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【予習】シャマラン『オールド』、老いが異常加速するタイムスリラー ─ コロナ禍や70年代の豪映画の影響、監督が語る

オールド
© 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

『シックス・センス』(1999)『ミスター・ガラス』(2019)などのM・ナイト・シャマラン監督最新作、『オールド』が2021年8月27日(金)より日本公開される。

フランスのグラフィック・ノベル『Sandcastle(原題)』を原案とする本作の題材は、時間。休暇を過ごすために訪れた美しいビーチで、時間が異常な速度で進み、身体が老いていく不可解な現象に見舞われ、その謎を解かなければ脱出できない家族たちの恐怖を描くタイムスリラーだ。

この度、THE RIVERは本作の公開に先がけて、M・ナイト・シャマラン監督に取材する機会に恵まれた。貴重な機会の中で、作品を手掛けることになったきっかけや影響を受けた作品、これまでの監督作との違い、キャスティングやコロナ禍とのつながりなどについて尋ねてみた。公開まで約1ヶ月半。このインタビューを通して予習してみては?

時間が加速するタイムスリラー

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──『オールド』を手掛けることになったきっかけについて教えてください。

『Sandcastle』というグラフィック・ノベルを娘たちが僕のもとに持ってきてくれました。一体、どこから見つけてきたのかはわかりませんが、作品を読んだとき、そこに描かれている題材や時間の概念に魅了されたんです。時間が急速に進むことがいかに恐ろしいことなのか、また、人生の中で置かれている場所がどれほど一人一人にとって違うものなのか。そんな要素に興味を抱きました。とにかく心を動かされて、これは僕にとって素晴らしい映画の題材になると思ったわけです。それと同時に時間を題材にした映画を見るといつも感動してしまいます。

──クリストファー・ノーランによる『インターステラー』(2014)では、1時間が地球の7​年に相当する惑星が登場していましたが、こちらのような映画のことでしょうか?

クリストファー・ノーランの映画では、父親が娘との時間を奪われていく姿が描かれています。時間という題材には、僕の心を揺さぶるものがあり、それをテーマにした映画を作ってみたいと思いました。特に映画というのは、時間を描く上で非常に有効なプラットフォームですから。時間がどれだけいきなり飛ぼうとも、演出方法ひとつでその変化を理解させることが出来るので。

──子供の成長を一瞬のように感じると話す親もいますが、本作でもそのような思いが込められているのでしょうか?

僕の全ての映画の根底と中心には夫婦や親子、兄弟・姉妹といった家族の要素が常に含まれていると思います。また僕は家族と固い絆で結ばれているので、家族からの影響は間違いなくあるでしょう。例えば、僕の映画に登場する子供たちはいずれも僕の子供たちと同じ年齢なんです。『サイン』のときのアビゲイル・ブレスリンは5歳で、それは一番上の娘と同い年。『スプリット』では、誘拐される少女たちが18歳、19歳で、それも僕の子供たちと同じ年齢でした。家族の恐怖や不安定な状況を描くときは、身の周りで起こっていることが作品に反映されています。

──子供から本をもらったり、登場人物たちの年齢に反映したり、ご自身の子供たちからの影響が大きいようですね。

映画を作っているときは、目に入る全てのものが自分の中に自然と吸収されていきます。ある女性や子供が何かを話したり行ったりなどしたら、そこからアイデアを得ています。

オーストラリア映画からの影響

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──これまでの監督作とはどのように異なりますか?

以前までとは少し異なる方法で取り組んだ作品で、新しい試みがたくさん詰まっています。例えば、この映画は普段とは異なる場所で撮影しました。基本的には、アメリカ・フィラデルフィアでいつも撮っていますから。それと、この作品にはこれまでとは異なるクレイジーなエナジーがこめられています。それは物事が崩壊していくような感覚にさせられるものでそれが物語を通して絶え間なく続いていきます。このビーチで起こる狂気を観客は肌で実感することが出来るでしょう。

──予告編をみて、「トワイライト・ゾーン」(1959-1964)やラース・フォン・トリアー作品のような雰囲気を感じさせられました。何か影響を受けた作品はありましたか?

僕の映画製作のスタイルは、いつも少し変わっています。映画とそのスタイルがマッチしていません。『スプリット』(2017)を準備していたときのことでいうと、ロバート・アルトマン監督の映画を多く見ていました。影響を受けているようには感じないでしょうけど。

『オールド』の場合だと、オーストラリア映画から多大な影響を受けています。自然との繋がりやその法則だったり、ズームなどの撮影技術だったり。『ピクニックatハンギング・ロック』(1975)がそのひとつで、『美しき冒険旅行』(1971)からは特に多大な影響を受けました。そんな1970年代の映画から、エッジを効かせる方法について学んだわけです。それと、デジタルではなくフィルムで撮影したので、少しだけ別の時代の映画のようにも感じることでしょう。

前代未聞のオーディションとロケーション

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──キャスティングの経緯について詳しく教えて下さい。

コロナ禍での製作の中で起きた不思議なことのひとつです。キャスティングコールを出した途端、全世界の活動が止まってしまいました。そこから3週間後、あらためてキャスティングコールを出したんですが、全員がオーディションを自宅から受けることになったんです。今となっては不思議なことではありませんが、当時は本当に不思議な感じでした。オーディションを俳優が家から受けるなんて初めてのことですから。それもカメラや携帯電話を使って送ってくるわけなので。

その結果、世界中から何千、何万もの参加者が集まりました。こんなにもたくさんのオーディションを行ったことはありません。誰もが参加できたので、それぞれの役で様々なバリエーションをみることができました。僕はそれぞれの演じ方を見てみたいと思っています。これはとても貴重かつ幸運な経験で、そうして最高な俳優陣を揃えることも出来ました。

──撮影で最も大変だったことは何でしょうか?

自然に振り回されていました。この映画は1日を巡る物語なので、午前中の場面は午前中に、昼間のは昼間に、午後のは午後に撮影しなければなりません。だから、シーン8からシーン35、つぎはシーン85みたいに飛び飛びで撮影をしていたんです。それに加えて、ハリケーンシーズンの中での撮影や、当たり前ですが、潮が満ちたり引いたりする問題もありました。日によって海辺の広さが変わるわけで、それに応じてその日に撮影できるものとできないものが出てくるんです。そんな限られた時間の中で撮影をすべてやり遂げるにはどうすればいいのか。僕たちは何時間も何時間もかけて、ベストな撮影方法を考えなければならず、数学の方程式みたいな感じでした。

コロナ禍とのつながり

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──コロナ禍の前から企画されていた映画だと思いますが、結果的に何かつながりなどが生まれたと思いますか?

それはあります。撮影自体は、コロナ禍で行いました。ただ、実際はそれ以前から進めていた企画なので不思議ではありますけど、この映画を皆さんが今見ると、当時の感情が自然と込み上げて来るでしょう。周りの人間とも孤立しなければならず、家から離れることも出来ない、ただ時間だけが過ぎていくみたいな。そして自分は何者なのか、この先の人生で自分は何をしたいのか。こんなふうに自分自身のことを見つめ直す時間を誰もが過ごしていたのではないでしょうか。そんな当時の気持ちが、本作の登場人物たちの感情を通じて込み上げてくると思います。

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映画『オールド』は、2021年8月27日(金)より全国ロードショー。

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Minami

THE RIVER編集部。「思わず誰かに話して足を運びたくなるような」「映像を見ているかのように読者が想像できるような」を基準に記事を執筆しています。映画のことばかり考えている“映画人間”です。どうぞ、宜しくお願い致します。

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