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マーベル映画『モービウス』ネットミーム化?ここできちんと再評価しておきたい ─ リリース決定、ダークな魅力を見落とさないで

モービウス
© 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.  MARVEL and all related character names: © & ™ 2022 MARVEL

マーベル映画『モービウス』が、この頃ネットの一部界隈で話題となっている。

ジャレッド・レト主演の『モービウス』は2022年に公開された、米ソニー製作のマーベル映画だ。『ヴェノム』シリーズに続く、スパイダーマンのヴィランを描くアンチヒーロー映画。吸血鬼のようなスーパーパワーを得た主人公を描く、ダークでスタイリッシュな魅力が詰まっている。ソニーのマーベル映画としては、怪物級のヒットを記録した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のインパクトに霞んでしまったきらいもあるが、ファンの間では悲哀に満ちたストーリーやクールなアクションが楽しまれ、人気を博した。

しかし、海外のネットではなぜか突如として「ネタ映画」扱いされ大きな話題に。架空のセリフや、ありもしない続編のニュースなどが取り沙汰されるなど、いじられ放題となった。『モービウス』自体はクールな作品なのに、一体なぜ?本作が2022年6月22日にデジタルレンタル開始(デジタルセル配信中)となることにあわせて、今回起きている『モービウス』現象を解説しよう。

It’s Morbin’ Time!

『モービウス』ミーム現象の始まりとされるのが、Twitterに登場した「It’s Morbin’ Time」というフレーズだ。これは、『パワーレンジャー』シリーズの決め台詞「It’s Morphin’ Time」と「モービウス(Morbius)」を勝手に合体させたもので、劇中には一切登場しない架空のセリフである。初出は2021年11月2日で、米公開よりもしばらく前である。

これがジワジワ拡散し、映画が公開されると「『モービウス』で“IT’S MORBIN’ TIME”って言ってみんなをモーブしたところ最高だったな」といったツイートがバズる。さらに『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公開後には、「『ドクター・ストレンジ』新作のオマケシーンでモービウスが登場して、“ヘイ、ストレンジ…it’s morbing time”っていうところ、嬉しすぎて泣いた」「モービウスが“it’s morbing time”って言ってワンダを殺したところ、ヤバすぎて泣いたし絶頂」など、ありもしない架空のシーンを挙げる悪ノリに発展。また、劇中のシーンを改変してジャレッドが本当に「It’s Morbin’ Time」というセリフを発しているように見える映像も登場した。

#MorbiusSweep

「It’s Morbin’ Time」が局地的なブームなった頃、『モービウス』があり得ないほど高い批評家評価を得たというフェイク画像を作って喜ぶ #MorbiusSweep なるトレンドが勃発。Sweepとは「総なめにする」といった意味があり、もともとは『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)への過剰な期待とともに語られた#DuneSweepというハッシュタグをパロったものだ。

映画公開前に行われた批評家やメディア関係者向けの試写での評価をねじ曲げ、米レビューサイトRotten Tomatoesで批評スコア203%を記録しているフェイク画像(もちろん最大値は100%である)と共に #MorbiusSweep とツイートされたことで拡散。以降、『モービウス』がありえないほど熱狂的に支持されていたり、世紀の超絶大傑作であるといったフェイク情報をでっち上げては面白がるためのハッシュタグとなり、興行収入が352,922,847,245,203ドルという天文学的数字になっているWikipediaの偽のスクショだとか、ありもしない続編シリーズの一覧リストのスクショだとか、架空のシーンに映画館の観客が大興奮する偽の「オーディエンス・リアクション」映像だとか、取るに足らないネタが続々と登場した。

「It’s Morbin’ Time」や #MorbiusSweep を合言葉とする『モービウス』イジりはネット上で日に日に拡大。挙句の果てには、Twitter社を含む企業の公式アカウントまでも『モービウス』雑コラを投稿する事態となった。

そして再上映へ

『モービウス』のネット上での奇妙な人気を受けて、なんとアメリカの一部劇場では本作の再上映が実現。2022年6月4日~5日の週末限定上映を伝えるツイートには『THE MORBIUS RETURNS』というカッコいいロゴが添付されているが、実はこちら、同じコウモリがモチーフの『ザ・バットマン』のロゴジェネレーターを使用したものだ。

ネットでの盛り上がりによって劇場で再上映がかかるというのは物珍しいケースだが、『モービウス』はそれだけで終わらない。ファンは、更なる再上映を求める署名活動を開始したのだ。その嘆願文はこんな調子である。

「親愛なるソニー様へ

今週末、世界中の興奮したファンたちが、『モービウス』をまた劇場で観られるチャンスを得られました。これは素晴らしい機会である一方、ひとつ問題があります。

今週末はみんな忙しいんです。

髪を洗いたい人もいるし、勉強したい人もいるし、もう予定が埋まっている人もいるんです」

ジャレッド・レトも便乗?

