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【特集】『ピクセル』エディ役ピーター・ディンクレイジ、世界&業界と戦う132センチの名優 ― 「今や主演俳優の定義が変わりつつある」

ピクセル
『ピクセル』より ©2015 Columbia Pictures Industries, Inc. , LSC Film Corporation and China Film Co., Ltd. All Rights Reserved.

2015年公開の映画『ピクセル』で主人公サムのライバル、エディ・プラント役を演じている人物俳優をご存知だろうか。本編では1980年代のファッションに身を包み、挑発的な振る舞いで観客に印象を残す、この男の名前はピーター・ディンクレイジ。1969年生まれ、軟骨形成不全による小人症を患う身長132センチの俳優だ。

日本ではあまり親しまれていないディンクレイジだが、人気テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2009~)で高い知性とユーモアを併せ持つティリオン・ラニスター役を演じて大ブレイク。マーベル・シネマティック・ユニバース作品『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年4月27日公開)への出演も決定している、今もっとも注目したい俳優のひとりといっても過言ではないのである。

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c 2015 Columbia Pictures Industries, Inc. , LSC Film Corporation and China Film Co., Ltd. All Rights Reserved.

しかしハンディキャップを抱えながら俳優を志したディンクレイジの半生は、決してスムーズな道のりではなかったようだ。彼は小人症であるからこそ、その世間的なイメージとも常に戦ってきた俳優なのである。

貧乏俳優からテレビのトップスターへ

テレビの世界では『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるディンクレイジだが、映画では意外にも代表作と呼ばれるものは少ない。『ピクセル』以外には『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014)のほか、アニメ映画『アングリーバード』(2016)や『アイス・エイジ4/パイレーツ大冒険』(2012)などがあるものの、“誰もが知る映画”にはほぼ出演していないのである。

しかしそんな彼を『ゲーム・オブ・スローンズ』に出会わせるところまで導いたのは、低予算で製作されたインディペンデント映画の数々だった。貧乏のためにネズミの出るアパートで暮らしていた20代の彼は、仕事に困りながらも、小人症ゆえのステレオタイプな配役(妖精やエルフなど)を断り続けていたという。
そんなディンクレイジにとって1つ目のターニングポイントとなった映画が、『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』(1995)だ。スティーブ・ブシェミやキャスリーン・キーナーらが出演していたこの映画で、彼は“ステレオタイプに抗う小人症の俳優”という本人さながらの役柄で注目されることになる。

しかしディンクレイジが俳優として生計を立てられるのは30代になってからのことだったという。次なるターニングポイントとなったのは、2003年の『ザ・ステーション・エージェント(原題:The Station Agent)』だ。かつて出演した舞台を手がけていたトム・マッカーシーがディンクレイジの主演俳優としての可能性を見出して製作した作品で、これをきっかけにディンクレイジは映画への出演オファーが急増させている。
ちなみにトム・マッカーシーは、のちにアカデミー賞に輝いた『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)を脚本・監督し、俳優としてもハリウッドで活躍する人物となった。2015年、英ガーディアン紙のインタビューでディンクレイジはこう語っている。

「本当にわずかなお金をもらって、友人たちと当時できる限りのことをして作った映画でした。まだ何かできると思いたかったんですね。人生で最も素晴らしかった時間です。トムはすごいことをしましたよね。僕はずいぶん見た目が老けて、でも今でも同じ人間ですよ。頭まで水に浸かってしまわないように、必死でバタバタもがいてます。」

『ザ・ステーション・エージェント』のあと、ディンクレイジは『エルフ ~サンタの国からやってきた~』(2003)や『コネクション マフィアたちの法廷』(2006)、『ペネロピ』(2006)、『ハウエルズ家のちょっとおかしなお葬式』(2007)、『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』(2008)などに出演している。興行成績や作品の評価はまちまちだが、ディンクレイジの仕事ぶりは少しずつ業界内に浸透していったようだ。
しかしこうした活動を続ける一方でも、ディンクレイジは「家賃を払えるような仕事はたくさんあったが、演技を生活の手段だとは考えていなかった」という。

そして2011年、ディンクレイジは自身をブレイクに導いたドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』と出会うことになる。いわゆるステレオタイプを避けてきた彼にとって、演じるティリオン・ラニスター役はある鮮烈な印象をもって受け止められる役だったようだ。原作小説『氷と炎の歌』を執筆するジョージ・R・R・マーティンに、彼はこう感謝の言葉を述べている。

