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【インタビュー】『ルース・エドガー』ジュリアス・オナー監督に訊く語り手としての使命「複雑な問題をシンプルな教訓で伝えたくない」

ルース・エドガー
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「世界を滅ぼす怪物か?世界を変える天才か?」映画ルース・エドガーは、深刻な矛盾をはらむアメリカ社会で、この両極端に思える2つの言葉を同時に背負う黒人の高校生ルース・エドガーが内に抱える葛藤をリアルに描き出した作品だ。

アフリカ・エリトリア出身の高校生ルースは文武両道に秀でた17歳の高校生。幼少期に戦場へ駆り出されたトラウマを克服した彼は、自由の国アメリカで、さまざまなルーツを持つ生徒たちの誰からも慕われる、いわば希望を象徴するかのような存在に成長した。しかし、とある課題のレポートをきっかけに、ルースは同じアフリカ系の女性教師ウィルソンと対立。危険な過激思想に染まっているのでは、という疑惑をかけられ、順風満帆の日常が揺らぎはじめる。ルースの養父母である白人夫婦エイミーとピーターも疑念を抱くなか、ウィルソンの身に奇妙な事件が降りかかっていく。

THE RIVERでは、2020年6月5日の日本公開にあわせてジュリアス・オナー監督にSkypeインタビューを行った。4月下旬に行われたインタビューでは、新型コロナウイルスの影響により、監督、筆者それぞれがニューヨークと東京にある自宅から対談するという貴重な機会となったが、Tシャツ1枚をラフに着こなし、ややプライベートモードのオナー監督は、筆者の呼びかけに対して手を振りながら気さくに応じてくれた。本記事では、本作への熱のこもった想いから日本にまつわるエピソード、自宅待機中の過ごし方まで、ジュリアス・オナーという1人のフィルムメーカーの内側にじっくりと迫る。

ジュリアス・オナー監督

実体験に基づく物語「複雑な問題をシンプルな教訓で伝えたくない」

──本日はインタビューに応じて頂き、ありがとうございます。今は新型コロナウイルスの影響で、世界中が大変な状況を迎えていますが、ソーシャル・ディスタンスの間、いかがお過ごしでしたか?

私はいまニューヨークにいて、こっちでもかなり壊滅的な状況です。私自身も長らく人と交流していないですし、かなり寂しいですよ。街もひどい状況で、可能な限り乗り越えようとしています。

──映画業界への打撃が懸念されていますが、いかがお考えでしょうか?元の状態に戻ることを願いますか?

もちろんです。今は脚本作業に専念しているんですけど、日ごとにすぐ映画を撮りたいと思う気持ちが強まっているんです。けど、安全でいることが大切ですし、私たちが病気にかからないようにするのが第一です。他にもたくさん困難はあって、特にいま映画を作って誰が映画館に足を運ぶのか、ということもありますし。だから少し時間はかかるでしょうし、Netflix作品も多くなるでしょうね。

──状況が今よりも良くなるように祈りばかりですね。さて、『ルース・エドガー』の話に入りますが、劇中に登場するどのキャラクターも心の内に葛藤を抱えていて、それがとても丹念に描かれていたと思います。この物語が終わった後の展開がどうなっていくのかとても気になりました。本作は、J・C・リーの戯曲が原作ですが、この物語を映画化するにあたって惹かれたポイントはどういうところなのでしょう?

アイデンティティについての物語だったのでとても魅力的でした。アイデンティティを追求していく中で、階級や人種、ジェンダーなど、多くのことに触れました。けれど、最終的にこの物語は与えられた条件で自分を定義するために、完璧か完璧じゃないかとか、聖人か罪人か、聖人かモンスターかのような象徴だけじゃなく、誰が自由な人間になる権利を持っているのかということについての物語なんです。“君だったらこの状況でどう思うか?”とか、“この状況で君は何を信じるか?”というように、(観客の皆さんに)問いかける方法で展開していったので惹かれました。というのも、アイデンティティやこのような問題を伝えている多くの物語が、“人に優しくしなさい”とか、“性差別主義者や人種差別主義者になるな”とかいうシンプルな教訓を与えようとしています。こういうのは、アイデアとして互いに話したり誰かに言ったりすることは簡単なんです。

ただ、実際にその中で暮らすとなると、さらに複雑で大変なんです。この物語を伝えることで、私にとっても自分がまだ苦しんでいたり乗り越えようとしていたりすることを追求する方法になりましたし、願わくば他の人も自分のことのように関連付けてもらえたらなと思いました。だから、原作の演劇では物足りないと感じて、この物語を伝えようとしたんです。

Writer

SAWADA
SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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