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ジョエル・コーエン版『マクベス』はタイムリミット・スリラーに ─ 主演デンゼル・ワシントン&夫人役フランシス・マクドーマンド、思わぬ新解釈で

デンゼル・ワシントン フランシス・マクドーマンド ジョエル・コーエン
Nathan Congleton https://www.flickr.com/photos/nathancongleton/30937063573 | Red Carpet Report on Mingle Media TV https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Frances_McDormand_2015_(cropped).jpg | www.GlynLowe.com https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Joel_Coen_-_Berlin_Berlinale_66_(24950127406).jpg

ウィリアム・シェイクスピアの傑作戯曲『マクベス』を、コーエン兄弟の兄ジョエルが映画化する『The Tragedy of Macbeth(原題)』は、主人公マクベスを『イコライザー』シリーズのデンゼル・ワシントン、マクベス夫人を『スリー・ビルボード』(2017)のフランシス・マクドーマンドという最強タッグが演じる注目作だ。脚本・監督のジョエル・コーエンによれば、本作は原作に忠実なまま、“スリラー映画”として製作されているという。

『ハムレット』『リア王』『オセロー』に並んで“四大悲劇”のひとつに数えられる『マクベス』は、スコットランドの将軍マクベスの隆盛と失墜、夫婦の野心と狂気を描く物語。ある時、マクベスは荒野で3人の魔女に出会い、「いずれ国王になる」との予言を受ける。その言葉にとりつかれたマクベスは、妻にそそのかされるまま国王を暗殺。予言通り国王の座に就くが、魔女の「将軍バンクォーの子孫が王になる」との言葉に怯え、次々と殺人に手を染め、不安のままに暴政をふるっていく。

このたび、実生活では夫婦であるコーエン監督とフランシスがイタリア・フェニーチェ劇場のInstagramに登場。新型コロナウイルスの影響を受け、撮影は全体の3分の2を終えた時点で中断されているというが、作品の内容についてたっぷりと語ってくれている。

『マクベス』はタイムリミット・サスペンス?

フランシスによれば、本作のポイントは、タイトルが『マクベス』ではなく「マクベスの悲劇」を意味する『The Tragedy of Macbeth』であること。2020年4月現在、デンゼルは65歳、フランシスは62歳であり、マクベス夫妻を演じる俳優としてはやや高齢だ。しかし、そんな高齢のマクベス夫妻に子どもがいないということが、2人を王座へと駆り立てるのだという。いわく、夫婦にとっては「王座こそが栄光への最後のチャンス」なのだ。

「演じるにあたっては、2人に子どもがいないということが非常に大切です。妊娠は何度もあったでしょうし、子どもが生まれたこともあったのかもしれませんが、流産あるいは小さいうちに亡くしてしまった。そんな、彼女にとっての個人的な悲劇が、夫に王冠を与えようという野心に火をつけるのです。なぜなら、彼女は夫に跡継ぎを残してやれなかったから。私にとっては、それが役柄の本質なのです。」

そんな本作を、フランシスは「登場人物にとっても、ストーリーテリングの面でも時間が迫っている」作品だと語る。登場人物に残された時間が短いという“カウントダウン・サスペンス”が、物語を前進させるのだと。

脚本・監督のジョエルは、舞台で『マクベス』を初めて観た時から、その物語を一種のスリラーとして捉えていたと語る。実際に翻案を手がけ、その思いは強くなった、とも。ジョエルは今回、シェイクスピアが1600年代初頭に執筆した戯曲について、20世紀前半のアメリカ犯罪小説にあった「殺人を計画する夫婦の物語」という“型”を先取りしていると指摘する。「そういう小説を子どもの頃から読んでいたので、その要素を取り入れたら面白くなると思いました」。

その一方、ジョエルの脚本は、シェイクスピアの戯曲からセリフの85%を使用している。「あれこれ変更することはせず、多少編集しただけ」という、原作にとても忠実な内容ということだ。また、全編の98%が韻文で書かれているという戯曲の音楽性を意識して、劇伴は「主に打楽器で、時間を刻むものにしたい」とのこと。詳細は決まっていないというが、音楽はコーエン兄弟の全作品を手がけるカーター・バーウェルが担当する予定だ。

魔女、キャスリン・ハンターの1人3役に

『The Tragedy of Macbeth』には、デンゼル&フランシスのほか、ダンカン王役に「ミスター・メルセデス」のブレンダン・グリーソン、マクダフ役に『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)のコリー・ホーキンズ、マルコム役に『ハリー・ポッター』ダドリー役を演じたハリー・メリング、そして「チェルノブイリ」(2019)のラルフ・アイネソンらが出演する。なかでも注目は、3人の魔女をキャサリン・ハンターが1人3役で演じることだ。

主にイギリスの舞台で活躍し、多くのシェイクスピア劇に出演してきたキャサリンは、日本でも野田秀樹作品に出演するなど、国内の舞台ファンにもよく知られる人物。キャリアの長さに比して映画・ドラマへの出演は多くないが、「ROME[ローマ]」(2005-2007)や『五日物語-3つの王国と3人の女-』(2015)、「ブラック・アース・ライジング」(2018)などに登場している。

ジョエルによれば、本作に登場する魔女は、“戦場で死体をつつく鳥たち”という設定。もっとも、鳥としての姿から、キャサリン演じる人間の姿へと自在に変化するところがポイントだ。これはジョエルとフランシスが2人で考案したアイデアであり、映像化には非常に力が入っている模様。「今回の物語でも、魔女たちは大きな役割を担うことになります」。

なおマクベス夫妻を演じるデンゼル&フランシスは、「子どもを持たない高齢の夫婦」という以外にも興味深い解釈を施してもいる。リハーサルの中、デンゼルが「2人はどこで出会ったのだろう?」という疑問を口にした時、フランシスは、同じくシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を使えるとひらめいたとか。15歳で出会い、家族や周囲の反対を押し切って結婚しようとした2人が、もし自殺せず、本当に結婚していたら。そして、それから50年が経ったなら?

ちなみに、ジョエル・コーエンによる『マクベス』の翻案という企画は、もともとフランシスから、『マクベス』の舞台をジョエルが演出するというアイデアが出たことから始まったもの。「舞台の演出家ではない」との理由からその話はなくなったが、2016年にフランシスが舞台でマクベス夫人を演じたことで、ジョエルは映画化に関心を抱いたという。ジョエルは本作のために多くの『マクベス』翻案作品を観たといい、なかでも一番のお気に入りは、黒澤明による『蜘蛛巣城』(1957)だったとか。

映画『The Tragedy of Macbeth(原題)』の公開時期は未定。製作は気鋭の映画スタジオ「A24」が担当している。

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Source: The Film StageTeatro La Fenice

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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