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【インタビュー】『ライトハウス』監督が語る狂気の映画とは ─ 白黒と沈黙が作り出す世界、不気味な人魚にまつわる秘話など

ライトハウス
(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

ロバート・パティンソンウィレム・デフォー共演、『ウィッチ』(2015)のロバート・エガース監督、A24が放つ恐ろしくも美しい映画『ライトハウス』が、2021年7月9日(金)に待望の日本公開を迎えた。

1890年代、ニューイングランドの孤島にふたりの灯台守がやって来る。彼らにはこれから4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。だが、年かさのベテランであるトーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と、未経験の若者イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)は、そりが合わずに初日から衝突を繰り返す。険悪な雰囲気の中、やってきた嵐のせいでふたりは島に閉じ込められてしまう。

この度、THE RIVERはロバート・エガースにインタビューを実施。Zoomのバーチャル背景を本作の画像にして通話先の部屋に入室したところ、「それは良い。僕も次回からそうします」と喜んでくれた。そんな気さくな監督は取材を通じて、本作の知られざる製作過程や灯台の階層、白黒と沈黙が与えた影響、カモメや人魚、ロバート・パティンソンのキャスティングなどについて丁寧に説明している。

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灯台を舞台にした狂気で愉快な物語

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──『ライトハウス』の製作過程について詳しく教えてください。

マックス・エガース(兄・共同脚本家)が最初に灯台を舞台にした幽霊の物語を考えていました。エドガー・アラン・ポーによる未完の小説『Lighthouse』を現代に蘇らせようとしたのです。その構想について詳しく説明されたとき、アスペクト比だったり、モノクロ映像だったり、海に囲まれた舞台だったり、視覚的な部分での構想が頭に浮かびました。そこから彼と話を重ねていくうちに、結果的に協力することになったのです。

そこから、“ふたりの灯台守がいて、ひとりは息を引き取り、もうひとりは気が狂ってしまう”というような物語を思いつき、これを出発点として方向性も定まっていきました。アイデンティティがテーマであり、奇妙で難しい映画にしたく、また映画を観ているうちに主人公たちと共に気が狂っていくような作品にしたかったのです。そこからさまざまな神話や象徴主義の画家、ハーマン・メルヴィルなど、数え切れないほどの資料から研究を重ねて物語を仕上げました。

──『ライトハウス』には、『ウィッチ』のような不穏な雰囲気がありながらも、ユーモアにあふれていて、思わず笑ってしまうような場面も多くありました。こちらは監督が意図して入れた要素なのでしょうか?

『ウィッチ』のときは初の長編映画ということもあり、ユーモアを入れることが上手く出来ませんでした。このような不幸で悲惨な物語を再び描くことになったときには、ユーモアをどうにか入れようと思っていたので、これは最初から意図して入れられた要素と言えるでしょう。ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーがコメディアンとして素晴らしい才能の持ち主だったので、撮影しているときは面白くなり過ぎないか逆に心配にもなりましたけど。ただ、編集を担当したルイーズ・フォードや、音楽を手がけたマーク・コーヴェンのおかげで、ユーモアのバランスを適切な量に保つことが出来たのです。

──『パラサイト 半地下の家族』(2019)などのように、建物の階層によって住む人の地位や立場を表現する作品が近年多くある印象ですが、灯台を構築する上でも同じような概念を考えていたのでしょうか?

はい、間違いなくありました。“地獄から天国”と呼ぶ撮影方法があったのですが、それがロバートからウィレムへと下から上に捉えていくというものでした。とはいえ、パティンソンのいるエンジンルームは、実際には家の最下層ではなく、島の反対側にあるような場所たったので、それを編集で上手く工夫して見せています。

白黒と沈黙が作り出す世界

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──白黒と沈黙を組み合わせた往年の映画のような作品でしたが、そのように仕上げた理由はなぜでしょうか?

沈黙が多かった点でいうと、台詞や言葉がなくても物語を描くことは出来るからです。それとふたりの灯台守の物語では、言葉数が少なくなるのは必然とも言えるでしょう。灯台守の仕事は孤独であり、その孤独の重さを感じる必要もあるので。白黒に関していうと、単純に描かれている時代が古いというのがありますが、それ以上に彼らの人生の荒涼とした物語を伝えるのに役立つと思ったので使用しました。

──無声映画でいうと、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウの存在が大きいかと思われますが、そんなサイレント映画の巨匠の作品から何らかの影響を受けているのでしょうか?

もちろん、認識はしています。しかし、ムルナウ作品の要素を本作から垣間見られるのだとしたら、それは彼が僕の好きな監督のひとりで、彼の映画を熱心に見ていたからでしょう。もしかしたら、『サンライズ』(1927)からは少しばかり影響を受けているかもしれませんが、それでもムルナウ作品について話に上がったことはありません。アスペクト比においては、『炭坑』(1931)などを観て参考にしていた部分がありました。

日常に潜むカモメ、ひとつ尾の人魚

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──本作での悪天候は本物だったと聞きましたが、そんな中での撮影はかなり大変だったのではないですか?

