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『Mr.ノーバディ』の主人公は、ちゃんと痛がる ─ イリヤ・ナイシュラー監督単独インタビュー

Mr.ノーバディ
© 2021 Universal Pictures

さえないオジサンだと思っていたら、とんでもなく危険な男だった……!『ジョン・ウィック』シリーズ生みの親デレク・コルスタッドが脚本を担当した全く新たなハードボイルド・アクション映画『Mr.ノーバディ』が、ついに日本の映画館で鮮烈デビューを飾った。

主演は「ベター・コール・ソウル」のボブ・オデンカーク。監督は、全編一人称視点の斬新な映像で話題をさらった『ハードコア』(2015)の気鋭イリア・ナイシュラーだ。

スカっとする痛快さに、程よいコメディ要素や、アクションファンが唸るような粋な演出の数々。魅力あふれる『Mr.ノーバディ』は一体どのように生まれたのか?THE RIVERが、ナイシュラー監督に一対一で話を聞いた。

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© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

イリヤ・ナイシュラー 単独インタビュー

──『Mr.ノーバディ』、本当に気に入りました!キャラクターもアクションも最高で、ここ数年のアクション映画の中でも特に好きな作品です。それから、監督がやっているロックバンド『Biting Elbow』も聴いていますよ。一番最新のアルバム「Shorten the Longing」を聴いているんですが、カッコいいですね。ザ・キラーズのようなところもあって、シンセが近未来的でカッコいい。監督の映画も音楽も大好きなので、今日はインタビューできてとっても光栄です。

ありがとう!そんな風に言っていただけると、ニヤニヤしちゃうよ。ありがとうございます!

──監督の前作『ハードコア』も良かったです。全編一人称映像ということで話題になりましたが、この手法をザ・ウィークエンドのMV「False Alarm」でも使っていますよね。でも、『Mr.ノーバディ』では一人称映像を封印していますが。

一人称映像はあくまでもツールで、物語を伝える上での手法にすぎません。『ハードコア』では一人称映像にすることを中心に設計された映画でした。でも『Mr.ノーバディ』はトラディッショナルな映画なので、現代にも通用しながらも極力クラシックなやり方で撮りたかったんです。だから、シェイキー・カメラ(手ブレのような映像)もない。キャラクターの物語を伝えることに集中して、 カメラが素早く動くような、アクションだらけの作品にはなりすぎないようにしました。

──主演のボブ・オデンカークさんにもインタビューをさせていただいたのですが、そこでボブは、ハッチは感情をむき出しにして戦うんだということをおっしゃっていました。ハッチというキャラクターについてお聞かせください。

幸いなことに、撮影までに話し合いをできる時間がたっぷりありました。2018年の夏に始動して、撮影がスタートしたのは2019年の秋です。その間に、話し合いをしたり、リライトをしたりできる時間があって。大切な要素については一通り話し合っていて、たとえばファイト中の感情表現もそうです。ターミネーターじゃないんだから、キャラクター性を出そうということで。

アクションを撮ること自体は簡単なんです。予算があれば、モノを爆発させて、優秀なスタントマンを雇えばいい。だから個人的には、アクション自体はそこまで難しいことじゃないんです。しっかりトレーニングを積んだ役者もいるし、面白いキャラクターもいる。暴力に取り憑かれて、過去の自分に戻ろうとしているキャラクターです。そういった要素こそが、『ジョン・ウィック』や『96時間』、『コマンドー』のシュワルツネッガーなどとは180度違うところです。

この要素は当初から楽しみにしていました。話し合いを続けるうちに、格闘中は感情をむき出しにしようということになって、表情のクローズアップも多用することにしました。ダメージを受けたら、ちゃんと痛がるんですよね。僕とボブは『ダイ・ハード』が大好きなんですけど、『ダイ・ハード』も妻に離婚されたくない男のドラマですよね。そこにテロリストが現れて、ああなったわけで。ストーリーがきちんと根底にあるんです。『Mr.ノーバディ』にも同じ部分があると思います。真実味のあるキャラクターと、真実味のあるトラブルです。アクションは、それをエキサイティングに見せるための要素。個人的に、一番面白いのはハッチ・マンセルの内なる葛藤です。こういった映画をスタジオが製作するのは稀なことだと思います。

Mr.ノーバディ
© 2021 Universal Pictures

──監督にとって、ハリウッドでの大作映画としてはこれが初めてですね。また、ケリー・マコーミックやデヴィッド・リーチ、マーク・フィッシャーといった別の方々がプロデュースに入る、という経験も初めてだったはずです。

