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『MINAMATA─ミナマタ─』米国公開が頓挫の危機、監督が配給会社MGMに抗議

© Larry Horricks

ジョニー・デップ主演・製作、1970年代の日本を舞台に水俣病を描いた実話映画『MINAMATA─ミナマタ─』の米国公開が見送られる可能性が出てきた。これに対し、監督のアンドリュー・レヴィタスが、配給担当のMGMに再考を求める声明文を送ったことが判明している。米Deadlineが報じた。

熊本県水俣市・チッソ水俣工場による工業排水を原因とし、現在まで補償や救済をめぐる問題が続く、日本における“四大公害病”のひとつ水俣病。その存在を世界に知らしめたのが、写真家のユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスによる写真集「MINAMATA」だ。本作はこの写真集に基づく映画で、2020年にベルリン国際映画祭で上映されたのち、MGMが米国配給権を獲得。2021年2月5日に劇場公開・配信される予定だったが、これは実現しなかった。

この背景にあるのは、ジョニー・デップの元妻アンバー・ハードに対するドメスティック・バイオレンス疑惑と、デップが英国のタブロイド紙The Sunとの名誉毀損裁判に敗訴したことだった(判決を受け、デップは『ファンタスティック・ビースト』シリーズも降板している)。レヴィタス監督によると、『MINAMATA─ミナマタ─』の権利を購入したMGMのサム・ウォルマン氏は「映画を葬る(bury the film)」と述べたという。2021年7月26日(米国時間)、監督はMGMに再考を要請。声明文は映画の支援団体にも同送されたという。

MINAMATA(原題)
© Larry Horricks

アンドリュー・レヴィタス監督の抗議声明文

監督の声明文には、『MINAMATA─ミナマタ─』がMGMの手によって米国公開されることで、「世界最悪の公害事件のひとつ、水俣病の被害者の数千人に光が当てられる」と記されている。「長らく無視されてきたコミュニティにとって、その痛みを再び示すことは唯一の悲願でした。彼らの物語を伝えることで、彼らと同じく罪のない人々が犠牲になることは二度となくせるだろう。MGMとのパートナーシップによって、長年の願いがついに叶えられる。当時はそう思われていました」。

MGMが米国配給を見送ろうとしているのは、デップのスキャンダルが自社にネガティブな影響を与える可能性を鑑みたためだと監督も記している。「MGMの見方としては、(水俣病)の被害者と家族のことはそれ以下ということだ。[中略]意図的な決定によって、無実の人々を再び傷つけ、その人生や歴史、亡くなった方々、そして彼らの勇気を踏みにじっている」。

本作の撮影前にあたる2018年、レヴィタス監督はプロデューサーらと水俣を訪れ、患者や家族と対面し、「水俣の人々を正しく描こうと決意した」という。今回の声明文では、ユージン・スミスの作品『水俣母子』の被写体にもなった上村智子さんの父親に面会した際の思い出を振り返り、このように記した。

「これまで多くの人々がそうしてきたように、みなさんも合法的に彼らの物語を葬ることができます。しかし、それ以上のことをする道徳的義務がみなさんにはある。少なくとも、上村さんや被害者の方々と直接話をして、なぜ役者のプライベートが、彼らの亡くなった子どもたちや兄弟、両親、そして全ての産業公害の犠牲者と企業不正よりも大切なのか、その理由をきちんとお伝えいただきたいと思います。

MGMのような大企業の決定が、人々にどれほどの影響を及ぼすことになるのか、みなさんにご熟考いただけることを願っています。そして、計り知れない苦しみの中にある人々に、現実的な変化をもたらす機会をご認識いただけることも。世界中の人々が、彼らを大切にしない、現実のものとして受け止めない企業の犠牲となっています。みなさんは、この映画を支援し、道徳的責任を果たすだけで、彼らを支えることができるのです。」

監督は、水俣病の患者救済のために戦った川本輝夫氏の言葉を引用したほか、実際にユージン・スミスが撮影した現地の写真、そして水俣病患者のコメントを収めた映像を声明文に添えている。文章の最後は、「こうした問題にMGMが正しい判断を下してくださることを信じています。フィルムメーカー、被害者、家族、あらゆる民間組織や政治組織は、みな、ともに協働できることを心から待ち望んでいます」との言葉で締めくくられた。

© Larry Horricks

Deadlineの取材に対して、MGMの広報担当者は「『MINAMATA─ミナマタ─』はMGMの一部門であるAmerican International Picturesから配給するために購入されました。AIPの将来的な公開作品には今後も含まれますが、現時点で米国公開日は未定です」とのみ応答している。

映画『MINAMATA─ミナマタ─』は2021年9月23日(木・祝)に全国公開予定。8月21日(土)には水俣市にて先行凱旋上映が実施される。

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Source: Deadline

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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