【解説】『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』悪役ガブリエルは過去作に出ていたわけではない ─ なぜ再登場っぽく見えたのか

トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)で悪役としてイーサン・ハントたちを苦しめるのは、イーサイ・モラレスが演じるガブリエルという男だ。イーサンの過去に因縁を抱える男であり、劇中では過去のシリーズ作から再登場しました、みたいな雰囲気も醸していたが、実際には本作が初登場である。
『デッドレコニング』冒頭では、イーサンがIMFへ参加するきっかけとなった事件がフラッシュバックで描かれる。セピア色で描かれたこの夜のシークエンスでは、ガブリエルがマリーという女性を射殺するのを、イーサンがフェンス越しに許してしまい、ついぞ助けられないという出来事が描かれていた。
シリーズの1作目『ミッション:インポッシブル』(1996)にも少し似たようなシーンがあったので、観客は混乱したかもしれない。1作目序盤の夜のプラハでの任務では、謎の人物の襲撃によってサラ・デイヴィスらIMFのスパイたちが次々と殺害される。イーサンは犯人を捕えるために走るが間に合わず、サラはイーサンの目の前で息を引き取ってしまう。
このシーンもフェンスの側で行われていたし、駆け寄ってきたイーサンはタキシード姿だった。シリーズの朧げな記憶と共に『デッドレコニング』を観た観客は、「はて、こんなシーンが過去作にあっただろうか」と思ったことだろう。
しかし、今回のフラッシュバックは過去の作品からの引用ではなく、新たに作成されたバックストーリーだ。殺害されたマリーも過去作に登場していたわけではなく、イーサンがかつて関係を持った(かもしれない)女性に過ぎない。
そういうわけで、ここで女性を射殺したガブリエルも、イーサンの過去に因縁を持つという設定の新キャラクターだ。本編の中で初めて本格登場し、イーサンと対面するシーンでは因縁の再会らしさが描かれたし、彼らはよく過去の話を口にするので、「過去作に登場したキャラクターの再登場なのだろうか」「シリーズの古参ファンはここで驚いているのだろうか」という気になるのも無理はない。
ガブリエルが過去作からの再登場のように思えたのは、『ミッション:インポッシブル』のような長寿シリーズと、近年のハリウッド映画のトレンドによるものだろう。2015年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』予告編映像でハリソン・フォードのハン・ソロを再登場させて世界中のファンを沸かせて以来、ハリウッドは古いキャラクターたちとの再会には大きな価値があることに気づいた。オリジナル版の伝説のキャストによるサプライズ続投はひとつの定番となり、本作『デッドレコニング』にも、1作目のユージーン・キトリッジ(ヘンリー・ツェニー)が再登場している。
ガブリエルは、イーサンがIMFに所属するよりも前、我々が知る彼よりも過去に存在するキャラクターだと、クリストファー・マッカーリー監督は話している。「二人は昔からお互いを知っており、今の二人を作り上げた過去の出来事を共有しています。それが今、また巡ってきたのです」。

クライマックスの列車の戦いで、ガブリエルは難を脱して逃げている。間違いなく続編にも再登場するはずだ。その時こそ初めて我々は、「前作のアイツだ」と再会気分を味わうことができるだろう。
▼ 『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』の記事
『ミッション:インポッシブル8』ついに撮影終了、製作費4億ドル ─ タイトル発表&予告編もうすぐ よ、よんおくどる トム・クルーズは『ミッション:インポッシブル』シリーズ合計で8分間は全力疾走している ─ トムがひたすら走るシーンを集めた映像で明らかに 冷静にすげぇ 『ミッション:インポッシブル8』製作費が前作超えの3億ドル突破、黒字化ハードルさらに上がる 特大ヒットを祈ろう 『ミッション:インポッシブル8』出演者、トム・クルーズとの共演シーンがどうしても欲しくて直談判 ─ 「お金はもう要りませんから」 言ってみるもんだ 『ミッション:インポッシブル8』には1作目の金庫潜入シーンでやらかした可哀想なアノ人が帰ってくる? 物憂げな表情