本当に大変でした。ただ、ウィレムが話していたように、鼻の冷たさは演技で表現できるようなことではありません。だから、悪天候の場所を実際に探して撮影したのです。もちろん創作で補った部分もありますが、最も激しかった天気はまさに本物でした。とはいえ、ロバートとウィレムのシーンであった大波は僕たちが作り出したものです。ロバート・パティンソンを殺すことは出来ませんから。

──自ら険しい道を選んだというわけですね。

本当に大変なことばかりでした。体力的にも精神的にも厳しく、全ての撮影は疲労との戦いでしたよ。

──『ウィッチ』につづき、動物が恐怖の対象として登場していました。撮影の中で、カモメの扱いには苦労したのではないですか?またカモメを登場させた理由を教えてください。

カモメのシーンは、思っていたよりも大変ではなかったです。扱いが難しかったところももちろんありましたが、カモメたちはとても賢くて訓練もされていたので、信じられないほどに上手くいきました。そんなカモメを登場させたのは、海の伝説的存在なので。都市部で生活している皆さんが普段接している動物たちは、ペットなど基本的に身の回りにいるようなものばかりでしょう。もっとも僕が興味を持っている民話のような世界では、動物たちは人々の生活の一部なのです。

──そんなカモメをはじめ、監督は鳥のことを恐れていますか?

僕自身は鳥を恐れているわけではありません。妻は恐れていますけど。

──本作には人魚が登場しますね。そんな人魚といえば、ディズニー『リトル・マーメイド』のアリエルのようなキャラクターを想像する方も多いと思いますが、『ライトハウス』では非常に不気味な存在でした。その理由や、デザインについてのこだわりを教えてください。

ディズニーに登場する以前の人魚は悪い前兆を表しており、魅惑的でありながらも危険な存在として描かれていたと思います。もちろん親切な人魚にまつわるおとぎ話や民話もありましたが、そこまで多くありません。いずれにせよ、この作品には海以外で強い女性の登場人物が必要だったのです。デザインについては、スターバックスの人魚のように尾がふたつ付いている人魚ではなく、ヴィクトリア朝に登場していたようなひとつ尾にしています。19世紀が舞台の作品なので、ひとつ尾の方が理にかなっていると感じました。

──人魚まで登場する本作は、ジャンルでカテゴライズするのが困難だと思われますが、そんな唯一無二な作品について一言で説明するなら何でしょうか?

ふたりの男が巨大な建物の中に閉じ込められると、ろくなことが起きない。

キャスティング、コロナ禍が与えた映画界への影響

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(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

──ロバート・パティンソンのキャスティングについて教えてください。

彼を起用するまで、『グッド・タイム』(2017)や『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016)、そして『シークレット・オブ・モンスター』(2015)も観ていませんでした。『トワイライト』シリーズは個人的にはあまり好きな作品ではありませんが、彼は素晴らしい演技を披露していたと思います。吸血鬼に見事なりきっていました。それに彼のことは以前から興味を持っていましたし、本作でも凄まじい演技をしてくれました。

──ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーのキャラクターは劇中で激しい喧嘩をしていますが、撮影現場での実際のふたりはいかがでしたか?

映画ほど酷くはありませんでした(笑)。

──コロナ禍の影響により劇場で映画を観ることが困難になりつつあります。監督は映画が劇場ではなく、自宅で視聴されることが多くなっていることについていかがお考えでしょうか?

決して良い状況とは言えないでしょう。しかし、ストリーミングサービスやインターネットにも素晴らしいところはあります。それは中々観ることの出来ない映画をみんなが観られるようになること。ビデオテープが手に入るようになった時代に生まれた偉大な監督たちの多くは、映画学校には行かず、映画をとにかくたくさん観ていたのです。僕自身が偉大な監督であると言っているわけではありませんが、僕が映画を作る方法を学んだのは、映画を何度も何度も見ることでした。

また、ストリーミングサービスのおかげで小規模な映画には良い影響をもたらすことがあります。『ウィッチ』は興行的にそれなりに成功を収めましたが、それでも大作映画に比べては少ないでしょう。ただ、アニャ・テイラー=ジョイのキャリアは、『ウィッチ』の後も成長しつづけているので、ストリーミングサービスでとても長く愛されています。同じような状況になった作品はほかにもありますし、それは本当に素晴らしいことだと思います。

それでも僕にとって劇場に行くことは神聖な体験のようなものなのです。『アンドレイ・ルブリョフ』(1971)を劇場まで観に行くのは、僕にとっては教会に行くようなものです。『ライトハウス』のサウンドデザインもまた、劇場で鑑賞することを前提としていますし、ほかの人と一緒に映画を観るという体験も大切です。この議論については永遠と話せると思います。劇場ではなく自宅で映画を見るようになることは今後もっと多くなるでしょう。みんながワクチンを接種して、解決策が見つかることを心から願っています。なぜなら、劇場で観ることはとても価値あることなので。

映画『ライトハウス』は、2021年7月9日より全国公開中。

Writer

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。