「僕は小説の『指輪物語』も映画の『ロード・オブ・ザ・リング』も大好きですが、でもエルフやドワーフは別の生き物として描かれている。物語の中で、彼らは人ならざる者なんですよね。でも、そのへんを歩いてるエルフはいませんが、僕みたいなドワーフは現実にいるわけです。だから、たまにはフィクションの中で人間として描かれるのは良いことですよ。特にこういうジャンルではね。ジョージはドワーフを人間として丁寧に描いていて、とてもクレバーだと思いました。」

Peter Dinklage speaking at the 2013 San Diego Comic Con International, for "Game of Thrones", at the San Diego Convention Center in San Diego, California. / Photo by Gage Skidmore ( https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/9350749118/ )
Peter Dinklage speaking at the 2013 San Diego Comic Con International, for “Game of Thrones”, at the San Diego Convention Center in San Diego, California. / Photo by Gage Skidmore ( https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/9350749118/ )

俳優としての現在地

『ゲーム・オブ・スローンズ』以降、ディンクレイジは活動の幅をさらに広げている。『ピクセル』や『X-MEN: フューチャー&パスト』、『アングリーバード』、そして『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のそのなかのひとつだ。
MOVIES.IEのインタビューで、ディンクレイジは現在の心境をこう明かしている。

子供の頃、『スター・ウォーズ』やいろんな映画を観ていて、自分がその一部になれるなんて思いませんでした。学校で演劇を学んでいた時ですらね。そこを繋げるだけの大きな野心がなかったんです。“あれなら僕でもできる”って思ったことは一度もありません。自転車に乗るだけで幸せだったんですよ!
それが舞台に出るようになって、それが小さな映画になって、いきなり大作に出るようになりました。でも規模が大きかろうが小さかろうが…こんな男が言うのは申し訳ないんですが…大切なのは題材です。巨大な映画は良いストーリーなしにはうまくいかない。すべては脚本ですね。」

長いスパンで製作されるドラマに出演し、毎年の仕事が現在確約されていることは、かつて仕事に恵まれず貧しい生活を送っていたディンクレイジにとって非常に大きな“経済的保障”である。同時に多忙なスケジュールの合間を縫ってあらゆる映画やドラマに出演することは、彼にとって良い息抜きでもあるという。
しかし英ガーディアン紙に語ったところによると、ドラマによる経済的保障を活かすようにして、ディンクレイジはとりわけ低予算映画を重要視しているようだ。

低予算映画をすごく大切にしているのは、金儲けをしに来ている人たちがいないからです。代わりに、何か別の理由で作品を作ろうとしている人たちがいるんですよ。彼らには常に感謝しています。キャリアを始めた頃から、僕がずっと触れてきたものですからね。」

ディンクレイジの最新作は、2017年9月に米国にて公開される、自身が主演を務めるSFスリラー『リメモリー(原題:REMEMORY)』だ。2016年初頭に撮影された作品で、故アントン・イェルチンも出演している。
小人症の俳優がクリーチャーや妖精などを演じることが未だに多い現在、ディンクレイジが普通の人間を演じつづけていること、大作映画できちんと重要なポジションを与えられること、そして主演を張っていることは大きな意義のあることだろう。2015年当時、彼はハリウッドの状況についてこう語っている

「今や主演を務める男優の定義が変わりつつあります。素晴らしいことですよ。過去の主演俳優とは大きく違いますね。いよいよ、ハリウッドがより現実的に人々の姿を描こうと扉を開いているんです。美しいハリウッドスターだけではない方向へとね。」

ちなみに2005年に女優・演出家のエリカ・シュミット氏と結婚したディンクレイジには、2011年に娘が誕生し、さらに2017年3月には第二子が誕生することも報じられている。妻について尋ねられた彼は、「刺激を与えてくれる人ですよ。まさしく家庭の芸術家ですね。僕は金を稼ぐただのテレビ俳優ですから」と語るのだった。

ピクセル

『ピクセル』発売中
Blu-ray ¥1,800(税抜) / DVD ¥1,280(税抜)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

c 2015 Columbia Pictures Industries, Inc. , LSC Film Corporation and China Film Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

Sources:?https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2015/aug/07/peter-dinklage-tyrion-lannister-game-of-thrones-pixels
http://www.movies.ie/peter-dinklage-interview-for-pixels/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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