『ピンパン』これぞ短編映画の醍醐味!ただ者ではない監督と柳英里紗 【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

ふとした”出会い”により少しだけ変化する女性の日常を描く。

『ピンパン』あらすじ

職場ではセクハラを受け、何も抵抗できないでいる女。仕事の後、毎日のように卓球場に通っているが、試合をするわけでもなく、一人黙々と練習に打ち込むことで現実逃避する日々を過ごしていたが……。

完璧な短編映画!ただ者ではない柳英里紗と田中羊一監督

分かりやすく端的なシチュエーション、少なく簡潔なセリフ、テンポの良い展開、鮮やかな結末、そして印象的な主人公。それらすべての要素を備えているのが『ピンパン』だ。

ボブの髪をハーフアップにして、黙々と卓球の壁打ちをしている女性。柳英里紗演じるこの女性が登場した瞬間に、観る者は『ピンパン』の世界に引き込まれる。白い肌、強い眼差し、見事な卓球の腕前。なにかと戦うように同じ動きを繰り返す彼女に、誰しも興味を惹かれずにはいられないだろう。

その後、少しずつ彼女の生活が明らかになっている。卓球場に通い詰めてはいるが、決して試合をしようとはしないこと。小さな事務所に勤めているが、上司にセクハラを受けて耐えていること。家につくと、机に向かってラケットの手入れをするのが日課だということ。

必要最低限の言葉しか発さず、セクハラを嫌悪していても主張せず、淡々と日常を過ごす彼女の様子は実に控えめだが、卓球場で着替え、髪をまとめた途端に雰囲気が一変する。キリリとした挑むような眼差し。誰も寄せ付けないようなオーラを纏った彼女は、ひたすら自分自身と戦い続ける。日常の他のすべてを打ち砕くように。

自分の予想と違う動きをした卓球マシンにすら反応しないほど、周囲に対して完全に壁を築いてしまっている彼女は、周囲だけではなく自分自身に対しても”閉じて”しまっているのだが、ある出会いが変化をもたらすことになる。”反復””無感情”を体現するような彼女とは対照的な存在。しかも、言葉でコミュニケーションをとることができない存在。その存在を目にすることで、彼女の中で小さな変化が起こる。自慰行為。そしてセクハラの拒絶。衝動と感情。まずは、自分自身に対して扉を開いたようだ。

ピンパン_sub

『ピンパン』 (C)DEEP END PICTURES Inc.

次は、周囲に対する壁だ。別の日、あの存在が再び彼女の前に現れる。彼女の反応などおかまいなしに壁を破壊してくるその存在が、彼女の隠されていた姿を引きずりだすことになる。

ラストシーン、少しだけ笑う柳英里紗の表情に、観る者の心は撃ち抜かれるだろう。未だかつて、こんなにも鮮やかな微笑が存在しただろうか?

派手な演出も、大袈裟な演技も全くないのに、微笑だけで文句なしのドラマチックなクライマックスを描きだした田中羊一監督と柳英里紗。魔法にでもかかったような爽やかな衝撃。『ピンパン』は、完敗としか言いようがないほどに、完璧な短編映画だ。

『ピンパン』レビュー 小気味よく流れる音が心地いい!【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

卓球を通じてひとりの葛藤を描く『ピンパン/Ping Pang』【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016上映作品】

 

 

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ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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