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【インタビュー】『メインストリーム』アンドリュー・ガーフィールドを通して伝えるSNSの功罪、ジア・コッポラ監督の挑戦

メインストリーム
©2020 Eat Art, LLC All rights reserved.

2021年の小中学生に「将来なりたい職業」を聞くと、ランキングの上位にはYouTuberが入ってくるのだという。今ではそれほどの影響力を持つYouTubeだが、その功罪を軽快さと重々しさのコントラストで描きだした新作映画が日本に上陸する。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズで知られるアンドリュー・ガーフィールドが主演を務める『メインストリーム』だ。

監督を務めたのは、2013年の青春映画『パロアルト・ストーリー』で鮮烈な長編映画監督デビューを果たしたジア・コッポラ。映画近現代史を語る上で不可欠なフランシス・フォード・コッポラ監督を祖父に、ファッショントレンドにも影響を与えるソフィア・コッポラ監督を叔母に持つコッポラ・ファミリーの1人としても知られる。

このたびTHE RIVERは、ジア・コッポラ監督への単独インタビューを実施。フォトグラファーや画家としての活動も行うジア監督ならではの世界観や新たな試み、テクノロジーをめぐって現代と通ずるテーマ性などについて語ってくれた。

『メインストリーム』の出演者には「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016-)のロビン役で知られるマヤ・ホーク、『パロアルト・ストーリー』から続投のナット・ウルフ、そして日本ではお馴染みモデルのローラと、多彩な顔ぶれが揃った。主演のガーフィールドは、プロデューサーデビューを飾ってもいる。本記事を通して、多方面で注目を浴びる本作が放つ魅力に迫る。

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「新たな色を加えた」コロナ禍での公開

── 本作『メインストリーム』は、米国では2021年5月に公開されましたね。それからはいかがお過ごしでしょうか?

元気に過ごしています。今はロサンゼルスの家にいるんですけど、自分を刺激するものは何か、次は何をやろうか、みたいなことを考えています。あとは、本を読んだりして楽しく過ごしています。あなたは元気にしてますか?

── 元気です!ここ最近は、日本にもハリウッドの新作がまた届きはじめているので、少し忙しくなってきました。

良いことですね。

── そうなんです!さっそくですが、ジア監督が長編映画を撮るのは、2013年の『パロアルト・ストーリー』以来7年越しとなりました。『メインストリーム』では、何か映画を作る決め手のようなものがあったのでしょうか?

私は写真家としてのキャリアから『パロアルト・ストーリー』を作りました。あの作品で監督をさせてもらえることになってからは、ひたすら作ることに集中していましたね。(『パロアルト・ストーリー』が)ひと段落した後は、次にやりたいことについては考えませんでした。自分自身に繋がりがあるような映画を作りたかったんです。私にとって意味のあるストーリーは何なのかと考えていたら、それだけ時間もかかってしまいました。

それから、やりたいと興味を持ったアイデアに出会ったんです。おかしなアイデアではあったんですけど、当時は(そのアイデアがもたらす)社会的な影響も小さかったので、映画として作ること自体が難しくて。あの時は、まだ考えも浸透していなかったんですね。特定のジャンルではない奇抜なインディペンデント映画を作るのはすごく大変です。

そのあと、1950年代を風刺したような昔の映画『群衆の中の一つの顔』(1957)に出会ったんです。その映画では、各時代で向き合ってきたようなことに関係があるような問題が扱われています。一方で、その作品の中心には感情やナルシズムとの関係も描かれていて、そういったテーマに引き寄せられていきました。それで、ソーシャルメディアのことが浮かんだんです。

メインストリーム
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── 今作では、脚本デビューを飾ったトム・スチュワートと一緒にストーリーを作り上げています。彼とはどのようなきっかけで、意気投合したのでしょう?

