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【邦訳アメコミ推薦図書・マーベル編②】『ローガン』鑑賞前に読んでおきたい『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』

今から約2年前の2015年7月、サンディエゴで開催されたコミコンでパネルイベントに登壇した俳優のヒュー・ジャックマンが、ウルヴァリン最終作の情報を心待ちにして集まったファンに向けて、「君たちに言えるのは3つのワード“Old Man Logan”、それだけだ」と発言して会場を沸かせました。それから程なくしてヒュー・ジャックマンが自身のTwitter公式アカウントにて、以下の文面をツイート。

“私がこの爪をつける最後の機会です。どんなことが起こるのを観たいですか? 50ワード以下で教えて下さい。可能な限り読みます。”

「#ONELASTTIME」というハッシュタグを付けられたこのツイートには、「今度こそ黄色と黒のコスチュームを着た姿が見たい!」といった切実なものや、「シザーハンズになったウルヴァリン!」とか「子犬とたわむれるウルヴァリンを!」のような妄想気味の願望まで1万件を超すファンからのコメントが寄せられました。その中でも特筆して多かったのが「オールドマン・ローガン」実写化の要望で、過日のコミコンでの発言に引っ張られた部分も多いでしょうが、このコミックの人気の異常な高さを伺い知ることができました。

ここで言う「オールドマン・ローガン」とは、もちろんコミックのタイトルで、2008年から2009年にかけてウルヴァリン誌にて連載されたミニシリーズです。本作は本国アメリカでの評価が非常に高く、日本のファンの間でも長らく翻訳が待たれていましたが、映画『ローガン』の劇場公開を直前に控え、ついに2017年5月12日、ヴィレッジブックスより邦訳版が出版されました。

『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』

この物語の舞台はマーベルコミックスの正史世界(アース616)とは異なる世界(アース807128)
ヒーロー達がヴィランとの戦争に敗れ、姿を消してしまった世界で、何故か戦うことをやめてしまったローガン。カリフォルニアの寒村で貧しい農夫に身をやつし、奥さんと子供の二人とともに食いつなぐのがやっとの生活をしていましたが、家賃を滞納してしまい、地主のギャングに家族ごと脅迫されてしまいます。そんな窮地に「いい仕事がある」と彼を尋ねてきたのは元ヒーローの旧友ホークアイ。荷物を東海岸まで届ければその報酬で家賃を払うことができると。ギャングに突き付けられた期限は2週間。ローガンと相棒ホークアイは、荒廃し危険に満ちたアメリカ大陸を横断して、無事依頼をこなし、家族を救うことができるのか。そしてローガンが戦いをやめてしまった理由とは何か……。

このコミックスを手がけたのは、マーク・ミラー(ライター)とスティーヴ・マクニーヴン(ペンシラー)の『シビル・ウォー』コンビ。特にマーク・ミラーは当代を代表するライターで、『シビル・ウォー』『キック・アス』『キングスマン』など著作が次々に実写映画の原作となり、語弊を恐れず言うならば、現在ハリウッドにおいて最も影響力の高いコミックライターと言えるでしょう。

マーク・ミラーの筆致炸裂

私見を申せば、マーク・ミラー作品の特徴はまず「マンネリを打破する定石無視のストーリー」にあります。『キック・アス』ではパワーを持たない少年の血まみれヒーロー活動を、『シビル・ウォー』ではヒーロー同士の対立という新機軸を描いたように、これまでのアメコミの定石に当てはまらない大胆な話運びなのです。そのため物語の求心力が非常に強く、どの著作も読み始めからグイグイとストーリーに引き込まれます。端的に言ってどの作品も「抜群に面白い」のは間違いありません。ただし意外性を追求する作家性の代償か、彼の描くヒーローコミックの多くにおいて、ヒーローがおよそヒーローらしからぬ行動をとったり、簡単に殺されたりしますので、人気も高い反面、従来のヒーロー像を大事にするファンからは批判も多い作家です。本作でも、あらゆるマーベルヒーローがちょっとありえない形で命を落としますので、その点は覚悟の上読まれることをお勧めします。

またもう一つの特徴として挙げることができるのが「過激な暴力描写」。彼の手掛けたほとんどの作品内では、過剰ともいえるバイオレンスが描かれています。先ほど特徴に挙げたヒーローのアイデンティティを重視しない作風と相まって、露悪的と表現したくなるほどのヒーローの惨状(特に毎回ハルクの扱いがひどい気がします)が描かれたりしますので、この点にも注意が必要です。

しかし、以上2つの点だけ注意すれば、この『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』が大傑作であることに疑いの余地はなく、人によってはアラン・ムーアの『ウォッチメン』、フランク・ミラーの『ダークナイト・リターンズ』と並んでアメリカンコミック史におけるマスターピースとまで呼ぶほどの作品。すなわちアメコミ映画ファンを自称するならば避けては通れないタイトルです。

『ローガン』原作コミック、しかし……

ご存知の方も多いと思いますが、2017年6月1日公開、ヒュー・ジャックマンによるウルヴァリン最終作『ローガン』は、この『ウルヴァリン:オールドマン・ローガン』を原作としていますが、踏襲されているのは荒廃した世界が舞台ということ、ウルヴァリンが衰えていること、そしてロードムービーであることくらいで、登場キャラクターやストーリーは原作と大きく異なります。したがって映画の鑑賞前に読んだとしてもネタバレになるような恐れはなく、逆に「ああ、ここは原作のエッセンスを持って来たんだな」といったような楽しみが期待できるでしょう。

個人的なこの本のおすすめポイントは、まずヒーローが去った後のアメリカを有名ヴィランが三国志のように群雄割拠してる世界観、そして老いたりとはいえローガン、ホークアイ両ヒーローの渋カッコよさ、そしてこの二人が軽口を飛ばしながら絶望に満ちた荒野を行くバディムービー感。そして読後には、大長編の映画を観終わった後のような満足感が得られること間違いなしです。ぜひこの機会にお手に取ってみてくださいね。

Eyecatch Image: https://www.amazon.co.jp/ウルヴァリン-オールドマン-ローガン-MARVEL-マーク-ミラー/dp/4864913323/

Writer

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アクトンボーイ

1977年生まれ。スターウォーズと同い歳。集めまくったアメトイを死んだ時に一緒に燃やすと嫁に宣告され、1日でもいいから奴より長く生きたいと願う今日この頃。