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『マーティン・エデン』偉大なる作家ジャック・ロンドンの再発見 ─ 『野性の呼び声』原作者が描いた「絶望の青春」

マーティン・エデン
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE

無学の青年が上級階級の女性に出会ったことから作家を目指し、底辺から高みへと上り詰めようとする……。作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリアを舞台に映画化した『マーティン・エデン』が2020年9月18日(金)より公開される。

原作者であるジャック・ロンドンは、ハリソン・フォード主演『野性の呼び声』(2020)や本作のほか、『白牙』(『白い牙』)や『海の狼』など、長きにわたって小説が映画化されてきた人物。自身の半生に基づいた『マーティン・エデン』から、ジャック・ロンドンという作家に再び迫ってみよう。

マーティン・エデン

『マーティン・エデン』の原作となった小説『マーティン・イーデン』(白水社)は、ジャック・ロンドンが自らの波乱万丈な人生を基に紡ぎ出した自伝的小説だ。1876年、アメリカ・カリフォルニアに生まれたジャックは、工場での労働やアザラシ漁船の乗組員など数々の仕事についたのち、1902年『野性の呼び声』のヒットで流行作家となる。

その後もジャックは、アラスカの自然を描いた短編や、海洋小説、ボクシング小説、SF、幻想小説、ルポルタージュなどジャンルにとらわれることなく作品を発表して名声を博し、のちの世代にも大きな影響を与えてきた。たとえば、放浪の果てにアラスカの荒野で命を落とした青年の人生を追ったノンフィクション『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)では、主人公がロンドンの小説を愛読する姿も描かれている。

ロンドンの小説を原作とした映画は多数製作されているが、なかでも出世作である『野性の呼び声』、海洋冒険小説『海の狼』、動物文学の傑作と名高い『白い牙』は根強い人気を誇り、繰り返し映画化されている。2020年2月には、クリス・サンダース監督、ハリソン・フォード主演の『野性の呼び声』が公開され、こちらはなんと通算6度目の映画化作品となった。また、恐るべき大疫病による人類の滅亡を描いたSF小説『赤死病』は、コロナ禍を予言したともいわれる話題作で、『U230 赤死病』として8月28日(金)に白水社より復刊予定。こちらも、ジャック・ロンドンという作家を読み直す上では絶対に逃せない一作だ。

マーティン・エデン
『マーティン・イーデン』白水社

若き日の破天荒な生活を経て大作家になるというアメリカン・ドリームを体現したロンドンは、労働者階級出身であり、社会主義者でもあった。『マーティン・エデン』を手がけたピエトロ・マルチェッロ監督は、ロンドン自身をベースとする本作の主人公に魅せられたという。

「マーティン・エデンは、ファウストやハムレットのような普遍的なキャラクター。青年が男になり、世の中を知る物語なのです。彼は知識や教養を吸収し、本当の自分を取り戻し、ついには自分を放棄する。彼は僕たちとそう変わらない人間です。特に、さまざまな文化的刺激を通して、自分を解放しようとするところ。だれもが共感できるはずです。」

階級格差や自身に迫る貧困に向き合い、本当の自分を見つけようともがく青年の姿は、現代を生きるすべての人々に突き刺さる重要なテーマだ。主演のルカ・マリネッリはマーティンの生き方を全身全霊で体現し、ヴェネツィア国際映画祭《男優賞》に輝いた。

『マーティン・エデン』

イタリア・ナポリ。労働者地区で生まれ育った、貧しい船乗りの青年マーティンは、上流階級の娘エレナと恋に落ちて教養に目覚める。時代が激動する中、無学だったマーティンは、運命の出会いに導かれるようにして文学にのめり込んでいった。彼は作家を志し、独学で夢に向かって突き進むが、やがて生活は困窮し、恋人の理解も得られない。ところが、絶望に駆られてすべてを諦めようとした矢先、彼の運命は一変する。その時、彼を待ち受けていたものは希望か、それとも絶望か。

本作は、時代を超えて読み継がれる、米文学界を代表するジャック・ロンドンの自伝的小説をイタリアを舞台に完全映画化した本格青春文芸ドラマ。2019年のヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミアを迎え、主演のルカ・マリネッリが男優賞を受賞。監督は、本作で2019年トロント国際映画祭審査員プラットフォーム賞、2020年イタリア・アカデミー賞脚色賞を受賞した俊英ピエトロ・マルチェッロが務めた。

映画『マーティン・エデン』は2020年9月18日(金)シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。

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THE RIVER編集部THE RIVER

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