私が書いたバージョンの脚本はあったのですが、壮大なアイデアを扱っていたので、1人で取り組むのはすごく難しいと感じていたんです。どうやってこの大きすぎるアイデアをシンプルで潜在意識に働きかけるようなものにすれば良いのか?と。

アンドリューに(主人公の)リンクを演じてほしいということだけはずっと考えていました。数年の間にアンドリューのことをだんだん知るようになって、彼がこうしたテーマに興味があると思ったんです。彼自身も聡明で、情熱を持っていました。もし彼を参加させることができたら、私が伝えたいことを彼が伝えてくれると思って、すごく心強いと感じたんです。

そのあと、アンドリューと一緒にワークショップを開きました。アンドリューの友達でもあった脚本家のトム・スチュアートもその場にいたので、彼に“手伝ってくれないかな?”と頼んだんです。ずっと取り組んできたアイデアを脚本として形にするために手を貸してくれないかと。結果的に、トムとはすごく素敵で協力的な関係を築けたので、その後はスムーズにいきました。

メインストリーム
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── コロナ禍での公開となったことは、予想外でしたか?

映画が公開される時にパンデミックが来るなんて思ってもみませんでした。最初は不安でしたけど、興味深いことでもありました。最初にアイデアを考えた時は、テクノロジーとの関係はどういうものなのか、といった思考を促すようなレイヤーの足しになればというくらいに思ったんですけど、今ではもっと掘り下げられたものになって、新しい色を加えてくれたと思っています。

「ヒーローみたいな」アンドリュー・ガーフィールド、大変身

── キャスティングについては、なんと言ってもアンドリュー・ガーフィールドの性悪YouTuberが、最高にハマっていました。彼は『アメイジング・スパイダーマン』シリーズや『ハクソー・リッジ』といった出演作もあって、誠実なイメージを持たれているようにも感じますが、そのイメージをぶち破る演技には脱帽でした。キャスティングはどのようにして行われたのでしょう?

彼はよくヒーロー的なキャラクターを演じてきたと思いますが、だからこそ彼がイメージにないようなキャラクターを演じているのを見たら面白いと思ったんです。誰もが知っていて愛すべき存在で、善人でヒーローみたいな人が、“らしくない”キャラクターを演じているのを観るのって、ファンにとっても魅力的じゃないですか。アンドリューみたいな人が普段とは全く違うことをしたら面白いだろうなってずっと考えていました。

彼がほかにワクワクすることが何なのかも知りたかったんです。彼は素敵なダンサーでもあるので、自分から進んでハリウッド大通りで裸で走ろうとしてくれたのは、彼にとってもスリリングだったんじゃないかな。私にとってもそうでしたけどね。演技指導のクラスで知り合ってから、ずっと彼を追いかけてきましたし、彼以外にこの役が務まる人を想像できませんでした。

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── 日本では、アンドリューが演じるキャラクターは「SNS界のジョーカー」と謳われています。これについてはどう思われますか?

素敵ですね(笑)。そのアイデア気に入りました!自分のエゴによって度が過ぎてしまって破滅に向かってしまうアンチヒーローですよね。私自身、『ジョーカー』が大好きなので、そう言ってもらえるなんて嬉しいです。

── アンドリューがスパイダーマンを演じていたというのも面白い話ですよね(笑)。

ほんとですよ!スパイダーマンとジョーカーの対決!的な(笑)。

── YouTuberを演じていく上でアンドリューにはどのような指示を与えたのでしょう?

これはすごくワクワクしていたことなんですけど、アンドリューのことをiPhoneで撮影したんです。でも最終的には、彼にセルカ棒を渡すことになって。彼は自由に走り回ってすごく楽しそうでしたよ。自分らしさも出しながら。なので私がすることは何も無かったです(笑)。

『メインストリーム』
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── となると、アンドリューによるアドリブも?

そうなんです。私たちには脚本があったんですけど、彼がやりたい放題に演じてくれました。

── そんな彼に共演者のリアクションはどんな感じでしたか?