製作チームが優秀で、良かったです。デヴィッドもケリーもマークもブレイデン(・アフターグッド、プロデューサー)もボブも、それぞれアイデアを持ち込んでくれたので、最善のものが出来ました。契約があるからやる、ということじゃなくて、ベストを尽くそうという気持ちをみんなが持っていました。それに、ノウハウ豊富な人たちにも囲まれていました。特にデヴィッドは、映画ビジネスでの歴が長年ありますし、監督でもありますから。そういった人たちが脇を固めていると安心です。

僕が(撮影地カナダの)ウィニペグに着いた時、2,000枚くらいのストーリーボードを書いて持っていったんですけど、それを見せながら「こういう映画です」って説明したら、すぐに理解していただけて。たくさん話し合いをして変更点も多々ありましたけど、常に全員でベストを求めて模索していました。誰が言い出したかとかはどうでも良くて、「こうするべきだ、君の意見は関係ない」みたいなことも一切なく、「どう思います?話しましょう」って感じ。よく、映画監督が初めてアメリカで映画を撮ると「もうハリウッドの連中とは仕事しない!あいつらはクソだ!クリエイティブもクソもあったもんじゃない!」って言うと聞きますけど、全然そんなことなかったですよ。やりたいようにやらせてもらえました。文句なんてありません。たまたまラッキーだったのかもしれませんけどね。ブレイデン・アフターグッドも「こんな映画が作れて幸運だ」って言っていました。メンバーもよかったし、アプローチもよかったし、取り組む姿勢もよかった。それから予算にも恵まれて、そのおかげでもあります。

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──脚本は『ジョン・ウィック』のデレク・コルスタッドが執筆していますが、どんな部分に惹かれましたか?映像化が一番楽しみだったところは?

先程の回答と重複してしまいますが、ハッチの内なる葛藤です。ボブとプロデューサーから電話をもらったときに、「この作品の特別なところ、ポテンシャルがあるところは、addiction(依存、常用癖、専心)についてのストーリーだと思います。キャラクター主体の映画でありながら、ポップコーン映画のような楽しさもある。その両面の良いところを持っていると思います」という話をしました。過激でありながら、たくさんの人に楽しんでもらえる。凄まじいアクションで何人もを殺しますが、でもちょっと注目すれば、実はその中に流れ星のような、面白いものが流れていることに気づくはずです。だからこの映画をやりたいと思いました。

僕がストーリーを第一に考えたことは、ボブにとっても良かったと思います。最初の話し合いでは、どうやって撮影するかについては話しませんでした。そういうことを考えるのは楽しいので、後からいくらでも思いつくし、彼らも『ハードコア』は観ていただいていたから、僕がこういうのが得意だということは分かっているはず。それよりも大切だったのは、ストーリーをどう見せるか、そこにどう集中するかでした。

──尊敬する映画監督は誰ですか?

難しい質問ですね、いっぱいいるから(笑)。えーっと、うーん……、そうですね、やっぱり最初に思い浮かぶのは(クエンティン・)タランティーノかな。それから……、(デヴィッド・)フィンチャーに……、クリストファー・マッカリーも大ファンです。彼のスタイルは素晴らしい。自分で脚本も書ける監督というのは珍しいんです。タランティーノや、ウェス(・アンダーソン)もそうですよね。それからマーティン・スコセッシ。巨人です。

──ありがとうございました。まだまだコロナ禍が続きますが、この映画を劇場で観るべき理由は何ですか?

良い時間を過ごせるからです。でも大切なのは、見た後に思い出して笑顔になれるところ。きっと笑いたくなるはずです。究極的にはアクション・スリラーなんですけど、楽しいアクション・スリラーになっています。こういう映画はすごく珍しいと思います。


今回のインタビューはここまで。良い映画とは、鑑賞後にアレコレ語りたくなってしまうもので、筆者は「あれはどうなったのか?」「あのシーンにはどういうこだわりが?」と本編内容に踏み込んだ質問をたくさん行っている。そちらはネタバレ内容ということで、たっぷり準備中だ。映画を鑑賞した人だけの、後日のお楽しみとして追って掲載させていただこう。ともかく、まずは痛快アクション大作『Mr.ノーバディ』を劇場で楽しんで。

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映画『Mr.ノーバディ』は絶賛公開中。主演ボブ・オデンカークにも単独インタビューを行っているから、あわせてお読みいただきたい。

【ネタバレ】『Mr.ノーバディ』子猫の「その後」
ボブ・オデンカークへのインタビューはこちら

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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