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ジョージ・ミラー、『マッドマックス』『アラビアンナイト』を語る【単独インタビュー】

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

鬼才、ジョージ・ミラー。その名を聞いて多くの映画ファンが最初に思い起こすのは、『マッドマックス』シリーズの激烈な印象だろう。しかしジョージ・ミラーといえば、『マッドマックス』とは真逆の世界観で描く『ベイブ/都会へ行く』(1998)や『ハッピー フィート』シリーズといったファミリー映画を手掛けていることも忘れてはならない。いわばミラーは、変幻自在のフィルムメーカーなのだ。

そんな巨匠がこの度撮ったのは、『アラビアンナイト 三千年の願い』という「物語内物語」をテーマにした異色作。孤独な学者がガラスの小瓶から飛び出した魔人と出会い、副題にある三千年の物語に魅了されていくファンタジーだ。ダイナミックな荒野で砂埃にまみれて爆走した前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とは打って変わって、本作ではホテルの一室で学者が魔人の昔話を聞くというスケールの転換が興味深い。学者アリシアを演じたのはティルダ・スウィントンで、魔人役はイドリス・エルバ。両者とも、小規模作品からマーベル映画まで幅広く活躍する名優で、本作ではその2人芝居も見所となる。

THE RIVERは、現在オーストラリアで『マッドマックス』シリーズ最新作『フュリオサ(原題)』製作中のジョージ・ミラー監督に一対一で単独インタビュー。本作『アラビアンナイト』についてから『マッドマックス』の裏話、さらに物語制作への思いや「スーパーヒーロー映画批判」の話題に至るまで、映画ファン必読のトークがたっぷり展開された。

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

『アラビアンナイト 三千年の願い』ジョージ・ミラー監督 単独インタビュー

──本日は貴重なお時間ありがとうございます。あなたとお話できるなんて、とても光栄です。

とんでもないです。嬉しいですね。

──つい先ほど、小島秀夫監督とお話しされていたそうですね。

はい。彼と話すのはいつだって大好きです。毎回、大いに勉強させていただいています。我々は似たもの同士でね。まるで兄弟みたいに、互いのことがわかるんです。彼の仕事を見るのも、仕事について語り合うのも大好きです。今回も良いお話ができました。

──素晴らしいですね。ところで、監督は現在オーストラリアにいらっしゃる?

はい、シドニーにいますよ。

──『フュリオサ』を製作中なのですね?

そうです。(後ろを指差しながら)今は編集室で作業をしているところ。これから編集とポストプロダクションの期間が1年ありますので、とにかくやっているところです。

──『フュリオサ』も待ちきれません!進捗はどうでしょう?順調ですか?

はい!素晴らしいものが撮れましたから。天候の問題はありましたが、何とか期間内に終えることができました。映像素材がリアルでとても出来が良い。撮影現場ではコロナ対策もしなくちゃいけませんでしたが、安全な形で良い撮影ができて嬉しいです。

──それは良かったです!引き続き健闘をお祈りします。
さて、『アラビアンナイト 三千年の願い』がついに日本で公開されます。鑑賞させていただきましたが、コンセプトやビジュアルが素晴らしく、物語もとても思慮深くて気に入りました。
そこで気になったのですが、本作では「赤」に何か重要な意味が込められているような気がします。主人公アリシアの服を始め、本作では赤いものがたくさん登場しますよね。一般的に赤は情熱を表しますが、これはアリシアの物語や愛への情熱を表しているのでしょうか?

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

赤はとても力強い色ですから、やはり使いたかったんです。確かに彼女は、物語に対する情熱を持っています。彼女も自分で意識しているわけではないですが、愛への渇望もあります。彼女は理性の人なのですが、ジンは感性の人。そして彼女は、その理性と感性の両方をひとつにして、そして理解したいと思っている。それが、私がこの物語で扱いたかった主題です。愛の本質をどう定義するか、彼女はそれを理解したがっている。なぜなら、愛とは求められるものではなく、与えるものだからです。本作では、彼女の愛の証が描かれます。しかし、色について指摘したのは、君が初めてですよ。

──良かったです。考えすぎかなと思いましたが。

いやいや、そんなことはないよ。

──対照的に、アリシアとジンはホテルの部屋でずっと白いバスローブを着ています。どうして白だったのかと考えているのですが、何か意味はあるのでしょうか。そもそも、どうして本作の物語の機軸を、ホテルの部屋に置いたのですか?

