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「今の映画には大人がいない」「いつまでも13歳のままでいられる映画」名匠リンクレイターが警鐘 ─ 「マーケティング部門がゴーサインを出す安牌」

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「映画スタジオは変わった。マーケティング部門が映画にゴーサインを出すようになり、安全な選択をするようになった」

こう語るのは、『ビフォア サンライズ 恋人までの距離』(1995)などの『ビフォア』シリーズをはじめ、『スクール・オブ・ロック』(2003)『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)などを手がけてきた名匠リチャード・リンクレイターだ。

BBCのインタビューにて、「スタジオはビジネス的な理由でリスクを恐れているのでしょうか?」と問われた彼はこう答えたのである。「続編やオリジン・ストーリー、既存の作品をつくってもクビにはなりませんよね。明らかに商業的なものが問題になることはないのです」

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こう語る背景には、『トップガン マーヴェリック』(2022)のグレン・パウエルを主演に迎えた新作映画『Hit Man(原題)』の製作に苦労した実体験がある。本作はパウエルと脚本を共同執筆したが、「もともと業界はこの映画をまるで作りたがっていなかった」というのだ。

「グレンとはギャラももらわないまま、投資のつもりで脚本を書きました。[中略]フィルム・ノワールであり、犯罪映画であり、誰もが応援できるカップルのスクリューボール・コメディを書けたと思ったのです。しかし、スタジオはどれかひとつにまとめてほしかったのだと思う」

完成した映画は非常に高い評価を受けているが、リンクレイターは実際に映画をつくりあげるまでに、スタジオ各社との「もどかしい話し合い」を繰り返したことを明かしている。「(米国配給を担当する)Netflixだけが絶えず情熱を注いでくれたが、他のスタジオはそうではなかった。観客に受けるかどうかがわからなかったのでしょう」

リンクレイターは、『Hit Man』を「セクシーなカップル映画」と呼ぶ。「セックスがあり、情熱的で、肉欲的で、すべてを突き動かす欲望がある。激しい化学反応と性的関心のある映画」だと。若い観客が映画に性描写・恋愛描写を求めなくなり、現実に性描写が減っているハリウッドでは珍しい立ち位置の作品だ。おそらく、スタジオが消極的だったのもそうした理由のためだろう。

時代遅れの映画なんだと思いますよ。映画にはもうセックスがないと言われるけれど、映画における“性”=“大人”である以上、映画にはもう“大人”がいないんです。13歳の頃、映画が見せてくれた大人の世界はとても面白そうで、楽しそうで、“早く行ってみたい!”と思ったものです。セックスだけでなく、大人のシチュエーションが描かれていたから」

以前にもリンクレイターは、「セックスと暴力こそ映画の素晴らしいところ」「セックスはいつだって最高の売り要素だった。どうしてみんなが撤退してしまったのか」と嘆いていた。今回のコメントも、すべてそのときの言葉と響き合っている。

(現在のハリウッドでは)“いつまでも13歳のままでいられる映画を作ろう”と言われているかのよう。“小さな子どもが、小さな子供の悩みを抱えたままでいい”と。複雑さがメインストリームの主題ではなくなり、(大人の映画は)どこかへ流れていったんでしょうね」

パウエルとリンクレイターのタッグは今回で4度目。「グレンと仕事をしたことがあれば、彼がスターであることを疑う人はいないでしょう」とその実力を称えているが、現在の映画業界におけるキャリアにはやや心配があるようだ。

「セックスを描かない映画業界には、以前は新しい才能が登場してきたような大人の役がない。マーベル系の映画はコミックで確立されたキャラクターだから難しいんです。グレンは昔ながらの俳優で、素晴らしい脇役を演じてきた。しかし役柄が進化していくと、その数が減っていく」

映画『Hit Man(原題)』の日本公開は未定。米国では6月7日よりNetflixで配信される。

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Source: BBC

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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