彼らも楽しんでいましたよ。実際に楽しまなくちゃいけないシーンでもあったので。でもどうなるか全く分からなくて、実際に私たちが望んだことをやりきれるか分からなくて不安にもなったんですが、最終的にはうまくいきました。

── アンドリューは本作で、プロデューサーデビューもしています。プロデューサーとしての彼はいかがでしたか?

映画を作る時ってコラボレーションが肝で、家族のようでなくてはいけないと思っています。誰もが色々な役割を与えられていますから、彼にも脚本の打ち合わせに参加してもらって、キャラクターについてのアイデアを出し合ったり、アドリブシーンがうまくいくかを話したりしました。インターネットに関しての意見については、私より彼のほうが賢くてずっと説得力がありましたよ。私にとってもメンター的な存在で、頼もしかったです。

メインストリーム
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── フランキー役のマヤ・ホークとのお仕事はいかがでしたか?

私はたくさんの人と会って、誰ならフランキーというキャラクターを演じられるか?と悩んできました。マヤとは、彼女が参加していたキャンペーンの撮影会を通して出会ったんですが、映画のこととは関係なく、人としてマヤのことを知っていくうちに、直感で彼女なら私が望んでいたものを拾ってくれて、お互い良い気持ちで出来るかもと思ったんです。

自分の目の前に望んでいたようなキャラクターがいると気づいた時には、私たちはテーブルを囲んだ1つのグループみたいになっていて、それぞれが何かを持ち寄ってくれる感覚でした。マヤは、彼女自身のSNSとの関係性を演技に反映してくれました。素敵な方です。

メインストリーム
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── ナット・ウルフも『パロアルト・ストーリー』から連続で出演していましたね。『パロアルト・ストーリー』では少しクレイジーな役どころでしたが、今作では良いヤツって感じでした。

『パロアルト・ストーリー』の後も、ナットとはまた一緒にやりたいと思っていて。ナットはチャーミングで愛嬌もあって、私にとっては弟みたいな存在なんです。ずっと話していられますし。

この作品では、ナットが『パロアルト・ストーリー』で演じたのとは真逆のことをしてもらいたくて、ジェイクというキャラクターは彼のことを思い浮かべながら書きました。実際、彼のキャラクターはすごく重要で、あのようなカオスの中で唯一、コンパスみたいな存在なんです。その役に彼がふさわしいと思っていました。

「ジャッカス」ジョニー・ノックスビルに相談

── 作品のテーマは現代に大きく関係していて、テクノロジーとは切っても切り離せない世界を描いています。新しいことに挑戦する上で、過去の経験には頼れない部分が多かったのではないでしょうか。斬新なアイデアを生み出しながら、さらに映像として伝えていくとなると、どのようなプロセスを取っていったのでしょう。

この企画を進めていくなかで楽しかったのは、自分たちのデジタルワールドをどうやって捉えて、どうやって映画にしていくか。そういう作品を過去に観たことがありませんでした。だから、すごく難しくも感じましたね。挑戦あるのみ、という感じで。

頭の中でははっきりとしたビジュアルのイメージがあって、絵文字を使って嘔吐を表す演出もずっとやってみたかったことでした。大量のコンテンツを扱った時の私の感覚でもあるので。リンクが彼女(フランキー)を飲み込もうとするようなビジュアルも、私が夢で見たようなもので、そうした何個かの断片が形となっていきました。

メインストリーム
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── 映画のほかにも、写真や絵画といったアートにジア監督は日常的に触れていると思います。だからこそ、アンドリュー・ガーフィールドが演じたリンクが「スケボーでなく、アートを食らえ」と言い放ったセリフが印象的でした。この言葉には、ご自身の考えが反映されているのでしょうか?

たぶんですけど、私たちの誰もが頭を悩ませながら、どのようにしたらアートが新しい領域に進むんだろうと考えているんです。彼(リンク)は、“全部食らい尽くして、飲み干して、あとは流れに身を任せてしまえ”みたいなことも言っていましたけど、私たちもそれくらい現実を見て考えなければいけないんだと思ったんです。

── ノーワン・スペシャル(リンク)が作っていたYouTube動画について質問です。あのようなたコンテンツはどのように発想で作っていったのでしょう?

