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『パン屋の息子』レビュー 何も変わらない日常に隠れている、懐かしさと感動をくれる物語【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】
『パン屋の息子』あらすじ
郊外にある一軒のパン屋。50年以上にわたって営業してきたこの店も今日で閉店する。いつもと変わらず、父は黙々とパンを焼き、母は明るく接客をする。 そこへ、離れて暮らす息子が突然帰ってくる。
聞こえるのは、オーブンの音と何気ない会話だけ
何気ない住宅街の一角にあるパン屋の、記念となるであろう日。パン屋の閉店という一大イベントにもかかわらず、特別なBGMは聞こえない。
そこにあるのはパンを焼き上げるオーブンの音、登場人物のいつも通りの会話だけ。
淡々と過ぎていく平凡な日常の一幕と、父親役を演じる志賀廣太郎氏の哀愁漂う表情。そして要所要所で物語に笑いを巻き起こす鷲尾真知子氏のコミカルな演技との絶妙なコンビは流石としか言えない。
些細な表情の変化に監督の郷愁を感じる作品
国内の数々の映画賞で入賞・受賞などをしている日原進太郎監督。本作はそんな彼の実家のパン屋が閉店したことを契機にして作ったという。
だからだろうか、作中で用事を済ませるだけに実家へと帰ってきた息子の表情は、どこか物憂げだ。そこには、監督自身の郷愁を感じずにえられない。彼の実家でも同じように、平凡に1日が流れたのだろうか。そんな事をついつい考えてしまう。
静かに流れる物語には、父と母、そして息子の様々な思いがにじみ出ている。ある意味物語を引き締めるような役割を担っていた彼がラストに見せるちょっとした「ドジ」と、そんな父親への愛が詰まった息子の言葉はぜひ観てほしい。
クスリとする笑いと静かな感動を起こしてくれる、そんな作品だ。