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『オールド』日本映画彷彿の“目に見えない恐怖” ─アレックス・ウルフ、『オールド』と『ヘレディタリー』現実で起きたらどっちが怖い?【インタビュー】

オールド
© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

『シックス・センス』(1999)『スプリット』(2017)などさまざまなスリラー映画の傑作を世に送り出してきた名手、M・ナイト・シャマラン。そんな鬼才監督が贈る新作映画オールド』が、2021年8月27日よりついに日本上陸を果たした。

フランスのグラフィック・ノベル『Sandcastle(原題)』を原案とする本作の題材は、異常な速度で進む時間。休暇を過ごすために訪れた美しいビーチで、時間が異常な速度で加速し、身体が老いていく不可解な現象に見舞われ、その謎を解かなければ脱出できない家族たちの恐怖を描く極限タイムスリラーだ。なぜ異常な速度で時間が進んでいるのか、果たして彼らはその謎を解き明かし脱出することは出来るのか……?

時間という見えない恐怖に翻弄される主人公家族の息子役を演じたアレックス・ウルフ。このたびTHE RIVERは、『ジュマンジ』シリーズや『ヘレディタリー/継承』(2018)など、ハリウッドでいま最も注目される若手俳優のひとりに取材する機会に恵まれた。インタビュー中にはこちら側の物音に気づき、「殺人事件でも起きたのか?」とお茶目に返してくれる一面も。そんな気さくなアレックスは、この取材を通じて本作における現代的かつ普遍的なテーマや、日本映画からの影響、役作りなどについて説明している。

ユニバーサルなテーマ、コロナ禍における時間と孤立

オールド
© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

──『オールド』の脚本をはじめて読まれたときの感想を教えてください。

人生の中でも最も精神的に参った体験でした。ページをめくるたびに、“監督はこれを描くことを許されているのか?”、“この題材を映画の中で描けるのか?”と衝撃を受けました。とにかく興奮させられましたよ。 

──“親から見た子供の成長は一瞬”、“家族の絆”といった、ユニバーサル(普遍的)な題材が描かれているように感じました。

『オールド』のスタジオの名前だからというわけではないですけど(編注:本作の米国配給はユニバーサル・ピクチャーズ)、この映画は誰にでも当てはまるような題材が描かれていると僕自身でも思うので、“ユニバーサル”という言葉はまさにぴったりでしょう。ただ、だからこそ恐ろしいコンセプトのひとつでもあり、それをスリラーというジャンルのなかで表現したことで、さらに興味深いものに仕上がっています。

──そんな普遍的な題材が描かれている『オールド』ですが、観客は本作を観てどのような反応をすると思いますか?

この映画で描かれているテーマは、人によって解釈や捉え方が異なると思うので、観終わった後に家族と議論を引き起こすことになると思います。

──コロナ禍以前から企画されていた映画ではありますが、“時間や孤立”といった現代とまさに密接な内容でもありました。

コロナ禍以前から監督は脚本を書いていて、結果的に現在起きている出来事との繋がりが生まれたことは、とても奇妙なことだと思います。映画というのは不思議なもので、世界が最も必要としているときに公開されるものなんです。この作品に関しては、コロナ禍以前から進められていた企画にもかかわらずですよ。それは100万分の1の確率だと思いますし、単なるつながり以上のものが存在するとも思っています。映画を観ると、その奇妙さを感じ取ることが出来るでしょう。

目に見えない恐怖

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© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

──『オールド』では時間が異常加速するという事態に見舞われ、『ヘレディタリー/継承』(2018)では祖母の死をきっかけに謎の恐怖に見舞われる役を演じていましたが、いずれも“目に見えない恐怖”と戦う点では共通していたと思います。どちらの方が現実で起きたら怖いと思いますか?

それは間違いなく『ヘレディタリー』です。とにかくもっと恐ろしく、より深刻な事態で、最悪のシナリオでしょう。夢にも出てきて欲しくないですし、考えたくもありません。一方で、『オールド』はより寓話的な内容で、歳を重ねるという普遍的かつ哲学的な題材を描いています。『ヘレディタリー』はとにかく悪夢でしかありません。

──“目に見えない恐怖”を描いている作品といえば、日本映画を思い浮かべる人もいると思いますが、そこからの影響についてはいかがでしょうか?

“目に見えない恐怖”というのはこの映画にとって非常に興味深い言葉だと思います。『藪の中の黒猫』(1968)や『雨月物語』(1953)、『無法松の一生』(1958)など数多くの日本映画から影響を受けているようにも感じていたので。『オールド』は、時間の流れがどのように人間に作用するのかを凝縮した内容になっていますし、日本映画や韓国映画では、その“時間”や、“目に見えない恐怖”の表現の仕方で似たようなことをしていたと思うので、個人的には、日本の観客はこの映画をとても気に入ると思います。また日本といえばゴースト・ストーリーで、『オールド』もゴースト・ストーリーの一種でしょう。そして時間もまたゴーストでしょう。

天才監督との初タッグ、作品に向けてのリサーチ

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──ハリケーンシーズンのなかでのビーチでの撮影は非常に大変だったと監督から聞きしましたが、役者にとっても本作の撮影は困難なものでしたか?

僕としてはそこまで苦ではありませんでした。幸せとさえ感じていたんですから。ただ大変なこともあったので、両方極端な日々が交互にあったことは間違いありません。ある日は、撮影の後に海に入って泳ぐこともあって、それは魔法のように美しく天国にいるような気分でした。こんな体験はほかでは中々できないなと。一方でほかの日では、僕が撮影現場に行くと、セットが海で流されてしまっていて、少し離れたところで発見されることもありました。ただ、ほかの作品に比べて言えることは、この映画で指揮を取っていた男は天才だったので、そんなときでも冷静で、不安になることはありませんでした。

──そんな天才監督のM・ナイト・シャマランとは、『オールド』ではじめてタッグを組んだわけですが、これまでに仕事を共にしてきた監督たちとはどのように異なりましたか?

かつてないタイプの監督でした。彼のような監督とはこれまで一度も仕事をしたことはなかったので、誰かと比較するのは難しいですが、30年もの間、これほどまでに自分の領域で素晴らしい映画を作り続けている人と仕事を共にしたことはありません。だから、奇跡的なめぐり合わせだったと思っています。この貴重な機会のなかでは、とにかく最後の一滴まで何かを吸収しようとしていました。

──身体的には急成長しているものの、精神的には幼いままな役を演じる必要があったわけですが、そのために何か事前に準備したことはありますか?

事前に準備しなければならないことはたくさんありました。撮影が始まるまでの数カ月間、児童心理学についての書籍を読んだり、自分の映像を見たりして、子供の気持ちに戻らなければならなかったんです。撮影当日になるとそれ以上に、自分自身の心の奥底にある生の感情をむき出しにする必要がありました。エリザ・スカンレンのキャラクターへの想いだったり、両親に対する怒りだったり、極限的状況のなかでの抑えきれない感情だったり、現場に入ったことで何か特別なものを解き放つことが出来たような気がしました。

映画『オールド』は、2021年8月27日より全国公開中。

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Writer

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。