もはや全員がふざけまくっている『モービウス』。きっとアーティスト意識の高い主演ジャレッド・レトは気分を害しているのでは……、と思いきや、ご本人もこんな動画を投稿している。

真剣な面持ちで何かの脚本を読むジャレッド。「何を読んでいるんですか?」と近付く声に対して「いや、何でもない」と隠そうとする。その脚本とは、架空の続編『MORBIUS 2 : IT’S MORBIN’ TIME』だ。ツイート文は「What time is it?」で、これは言わずもがな「It’s Morbing Time!」に呼応する“フリ”。寛大なジャレッドは自虐ネタをやってくれたわけである。ちなみにこの架空の脚本の表紙には「作:バーソロミュー・カビンス」とあるが、これはジャレッドが監督業などを行う際の別名義のことだ。

ミーム化は人気の裏返し?『モービウス』再評価

これまでご紹介したように、『モービウス』には誇張しすぎたネタが盛大に一人歩きしている感もあるが、ある意味では作品が愛され、有名になった証拠であるとも言えるだろう。例えば、『スパイダーマン3』(2007)では闇落ちしたピーター・パーカー(トビー・マグワイア)を改編してイジる「Bully Maguire」なる一連のミームがあるが、トビーのピーターが変わらず尊敬されていることは『ノー・ウェイ・ホーム』での熱狂を見れば明らかだ。『モービウス』の場合、主演ジャレッドもある程度は許容(?)している点も救いになっている。

日本でもよく「ラストシーンで◯◯が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙無しには見られなかった」というネットミームが使われることもあるが、だからといって『ターミネーター2』の素晴らしい評価が損なわれることはない。

これと同じように、『モービウス』がミーム化しているからといって、それは必ずしも作品の出来や評価に由来または影響するわけではない。米レビューサイトのRotten Tomatoes上では、確かに批評家スコアは高くないものの、観客スコアは健闘していることはきちんとお伝えしておきたい。同サイトでは批評家と観客の評価の間に乖離が生じることが珍しくなく、批評家スコアは低いが観客スコアが高い時は、それはその作品が良い意味での娯楽性に溢れている、ということでもある。

血を飲まなければ死ぬ……悲哀のダークヒーロー誕生譚

改めて『モービウス』は、ダークな魅力溢れるスタイリッシュな快作だ。動物のDNAによって弱者が強じんな力を見出していく過程は、同じくソニーの『スパイダーマン』を思わせるノスタルジーがある。『モービウス』が自身の新たな能力を発見する様子は、スーパーヒーロー映画の伝統に準拠しているのだ。加えて今作の場合、科学者である主人公が自身の能力を冷静に分析しているところが面白い。

モービウス
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また、「人の血液を摂取し続けなければ死ぬ」という制約を抱えているところもユニークだ。多くのスーパーヒーローは自身の力の扱い方に苦悩するが、『モービウス』はそれ以前の死活問題を抱えているから、この映画は約104分のコンパクトな上映時間の間、程よい緊迫感が漂っている。

主人公マイケル・モービウスとマイロの、悲哀に満ちた友情の捻れにも見どころがある。血液の難病を患う2人は、幼い頃に特別病棟でベッドが隣同士だった親友で、大人になっても深い絆で結ばれていた。研究所に籠るモービウスと、豪華な屋敷暮らしをおくるマイロは、住む世界こそ離別したものの、「死ぬ日が来るまで一緒だ」と誓い合い、互いを拠り所としている。社会的に弱者であるふたりは、自分たちの難病を治療したいという願いを共有しており、そこには単なる友情以上の親密さを見ることができる。

モービウス
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ところが、危険な治療を経て共に吸血鬼と化したことで、ふたりの友情は切なくも激しく引き裂かれる。超人的な身体を得たマイロは大いなる力を謳歌する一方、モービウスはその大いなる責任に恐怖。ふたりの陰と影のコントラストが描かれる。

スーパーヒーロー映画の多くは「Gift and Curses(贈り物か、呪いか)」といったテーマを有していることが多く、主人公は「授かり物」としてなんとか折り合いをつけていくのが常だ。『モービウス』はこのテーマを分解し、主人公モービウスに「Curses(呪い)」の、対するマイロに「Gift(贈り物)」のメタファーを与え、それらを闇夜の中で怪しくぶつけ合う。

