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シブい、アツい、破天荒!ハリウッドで戦う中年アクション・スターに燃えろ

映画『トレイン・ミッション』リーアム・ニーソン
©THE RIVER

とにかく何もかもがシブい。まさか2018年に、ルドガー・ハウアーが猟銃をぶっ放す映画を見られるとは思わなかった。『リミット・オブ・アサシン』(2017)は「男」というよりも「漢」の物語である。妻子を失った孤独な暗殺者、トラヴィス(イーサン・ホーク)は、任務中に銃撃され命を落とす。蘇生手術により24時間だけ延命させられたトラヴィスは、最後の力を振り絞って正義を遂行しようとするのだった。

それにしても、イーサン・ホークである。若い頃はインテリ派俳優として、小粋なインディペンデント映画ばかりに出演しているイメージが強かった。しかし、最近になって『バレー・オブ・バイレンス』(2016)や『マグニフィセント・セブン』(2016)といったアクション作品に次々と出演、演技の幅を広げている。なんというか、「売れるものに興味はないです。洋楽しか聴かないです」とかイキがってた大学生が、年をとってから「やっぱりアイドル最高おお!」とか吹っ切れたみたいというか(全然違うような気もする)。

そこで今回は、中年以降になって急に「アクション路線」に目覚めた俳優たちを振り返りながら「オヤジ・アクション」の魅力を紹介していきたい。

知性派アクション・スター、遅れて登場!リーアム・ニーソン

映画『トレイン・ミッション』リーアム・ニーソン
©THE RIVER

190センチを超える恵まれた体躯ゆえ、20代から30代にかけては『ダークマン』(1990)などのアクション映画への出演が目立っていたニーソン。しかし、『シンドラーのリスト』(1993)で演技派としての評価を高めてからアクション路線を封印し、社会派映画や、偉人の伝記映画でシリアスな演技を見せるようになった。例外は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)のクワイ=ガン・ジン役だが、『スター・ウォーズ』シリーズをオファーされて断る役者はいないだろう。

流れが傾いたのは、齢50を超えて出演した『96時間』(2008)である。「誘拐された家族のために体を張る元CIAのお父さん」という役柄にリアリティを持たせられたのは、そもそもの演技力が高かったのと「知性派」のイメージが世間に浸透していたから。単なる肉体派俳優ではこなせない当たり役として、シリーズは3作も公開された。以降、『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010)や『ラン・オールナイト』(2015)、『トレイン・ミッション』(2018)といったアクション作品で「頭脳」と「肉体」を両立させながら活躍している。

アカデミー賞を獲ってますます壊れる!ニコラス・ケイジ

ドッグ・イート・ドッグ
『ドッグ・イート・ドッグ』©2015 BLUE BUDGIE DED PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ニコラス・ケイジが『リービング・ラスベガス』(1995)でアカデミー主演男優賞を獲ったときの衝撃は忘れがたい。筆者は当時小学生だったが、ケイジといえば「変な映画でヤバい人ばかり演じている俳優」であり、なんというか、マッド・サイエンティストがノーベル賞をもらったようなものだったのだ。

しかもケイジはアカデミー賞獲得後、『ザ・ロック』(1996)や『コン・エアー』(1997)、『フェイス/オフ』(1997)といったアクション大作に連続して出演、「演技派路線」に落ち着くかと思われた周囲の予想を大きく裏切る。『スネーク・アイズ』(1998)のキレた演技では、「ヤバさ」も失っていないことを証明し、「本来ならハリウッドにいてはいけない人」が大ヒット作に出続けているスリルを存分に楽しませてくれた。

ただ、あまりにも出演作選びに「金の臭い」がしすぎたせいだろうか、ケイジの人気はゆるやかに下降していく。それでもたまに、『バッド・ルーテナント』(2009)や『キック・アス』(2010)、『ドッグ・イート・ドッグ』(2016)といった挑戦的な傑作にも、思い出したように出演するのでいまだ無視できない怪優だ。

コンプラ気にしてアクションがやれるか!デンゼル・ワシントン

『マグニフィセント・セブン』© 2016 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc., Columbia Pictures Industries, Inc., LSC Film Corporation and Village Roadshow Films Global Inc. All Rights Reserved.

『グローリー』(1989)でアカデミー助演男優賞獲得後、話題作に主演できる大スターとなったデンゼル・ワシントン。弁護士や刑事のような知的な役柄を演じられる黒人俳優として、かつては紳士的なイメージが強かった。

しかし、ワシントンが念願のアカデミー主演男優賞を獲得したのは、極悪非道な汚職警官を演じた『トレーニング・デイ』(2001)だった。そして、ワシントンの演技はコンプライアンスを取っ払い「何でもあり」になっていく。哀しき復讐の鬼を演じた『マイ・ボディガード』(2004)、麻薬王役の『アメリカン・ギャングスター』(2007)、最強の元エージェント役の『イコライザー』(2014)などは「白人に好かれる真面目な黒人俳優」のイメージを払拭した当たり役だ。

一方で、監督主演作『フェンス』(2016)ではシリアスに人種問題へと切り込み、非常にバランスのとれた俳優キャリアを送っているといえるだろう。

道を誤ったからこそ今がある!ロバート・ダウニー・Jr.

