『凶悪』の先のカオス 『日本で一番悪い奴ら』レビュー

極悪非道すぎて最後には笑うしかない傑作『凶悪』(’13)の白石和彌監督が帰ってきた。いや、違う。白石監督はより邪悪になっていた。『日本で一番悪い奴ら』は、日本映画の限界にまで達したように見えた『凶悪』のその先のカオスを、我々にぶちまける映画だ。

ヤクザが刑事に変わっただけで同じ人種

ノンフィクション『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』を原作にした本作は、1979年、柔道王者だった大学生の諸星(綾野剛)が北海道警の刑事になるところから始まる。しかし、諸星が評価されていたのは、柔道の腕前だけ。県警対抗戦で結果を残すためだけに諸星は道警にスカウトされたのである。先輩からは完全に舐められ、他の刑事がみんな現場に行っているときでも調書を推しつけられている。

そんな諸星を可愛がってくれたのがエース刑事の村井(ピエール瀧)。夜な夜なススキノのキャバクラで、刑事の心構えを説いてくれる。

「刑事は検挙数が全て。そのためにはS(エス)を使え」

村井から教わった非合法捜査で、諸星は検挙数を上げていく。瀧の口調も顔つきも、『凶悪』で演じたヤクザ、須藤と変わらない。あの、わずかな金のために人を殺し、自分では義理人情に厚いと思い込んでいる極悪人だ。村井の情婦であるホステスを演じるのは松岡依都美。つまり、『凶悪』のカップルそのままのキャスティング。つまり、ヤクザが刑事に変わっただけで、須藤と村井は本質的には同じ人種だ。

ここで、「だから、この二本は表裏一体だ」とか、「正義と悪は紙一重だ」とか書けば綺麗なのだろう。何より、分かりやすいだろう。しかし、現実は汚く、複雑だ。『日本で一番悪い奴ら』は『凶悪』の表裏一体をなすどころか、表も裏も混ざりきったヘドロとなって、観客を飲み込んでいく。

「表裏一体」と言うには世界は汚れすぎている

村井の指南のまま、ススキノでのし上っていく諸星。もう、チンピラたちにも容赦ない。逆らう者は殴る、蹴る、投げる。検挙を邪魔するなら、同僚の刑事すらも張り倒す。諸星には敵も味方もない。信じるのは検挙数だけだ。惚れた女を抱きながら、諸星は叫ぶ。

「自分、日本一の刑事になります!」

この時点では、少なくとも諸星にも正義感があった。

やがて、村井は失墜し、諸星がススキノを牛耳るようになっていく。いつの間にか、酒も煙草もやらなかった純朴な諸星の風貌は一変し、ススキノを歩くヤクザたちと見分けがつかない。銃撃を恐れて震えていた諸星が、今ではいきがる若いヤクザの額に拳銃をつきつけて黙らせている。

https://sites.tufts.edu/filmnoiraschroeder/2015/05/03/the-dark-knight/

https://sites.tufts.edu/filmnoiraschroeder/2015/05/03/the-dark-knight/

『ダークナイト』にせよ『ウォッチメン』にせよ、ゼロ年代のヒーロー映画が提示していたのは、映し鏡になった正義と悪の概念だった。バットマンとジョーカーは、お互いに相手を必要とする狂人であり、『ウォッチメン』のヒーローたちは巨大な力を持つがゆえ、いつ世界の脅威に裏返っても不思議ではない存在だった。

しかし、本当にそうだろうか?それはあまりにも文学的で、美しすぎる対比が過ぎないだろうか?

この世に正義も悪もない。あるとすれば、それは合法、非合法と呼ばれる概念だ。そして、そんな枠組みは、常識から一歩踏み出せば、簡単に溶解する。諸星とその仲間たちは、「一歩踏み出してしまった」人間である。だから、言動は矛盾でいっぱいだ。家族のように愛している弟分たちを踏みにじる。女を抱きながら殴りつける。警察のためにヤクザと親密になる。そんな諸星から観客が目を背けられないのは、諸星の体現するカオスこそが、この世界の本質なのだと、弩級の説得力を伴って迫ってくるからだ。

諸星が辿り着く「真っ白」とは?

諸星の変化はその服装の移り変わりによって表現されている。真っ白な柔道着を着た青年が、黒いスーツに身をつつみ、やがてヤクザまがいの派手なシャツを着るようになり、いつの間にかくたびれたスーツを着るようになっている。終盤で諸星はまた真っ白な服装で登場するのだが、それが「純粋」を意味するものではないと誰もが知る。混沌の果てに諸星が行き着いた真っ白な世界。そこであなたは何を感じとるか?ぜひともスクリーンで確かめてほしい。ただし、本作の中毒になっても責任は取れないので、ご了承を。

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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