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

この映画で描かれることは全て逆説的だからです。彼女は、自分の物語は真実だと言いますが、しかしこれはおとぎ話なのです。 そこに逆説的な比喩があるんです。理性の人と感性の人が、互いの対極性を学ぶというのも逆説的。アリシアは理性よりも感情に突き動かされるようになるんです。

それから、これは永遠に生きる不死身の人にまつわる物語でもあります。まるで情熱など何もないような、自分の人生に満足している人の物語でもあります。あるいは、「3つの願い」にまつわる訓話を拒否する物語でもある。彼女は、願い事にまつわる物語は全て訓話だと知っているからですね。私が面白いと思うのは、これは「物語の物語」ということです。そこに一番面白い逆説性があると思いました。

──映画の冒頭で、アリシアがカンファレンスに立つ場面があります。その背後の大きなディプレイに、マーベルとDCのスーパーヒーローたちが投影されていましたね。そこで壇上の男性が、「スーパーヒーローとは神話の名残である」と言います。このセリフって、監督が去年のカンヌ国際映画祭の記者会見で話した言葉と全く同じですよね。「マーベルとDCは、ギリシャ神話、北欧神話、ローマ神話の名残だ」という発言です。スーパーヒーローが過去の神話を現代的に継承するものだとすれば、監督は「スーパーヒーロー映画は真の映画ではない」とする昨今の言説についてどう考えますか?

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

優れたフィルムメーカーの何人かが、そういうことを言っていますね。私としては……、もちろん映画だと思いますよ。映画館でかかるわけだし。確かに、私たちが過去にシネマとして観たものとは別物です。だからといって、「あれは映画じゃない」というのは違う。私が思うに、彼らの本音は、彼らが昔好きだった「シネマ」というスタイルや形式への渇望や思慕なのでしょう。

ただし、シネマやストーリーは常に進化するものです。それを受け入れないというのは間違っている。物語そのものや、その機能を否定することになります。

言わば、「正統化の失敗」です。科学でも、政治でもなんでもそうですが、元々たくさんあったものが一通りの形に正統化されるとき、何かに頑なにしがみ付き続ける者が出てきて、自然な進化を拒むようになってしまう。マーベルもDCも「シネマ」なのです。

──監督といえば、かつて『ジャスティス・リーグ』映画化を試みたこともありました。いつか、またスーパーヒーロー映画に取り組んでみたいですか?

作りたい映画はたくさんありますが、スーパーヒーロー映画にも常に関心がありますよ。繰り返しになりますが、スーパーヒーロー映画も神話の一部ですし、過去に深く根ざしていますから。

日本は歴史上、一神教に深く根ざしていますよね。私も、 オーストラリアで歴史上最も長い土着文化を有する地域で暮らしたことがあります。彼らの物語は、6万5千年も前にも遡る。その時から歴史がずっと続いていて、物語がずっと語り継がれているんです。オーストラリアのフィルムメーカーたちは、取り立ててその物語を直接語るのではなく、様々なバリエーションとして語るんですね。文化的進化ですよ。それは常に変化するものです。映画の歴史も同様ですし、全てのストーリーテリングの歴史にも同様なのです。

アラビアンナイト 三千年の願い
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

──アリシアの、「いずれ全ての神やモンスターは本来の役割を失い、メタファーへと成り下がるだろう」というセリフが興味深いと思いました。メタファーについては、映画にも同じことが言えるのではないかと思います。時に、映画にメタファーを見出そうとすることがあります。例えば、あなたの『マッドマックス』シリーズには社会不安や環境破壊、男性優位社会批判のメタファーが込められているという人もいます。実際、あなたが映画脚本を書く時、こうしたメタファーや教訓を入れることにどれほど意識的になるのですか?あるいは、ただ成り行きに任せて、あとは観客に委ねている? 

まさに後者です。後者そのものですよ。こういう内容の物語を語ってやるぞという気持ちはありません。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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