実際にバズる可能性のあるような動画でなければいけませんでした。他のYouTuberがどんなことをしていたのかはたくさんリサーチしましたね。「ジャッカス」のような動画ってどうやったら作るんだろうって。だから実際に、(「ジャッカス」の)ジョニー・ノックスビルのところにいって、衝撃的な動画を作るための相談もしにいきましたよ。

(脚本の)トム・スチュアートもたくさん頑張ってくれました。彼は、アンドリューが俳優として何がやりたいのか、何に興味を持っているのかを知っていましたから。自分らしさを全部さらけだしてしまったり、評価を全く恐れないことで批判されてしまったり。そういうことを、より皮肉を込めて、惑わすようなやり方で追求していきました。

『メインストリーム』
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── 番組に出演したインフルエンサーのなかに、日本ではものすごく有名なローラがいたのにはびっくりしました…!どのようにして彼女を起用するに至ったのでしょう?

ローラね!彼女は面白かったです。ノーワン・スペシャルの番組の撮影をした時、これから何が起こるかをその場の誰にも伝えていなかったんです。なのに彼女はその場に居続けて、目の前の状況に動じなかったんです。そのあと、ローラに“全然動じなかったね”って言ったら、彼女は“そんなそんな、最高でしたよ。楽しかったです”って(笑)。

たくさんのYouTuberといろんなプロセスを通して知り合って話し合いました。とにかく、色々なコンテンツを提供している個性的なYouTuberを出演させたかったんです。

メインストリーム
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── 映画作りにおいて、ソフィア・コッポラ(叔母)やフランシス・フォード・コッポラ(祖父)から何かアドバイスを受けたりしますか?

もちろんです。アドバイスをくれるような素晴らしい方たちを家族に持てて感謝しています。彼らは、私にあまり影響を与えすぎずに、好きなようにさせてもくれるんですよ。監督がカメラに寄って俳優とコミュニケーションを取るとか、頭を働かせるためには欠かせない朝食とか、セットにいさせてもらったことで学んだ技術もあります。

── 最後に、今後の予定を教えて下さい。

あまり話せないのですが、今も企画を進めていますよ。常にどうやったらクリエイティブでいられるかを考えています。写真撮影だったりミュージックビデオだったりのこととかも。いまはポッドキャストにすごく興味があります。トークラジオみたいな。聴覚を通じた作品には惹かれますね。

『メインストリーム』
Courtesy of Tori Time

『メインストリーム』作品情報

夢と野心が交錯する街、米ロサンゼルス。20代のフランキー(マヤ・ホーク)は、YouTubeに動画をアップしながら、さびれたコメディバーで生計を立てる日々に嫌気がさしていた。ある日、リンク(アンドリュー・ガーフィールド)という天才的な話術の持ち主と出会い、フランキーはそのカリスマ性に魅了される。男友達で作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)にも声をかけ、本格的に動画制作をスタートさせていく。

「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と自らを名乗り、リンクのシニカルで破天荒な言動を追った動画は、かつてない再生数と「いいね!」を記録。リンクは瞬く間に人気YouTuberとなり、3人はSNS界のスターダムを駆け上がっていく。刺激的な日々と、誰もが羨む名声を得た喜びも束の間、いつしか「いいね!」の媚薬は、リンクの人格を蝕んでいた。ノーワン・スペシャル自身が猛毒と化し、やがて世界中のネットユーザーからの強烈な批判を浴びるとき、野心は狂気となって暴走し、決して起きてはならない衝撃の展開を迎える……。

映画『メインストリーム』は全国公開中。

Writer

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SawadyYOSHINORI SAWADA

THE RIVER編集部。宇宙、アウトドア、ダンスと多趣味ですが、一番はやはり映画。 "Old is New"という言葉の表すような新鮮且つ謙虚な姿勢を心構えに物書きをしています。 宜しくお願い致します。ご連絡はsawada@riverch.jpまで。

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