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【レビュー】『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』がティム・バートン好きにはたまらない理由

2014年公開『ビッグ・アイズ』以来となる、鬼才ティム・バートンの監督作品『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』が2月3日に公開された。

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』あらすじ

かつて“ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち”と一緒に住んでいたという話を祖父から聞かされて育った少年、ジェイク。その祖父が「ケインホルム島へ行け。そこで鳥がすべて教えてくれる」という言葉を遺して不可解な死を遂げたあと、ジェイクは、その言葉を手がかりに”ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち”を探す決意をするのだった。

本作には、ティム・バートン監督作品の常連であるジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーターは出演していない。ミス・ペレグリン役は『ダーク・シャドウ』で恐ろしくも妖艶な魔女、アンジェリークを演じたエヴァ・グリーンだ。

おなじみの俳優は不在、しかも今回はバートン節が炸裂するダーク・ファンタジーでもない……が、それでも『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』はバートン・ファンにはたまらない作品である。

過去のティム・バートン作品を思わせる映像

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を観た後には、必ず、過去のティム・バートン監督作品を観返したくなるだろう。なぜなら、かつて彼の映画で観たことのある様々な風景が本編に盛り込まれているからだ。

たとえば『シザーハンズ』でキムやエドワードが住んでいた、屋根の低いブロックのような家が並ぶ街並みや、エドワードが芸術的にカットした植木。『チャーリーとチョコレート工場』に登場した、チョコレート工場の気味の悪い入り口。

ティム・バートン作品といえば、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』や『ティム・バートンのコープス・ブライド』のようなダーク・ファンタジー、あるいは『チャーリーとチョコレート工場』でみられたようなブラックユーモアが特徴だ。しかし『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は、ダークな要素を取り入れつつも、そこまで振り切った作風ではない。2004年公開の『ビッグ・フィッシュ』を思い出すような、現実と空想が入り混じった美しい世界を観ることができるのだ。

『ビッグ・フィッシュ』 のテーマは“父と子の絆”だった。時間をかけて理解し合い、また決して切れることのない強い絆があたたかく描かれていた。同様に本作では、“祖父と孫の絆”が描かれている。ティム・バートンは、劇中に父性を感じさせる人物をほぼ必ず登場させている。本作でも、彼が伝えたい家族の絆の優しさを、改めて感じとることができるだろう。

どこかで観たことがあるキャラクターたち

また『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は、登場するキャラクターたちも「ティム・バートンっぽい!」と、思わずニヤリとしてしまう個性豊かな人物ばかりである。

ティム・バートンは双子が大好きだ。『アリス・イン・ワンダーランド』のトウィードルダム&トウィードルディー、『ビッグ・フィッシュ』の双子の姉妹のように、本作にも奇妙でかわいらしい存在感を放つ双子が登場する。いつも仮面をかぶっているこちらの兄弟だ。

http://www.imdb.com/title/tt1935859/mediaviewer/rm4102561280
http://www.imdb.com/title/tt1935859/mediaviewer/rm4102561280 (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

またティム・バートンは、お人形のようなロリータフェイスが大好きである。常連のヘレナ・ボナム=カーターをはじめ、『スリーピー・ホロウ』のクリスティーナ・リッチ、『ダーク・シャドウ』のベラ・ヒースコートなど、ヒロインはいつも大きな目をした“ロリータフェイス”の女優が多い。

本作でミス・ペレグリンを演じているエヴァ・グリーンは、すっきりとした妖艶な美貌の持ち主だが、やはりティム好みの美少女がヒロインとして登場していた。空気よりも体重が軽い少女、エマ(エラ・パーネル)だ。彼女が着る薄いブルーのワンピースは『アリス・イン・ワンダーランド』のアリスを連想させる。ふわふわとしたかわいらしいワンピースに、ゴツゴツとした鉛の靴を履かせるところにバートンのセンスが現れている。

http://eastcoaststories.com/?p=9113 (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.
http://eastcoaststories.com/?p=9113 (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

また「奇妙なこどもたちも」、みなティム・バートン作品に登場してきたキャラクターを思わせる“いじらしさ”をもっている。『シザーハンズ』に両腕がハサミの主人公エドワードがいたように、本作には手で炎をつけてしまう少女がいる。またエドワードを作った発明家のように、物体に魂を与えられる少年もいる。奇妙でかわいらしいこどもたちは、バートンの脳内にずっと住み続けている友達であり、彼自身の「こどもたち」なのだろう。

三人のティム・バートン

ティム・バートンは、自分自身を作品のキャラクターに投影する。『シザーハンズ』のエドワード、『アリス・イン・ワンダーランド』 の帽子屋。不器用な彼らの姿には、変わり者で孤独だったというバートン本人の姿が映し出されている。彼は悪役も“完全な悪”として描かず、醜い顔の下に悲哀を隠した人物として登場させてきた。たとえば『バットマン・リターンズ』 では、世間から疎まれ、最後まで一人きりだったペンギンの姿が印象的だ。

では『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』に登場するバートン自身とは誰だろうか。筆者は、三人のキャラクターがバートン自身を表しているのではないかと考えた。

一人目は主人公、ジェイクだ。周りと仲良くなることができず、うまく関わることができず、家族からも変人扱いを受けるという設定は、まるでバートンの少年時代を見ているかのようでもある。

また二人目は、ジェイクの祖父であるエイブだろう。ジェイクに「奇妙なこどもたち」の存在を語って聞かせる祖父もまた、周囲からは変人扱いされる人物だったが、彼はジェイクに“より自分らしく生きられる場所”を教え導く。私たちに空想や夢の世界を見せながら、周りと上手に人間関係を築けなくとも自分の生きる世界はあると、悩める人々を勇気づけるのだ。いわばジェイクは過去のバートン自身であり、エイブとは現在の彼なのかもしれない。

http://www.imdb.com/title/tt1935859/mediaviewer/rm632553472
http://www.imdb.com/title/tt1935859/mediaviewer/rm632553472 (C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

そして三人目のバートンは、ミス・ペレグリンではないだろうか。

同じ日を繰り返しつづける“ループ”の中で、奇妙なこどもたちを守り続けるミス・ペレグリンは、かつて生み出したキャラクター(=こどもたち、彼の描く世界、アイディア、夢)を守り続ける監督自身の姿を思わせる。もちろんバートンの世界は、彼によって生まれたキャラクターとともに、映画というループの中で永遠に生き続けるのだ。ミス・ペレグリンとは、映画監督であり芸術家であるティム・バートンの姿なのかもしれない。

映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』は、ティム・バートン監督の脳内が凝縮された“もっとも彼らしい”あたたかな映画である。きっと、バートンの映画への愛に触れられるに違いない。

Eyecatch Image: http://www.foxmovies.com/movies/miss-peregrines-home-for-peculiar-children
(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.

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Moeka Kotaki

フリーライター(1995生まれ/マグル)

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