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黒澤明『生きる』英リメイク、映画祭で高評価 ─ カズオ・イシグロの脚本、主演俳優は「本当に満足」

黒澤明監督の代表作『生きる』(1952)のイギリス版リメイク映画『Living(原題)』が米サンダンス映画祭にてワールド・プレミアを迎えた。不朽の名作を新たに甦らせた本作は、すでに米Rotten Tomatoesにて95%フレッシュという高評価を獲得している。

本作の大きなポイントは、脚本を『日の名残り』『わたしを離さないで』などの作家カズオ・イシグロが手がけたこと。主演を務める『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『名探偵ピカチュウ』(2019)などのビル・ナイは、米Colliderにてイシグロへの信頼感を明かし、脚本の完成度を称えている。

「(『生きる』を)イシグロが翻案するという素晴らしい計画でした。しかし“リメイク”という言葉は避けられても、“再創造”という言葉を避けることはできないという恐ろしい計画です。映画史上もっとも有名な監督である、クロサワの『生きる』を再創造するわけだから。しかし、イシグロがやってくれるのは良い知らせでした。これで安心だと思ったし、オリヴァー・ハーマナス(監督)が参加して、話が転がり始めたんです。

なぜかはわかりませんが、イシグロがいることで私はいつも安心していたし、(この作品は)大丈夫だと信じていました。オリジナル版(『生きる』)は観たことがなかったけれど、実際に観たら、(リメイク版とは)まるで違うこともわかった。オリジナルの俳優(志村喬)と私はまったく違う役者だし、ビジュアル面の計画もまるで違ったからです。だから心配はしていなかったし、脚本を読んで本当に満足しました。非常によく書かれていて元気が出たし、幸運に感謝しましたね。」

オリジナル版の『生きる』は、平凡な市役所職員だった渡辺勘治(志村喬)が、胃がんのために余命わずかと告知されて“生きる”ことを考え直す物語。『Living』は舞台設定を1952年のロンドンに移し、主人公は元軍人の公務員であるウィリアムズ(ビル・ナイ)となった。第二次世界大戦後、再建が進むイングランドで官僚制度の歯車として働くウィリアムズは、書類仕事が山積する日々の中で自らの余命を知る。明るい同僚に説得されたウィリアムズは、人生が終わる前にその意味を見つけようと動き始めて……。

『生きる』といえば、主人公の勘治が夜中の公園でブランコに乗り「ゴンドラの唄」を歌うシーンが有名だ。リメイク版にもこれに類似するシーンはあるようで、ビルも「(歌うのは)緊張しました。私は音程がうまく取れないから」と語った。しかし、演じる上で“あること”に気づき、このシーンを演じきることができたという。

「たとえばお葬式に出ていて、“ぜんぜん大丈夫だ、落ち着いてるぞ”と思っていたら、みんなで『ヘイ・ジュード』を歌うことになって、2行目で泣き崩れてしまう、というような。歌を歌うことには、すべてを解放し、自制心を失わせるところがあるわけです。思いがこみ上げてきて、胸が詰まる。あのシーンでは感情的にそういうところに助けられました。」

ちなみにビルは、余命わずかな男を演じるにあたり、撮影中は炭水化物や糖分をほとんど摂らないという役づくりに臨んだそう。共演者の「セックス・エデュケーション」(2019-)で知られるエイミー・ルー・ウッドとは撮影を大いに楽しんだようで、「すごく悲しいシーンなのに笑いが止まらないこともあった」と語っている。「彼女はエネルギッシュで手に負えない。素晴らしい人だし、最高のアーティストです」。

そのほか共演者は『シカゴ7裁判』(2020)のアレックス・シャープ、『Mank/マンク』(2020)のトム・バーク。監督は俊英オリヴァー・ハーマナス、製作は『キャロル』(2015)のスティーブン・ウーリー&エリザベス・カールセンが務めた。音楽はピアニスト・作曲家のエミリー・レヴィネイズ・ファルーシュ。日本国内では東宝が配給を担当し、米国ほか海外市場の配給権はソニー・ピクチャーズ・クラシックスが獲得した。

映画『Living(原題)』は2022年以降公開予定

Sources: Collider, Deadline

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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