繊細さと、怪物化の間で

モービウス
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主演ジャレッド・レトの悲哀に満ちた儚げな素顔から、野蛮な怪物へと肉体的に行き来する姿がひたすらに耽美。メソッド演技法を取り入れた徹底的な役作りで知られるジャレッドといえば、コクのあるロングヘアとターコイズの瞳が印象的。近年では『スーサイド・スクワッド』のジョーカー役や『ハウス・オブ・グッチ』での憑依的な熱演が大きな話題を呼んだ。バンド「30 Seconds To Mars」での活動も、オルタナティブ・ロック・シーンの代表格に数えられるカリスマだ。余談だが、『モービウス』公開時に50歳だったとは全く思えない。まさに吸血鬼のように、永遠を手に入れたようなスターである。

『モービウス』では、病弱だった時の痩せこけた身体から、スーパーパワーを得た後の筋肉質な身体へと変貌したが、ジャレッドは実際に減量や増量を行っている。「肉体改造は得意なんです」と、ジャレッドは筆者とのインタビューで語っている。まさに超人的なトランスフォーメーションは必見だ。

そして忘れてはならないのが、モービウスと対をなすマイロの存在。演じたマット・スミスは、イギリスの国民的シリーズ「ドクター・フー」や「ザ・クラウン」で人気の俳優だ。親友マイロとして、唯一の理解者であったはずの魂の兄弟との悲劇的なすれ違い対決を見事に演じている。劇中で見せるチャーミングなダンスも必見だ。

何度でも観たい、煙モーション

モービウス
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『モービウス』を正当に評価するファンの間では、彼の超スピードや超知覚を表現する視覚効果のカッコ良さを挙げる声が多い。モービウスにはコウモリのように超音波を用いて周囲の状況を知覚する「バットレーダー」なる能力があるが、映画ではまさにレーダー信号のように、モービウスの体から煙状のパルスが夜の摩天楼に拡散されていく。また、超高速での跳躍や飛行の際には、その軌道に微粒子がテールライトを引くように残る。映像表現上のモービウスは、スクリーン映えが細部まで意識された、動くだけでカッコ良いキャラクターなのだ。

吸血鬼をモチーフにしたキャラクターだけに、モービウスは闇夜や暗い場所で能力を覚醒させる。陥りがちな「暗くてアクションが見辛い」という落とし穴は回避されており、むしろ暗所だからこそ映える演出が随所で光る。いわゆる「ダークヒーロー」系の作品の中でも、『モービウス』のアクションでは特に審美性が計算されている。何度観ても、新鮮な驚きが得られることだろう。

超大作『シニスター・シックス』へ繋がる最重要布石

『モービウス』が、今後のソニーの『スパイダーマン』ユニバースにおける重要作になることにも言及しておきたい。例によって本作にも、後の展開に繋がる伏線描写が用意されている。ソニーでは、『スパイダーマン』のヴィランが結集したチーム『シニスター・シックス』の準備を進めている気配があり、実現すればモービウスがその中心人物になると見て間違いない。本作を観れば、「果たしてスパイダーマンは、このモービウス相手にどう戦うのか?」「ヴェノムとのタッグはどう見えるか?」との想像で胸が膨らむことだろう。

もし、愉快なネットミームに気を取られて『モービウス』の魅力を見落としているのなら、それは非常にもったいないことだ。本質的には過去作などを予習しておく必要は全くなく、ヒーローアクションの原理的な楽しさをこれ一本で享受できる。改めて記すが、『モービウス』は決してネタ映画ではなく、見所の多い重要な作品だ。ここまで読んでいただいた中に、「マーベル映画は好きだけど、『モービウス』は観ていなかった」という方がいれば、デジタル配信を機に、ダークでカッコ良い魅力をぜひ楽しんでほしい。

モービウス
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『モービウス』2022年7月27日(水)ブルーレイ&DVD&UHD発売
デジタルセル配信 / 6月22日(水)デジタルレンタル配信

日本限定プレミアム・スチールブック・エディション【完全数量限定】(2枚組) 10,120円(税込)
ブルーレイ&DVDセット(2枚組) 5,280円(税込)
4K ULTRA HD&ブルーレイセット(2枚組) 7,480円(税込)
※ブルーレイ&DVD 7月27日(水)レンタル開始

© 2022 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.  MARVEL and all related character names: © & ™ 2022 MARVEL
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

Source:Change.org,Twitter(1,2,3,4

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。