ロバート・ダウニー・Jr
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/14800476884

大金を手にしたことによる感覚の麻痺、極度のプレッシャー、派手な人間関係……。ハリウッド・スターが道を踏み外す理由は山ほどある。若手時代、カメレオン俳優として称賛されていたロバート・ダウニー・Jr.も誘惑に負けてしまった一人だ。深刻な薬物中毒に苦しみ、1999年には刑務所生活も経験している。

その後、リハビリによって中毒症状こそ克服したものの、ここまでイメージダウンしたスターの復活は非常に難しい。ところが、ダウニー・Jr.はあえて自分の過去を髣髴とさせるようなイリーガルな役柄を進んで演じるようになり、映画ファンから再評価されていく。『アイアンマン』2008)や『シャーロック・ホームズ』(2009)などのアクション映画で見せた破天荒なヒーロー像には、波乱万丈の人生経験あってこその説得力が宿っていた。

しかし、ここまでの復活劇を見せたスターは、彼とドリュー・バリモアくらいのものではないだろうか?ダウニー・Jr.MCU関係のイベントで笑顔を振りまくたび、すさまじい感慨が押し寄せてしまうのだ。 

時代がやっと追いついた!ウディ・ハレルソン

ウディ・ハレルソン
LBJ Library Photo by Gabriel Cristóver Pérez https://www.flickr.com/photos/lbjlibrarynow/30416968941/

ロバート・ダウニー・Jrと違った意味で破天荒なのがウディ・ハレルソンである。何しろ「大麻合法化」を目指して運動を展開するほど、ロックな思想の持ち主。そのせいで、かつては『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)や『ラリー・フリント』(1996)のような問題作に引っ張りだこだった。

しかし、年齢とともに円熟味が出てきた今、元来の「凶暴性」がややマイルドになりつつある。良くも悪くも、「万人受け」する個性に変わってきたのだ。『ゾンビランド』(2009)のような包容力のあるアニキ分キャラは、ハレルソンの新境地だといえるだろう。その後、『トリプル9 裏切りのコード』(2016)などの佳作に加え、かつてのイカれた演技が好きだった人間としても、『猿の惑星:聖戦記』(2016)や『ある決闘 セントヘレナの掟』(2016)などで見せる威圧感たっぷりな演技には大満足だ。

2018年はついに『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』で『スター・ウォーズ』サーガの一員となる。ハレルソンの「第2の黄金期」を支えているのは、間違いなくアクション路線なのだ。

豊かな多面性の演技はピカイチ!ジョシュ・ブローリン

ジョシュ・ブローリン
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/14609924158/

2世俳優であり、映画デビュー作『グーニーズ』(1985)の時点で注目を集めるが、当たり役らしい当たり役に恵まれることなく、ブローリンのキャリアは無難に過ぎていく。転機となったのは、『ノー・カントリー』(2007)で凶悪な殺し屋アントン・シガーと渡り合う男・モスを演じたときだ。すでにアラフォーの域へとさしかかっていたブローリンは、若手俳優では出せない悲哀を表現できるようになっていた。以後、ブローリンは『ブッシュ』(2008)や『ミルク』(2008)、『トゥルー・グリット』(2010)といった映画で好感度の低いキャラクターを多層的に演じ、評価を高めていく。

こうしたブローリンの個性は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)におけるシリーズ最強のヴィランであるサノス、『デッドプール2』(2018)のケーブル役といったアメコミ映画でも活かされている。「誰がこの役できるんだ?」と原作ファンから懸念されていた役柄すら、ブローリンによって深みのある人格が与えられるのだ。『オンリー・ザ・ブレイブ』(2017)の強さと弱さを兼ね備えた森林消防隊のリーダー役も、それらの延長線上だといえる。 

真の漢は魅力的な声で殺す!イドリス・エルバ

ダークタワー
『ダークタワー』(c) 2017 Columbia Pictures Industries, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.

俳優にとって、『007』シリーズのジェームズ・ボンド役を演じるのは、サッカー選手がバロンドールを獲得するほどの名誉だろう。そして今後、有色人種から初のジェームズ・ボンドが選ばれるなら、イドリス・エルバが最有力候補だろうと囁かれている。

確かに、ワイルドさと知性をいずれもそなえたエルバは、ボンドの条件に相応しい。そして、エルバは近作でも「ボンドを演じるに値する」だけのアクションをスクリーン内で見せてきた。『マイティ・ソー』シリーズのヘイムダルも捨てがたいが、ややソーの引き立て役といった印象は残る。それよりも、エルバ個人の見せ場としては『パシフィック・リム』(2013)で見せたカリスマ性、『ダークタワー』(2017)で見せた銃さばきを強く推したいところだ。また、『ズートピア』(2016)や『ジャングル・ブック』(2016)といった吹替え作品で見せた「誰ですか、このマフィア!?」な声の演技も強烈だった。相手を恫喝する声も怖いのだが、『ジャングル・ブック』のシア・カーンがあえて発する猫なで声の演技は、アニメ版を超えていると個人的には思う。


あなたのお気に入りのオヤジ・アクション・スターはいただろうか。男は年を重ねてからが勝負! 若い読者は彼らを目標にして、中年以降の読者は彼らを参考にして、シブいオヤジを目指してほしい。

Writer

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石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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