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リベリアの過酷な労働環境を巧みなカメラワークと環境音で描く『アウト・オブ・マイ・ハンド』レビュー【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

『アウト・オブ・マイ・ハンド』あらすじ

西アフリカ・リベリア共和国の天然ゴム農園で働くシスコは、その過酷な労働環境を改善するべく、労働組合と共にストライキを起こす。しかし、企業の強引な力によって、ストライキは意味もなく終り、シスコらは普段の生活へと戻っていく。幼い子供たちの未来を守るべく、アメリカに住む従兄弟のマーヴィンの力を借り、ニューヨークへの単身移住を決意したシスコ。タクシードライバーとして新たな道を歩み始めたが…。

北海道出身の若手映画監督

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『アウト・オブ・マイ・ハンド』 (C)TELEVISION

ニューヨークを拠点に活動する、北海道伊達市出身の若手映画監督、福永壮志氏の長編映画デビュー作。リベリア政府の公式支援を受けている本作は、ベルリン国際映画祭でワールドプレミアを開催した後、ロサンゼルス映画祭で最高賞にあたる『USフィクション賞』を獲得するなど、すでに多数の映画祭で評価されている。

リベリアの歴史

リベリア共和国とは西アフリカに位置する小さな共和制国家である。筆者も含め、殆どの人には馴染みのない国だろう。米国で解放された黒人奴隷たちの手によって、1847年に建国された。そのため、彼らが英語を話すのも、もともとが米国の奴隷であった為だろう。二度にわたる内戦を経験したリベリアであるが、そのことについては作中でも取り上げられている。リベリアの歴史を知ることによって、本作の背景を読み取ることができるだろう。

惹きつけられる環境音

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『アウト・オブ・マイ・ハンド』 (C)TELEVISION

台詞も音楽もなく、ただひたすらゴム樹液を採取する序盤のシーンから一気に作中へと引き込まれていく。ゴムの樹を削る音、木製の階段がきしむ音、燃え盛る焚き火の音など、環境音を非常に大切にしている作品であると感じた。というのも、この作品は全編通してほぼ音楽は使用されていない。役者の息遣いや、何気ない環境音など、音楽を使用しないことによって、それら効果音を最大限に引き出している。

流れるようなカメラワーク

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『アウト・オブ・マイ・ハンド』 (C)TELEVISION

巧みなカメラワークには、誰もが感銘を受けるはずである。なんら差し障りのない場面であっても、その巧妙なカメラワークによって、自然と目が離せなくなってしまうのだ。有り触れたシーンであっても、なぜだか観入ってしまうような、そんな力が感じられる。
映画終盤、シスコがタクシーのタイヤを交換するという、何の変哲もない場面がある。流れるようなカメラワークによって、自然と注目してしまうシーンなのだが、この場面には非常に重要なメッセージが隠されているのだ。映画序盤、シスコがゴムの樹液を、なんの言葉を発することもなく、淡々と採取していく一連の場面があるが、このタイヤ交換のカットは、その場面と対になっているシーンなのだ。タイヤの素材は言うまでもなくゴムである。ニューヨークに移住したシスコであるが、ゴムを扱い低賃金で働くという部分に関しては何も変わらなかったという事実を、暗に映し出しているシーンだといえるだろう。

リベリアからニューヨークに移り住むも、思い描く生活とはまったく異なるという展開の本作。母国が一番であると実感させられる内容だ。成功するときもあれば、失敗することもある。自分だけが特別なのではなく、誰もがそうであるという普遍的なメッセージを伝えているのだろう。

『アウト・オブ・マイ・ハンド』 (C)TELEVISION

Writer

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Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

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