感動的なホームドラマの向こう側に見える残酷な階級社会『ニュー・クラスメイト』レビュー【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

『ニュー・クラスメイト』レビュー

インドのコルカタという売春街で生きる子供達を追った秀作ドキュメンタリー、『未来を写した子供たち』(’04)を思い出すと、あの映画で最も怖いシーンはどこだったか。荒廃したアヘン窟で廃人同然に横たわる男達か。虚ろな目で客引きをしている売春婦達か。それとも、やがて待つそんな未来に対し、絶望も恐怖もなく、運命として受け入れている子供達か。

こんな風にセンチメンタルな文章で「自分達に何かできることはないか」と言うことは簡単だ。実際、理屈だけで状況を変えようともしない虚無主義者よりも、どんなに偽善的に見えたって行動を起こす人間の方が、いつだって世界を変えるものだ。そして、『未来~』の監督もまたそう考え、子供たちにカメラの撮影を教えることで、売春街から抜け出す手段を与えようとした。しかし、観客の中には、どうしてもそんな監督の行動が、部外者の干渉のように見えてしまう人もいただろう。それが悪いとは言わない。そんな葛藤が起きるのもまた、人間の性だからだ。

しかし、現実は葛藤する隙もないほどに強烈な痛みを突きつける。

『未来~』と同じインドから生まれた劇映画、『ニュー・クラスメイト』(’15)は母子家庭の母親と娘が主人公だ。メイドのチャンダは女手一人で娘を育てている。しかし、娘のアプーは親の心子知らずといった様子で、勉強もせずに日々遊び呆けている。当然、学校では劣等生。このままでは卒業も危うい。そこで、チャンダは娘と同じクラスに入学し、娘に勉強を教えてやろうと試みる。

『ニュー・クラスメイト』 (C)Films Boutique

『ニュー・クラスメイト』 (C)Films Boutique

どうしてチャンダはこんなにもアプーの教育にこだわるのか。それは、娘に貧しい暮らしから抜け出すために、大学を出て高官に就いてほしいと願っているからだ。一方で、アプーは勉強をしたくない一心でメイドを志すと言い始める。どこまでもすれ違う母親と娘。

興味深いのは、これがアメリカ映画(あるいは西洋的価値観を持つ全ての映画、という意味では良くも悪くも邦画も含まれるだろう)ならば、こんなにも頑なにチャンダがアプーの願いを否定するような事態にはならないだろうからだ。自分と同じ将来を志す娘に、母親は喜びと愛情を示すだろう。しかし、本作はその真逆である。チャンダは徹底してアプーの生き様を否定する。そして、アプーにとってもメイドになるという決心は夢ではなく、諦念でしかないのである。

『ニュー・クラスメイト』 (C)Films Boutique

『ニュー・クラスメイト』 (C)Films Boutique

微笑ましいホームドラマを予想した観客はきっと裏切られるだろう。途中から映画は母と娘ではなく、女と女の闘いに転じる。チャンダはアプーの友達を奪い、学校での注目を奪い、尊厳を傷つけていく。アプーもまた、チャンダへの復讐心から勉強に励むようになる。そこに学問を学ぶ喜びはない。思春期らしい母親への愛憎と、女同士の嫉妬心が混じり合った黒い動機があるだけだ。

そして、言うまでもなく、チャンダがここまで手段を選ばないのは、インドにいまだ階級差別の風習が根強く残っている証拠でもある。ヒンドゥー社会であるインドではかつて、カーストと呼ばれる身分制度が設けられていた。その中で、労働者は最下層の階級として虐げられ続けていた。表向きにはカースト制度が撤廃されてはいるが、世界中の差別の歴史を振り返れば分かるように、名残が根絶されたわけではない。高官の車に轢かれそうになったチャンダが運転手から口汚く罵られるシーンには、そんな現状が現れている。

チャンダがアプーを思う気持ちは親心に加え、こうした階級差別への意識が強く働いているからだ。本作では、家族を思い働き、夢を子供や弟に託す大人の姿が無条件に善として描かれる。西洋圏の映画であれば、そんな大人達のエゴは糾弾されることだろう。しかし、そうはならないところにインドがいまだ抱える問題が浮き彫りになるのだ。それを思えば、ラストのアプーの台詞は重くのしかかってくる。

『未来~』の監督もスラムの実情を知り尽くしていたからこそ、状況に干渉しなくてはいられなかったのだろう。舞台は同じインドでも、切り取っている風景やドキュメンタリーとフィクションという手法は異なる二本だが、根底にある格差社会への焦燥感は共通している。親子の絆に感動しながら、少しはそんな問題意識に目を向けてみてほしい。

『ニュー・クラスメイト』 (C)Films Boutique

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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