観に来てくださり、笑ってくださったみなさん、それから笑わなかったみなさん、ありがとうございます。みなさんの混乱に感謝です」とのコメントを発表している。

 
 
 
 
 
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これは怒られるべき

ニューヨーク公演が早期の打ち切りとなった原因は明かされていないが、おそらく理由として有力なのは、公演を1ヶ月間継続できないほど集客が厳しい状況にあったという可能性だろう。また作品のレビューはメディアを通じていくつか発表されているが、どれも絶賛には至らず、かといって酷評もなされていないという、ある意味では一番残酷な結果だった。批評家や観客のスコアを公開する「SHOW-SCORE」でも60点台と、これまた“可もなく不可もない”得点を記録している。

そもそもこの舞台は、『ラ・ラ・ランド』という作品の人気ありきで成立していた企画である。『ラ・ラ・ランド』が映画賞で健闘をみせ、アカデミー賞での“作品賞取り違え事件”も記憶に新しかった2017年7~8月のロサンゼルス公演はともかく、その半年後に開催されたニューヨーク公演の時点では、すでに企画の鮮度が落ちてしまっていたことも容易に想像できる。

『ラ・ラ・ランド』のミアが経験したような成功は、そうそう簡単には起こりえない。パロディ舞台版『さらば、ボールダーシティ』は、ともすれば『ラ・ラ・ランド』以上に、エンターテインメント業界のシビアな現実を教えてくれていたのかもしれない……。

Source: Variety(1, 2), HUFFPOST, LAWEEKLY, EXTRA, broadway WORLD(1, 2), TimeOut, NY Times, SHOW-SCORE

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。