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【レビュー】『パワーレンジャー』どう観た?監督ら4人に取材して解説する「キャラ主体の戦隊ドラマ」の魅力

(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

日本の『スーパー戦隊』シリーズが、ハリウッドで初の実写映画化を果たした『パワーレンジャー』が、2017年7月15日にいよいよ日本公開となる。全米では3,500を超えるスクリーンで封切られ、オープニング興行収入4,000万ドルを突破した話題作が、『トランスフォーマー / 最後の騎士王』『スパイダーマン:ホームカミング』や『ワンダーウーマン』といった超大作ひしめくこの夏の注目作としてついに日本凱旋を果たすわけだ。

筆者は、ディーン・イズラライト監督ブライアン・カセンティーニプロデューサー主演のデイカー・モンゴメリーとナオミ・スコットの4名へ直接の取材を行っている。貴重な機会を頂いた同作を応援したい気持ちで、彼らの証言を交えながら『パワーレンジャー』の魅力をネタバレ無しで立体的に紹介していくとしよう。

映画『パワーレンジャー』レビュー

(c)2016 Lions Gate TM
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

「この時をずっと待っていたんだ。」

プロデューサーのブライアンは笑みを浮かべて語った。「1993年のシリーズ第一作『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』を観て育った観客が大人になるタイミングを、ずっとね。」

映画『パワーレンジャー』は、アメリカで放送された『マイティ・モーフィン・パワーレンジャー』(1993)をベースとしている。5人の戦士の名前をそのまま引き継ぎ、メンターとなるゾードンやアルファ5、ヴィランのリタ・レパルサもオリジナル版に由来している。そして、このアメリカ版のルーツには、1992~93年に日本で放送された『恐竜戦隊ジュウレンジャー』がある。筆者を含め、当時のシリーズを幼少期に見て育った少年少女の多くが30代前後となった頃、『パワーレンジャー』は「もっと成熟させたものを見せるため」(ブライアンプロデューサー)にスケールアップして生まれ変わったのだ。総製作費は120億円と言われる。

しかし、当時の少年が大人になる頃、世界では空前のスーパーヒーロー映画ブームが到来していることを予期できていた者は少ないだろう。「ヒーローチームもの」という同シリーズ最大のアピールポイントも、『アベンジャーズ』を始めとする作品によって珍しいものではなくなった。

「キャラクター主体」でオリジン描く

(c)2017 Lions Gate TM
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

では、『パワーレンジャー』が現代にひしめく他のヒーロー作品と違うものとは何か。プロデューサー、出演者、そして監督それぞれに同じ質問を尋ねると、開口一番、異口同音にした単語がある。「キャラクター主体」だ。

「僕自身、沢山のヒーロー映画を観てきたけど、こんなストーリーは初めてだよ。」レッドレンジャーことジェイソン・スコットを演じたデイカー・モンゴメリーはこう述べた。そして、ブライアン プロデューサーとイエローレンジャー / キンバリー・ハート役のナオミ・スコットは、“友と一緒にスーパーヒーローになる”という今作のコンセプトを共に語っていた。「マーベルやDCといったスーパーヒーロー映画も大好きだが、やはり『パワーレンジャー』では違いを出したかった。地に足がついた感じというか、リアリティを出したかった。」(ブライアン プロデューサー)

彼らの発言からも分かるように、映画『パワーレンジャー』は、他のスーパーヒーロー作品とは一線を画す雰囲気に仕上がっている。監督にして「スーパーヒーロー版『スタンド・バイ・ミー』『ブレックファスト・クラブ』」と表現される本作では、ティーン・エイジャーの葛藤と成長、その先に芽生える友情が色濃く描かれる。ある事件をきっかけにスーパーパワーを得た5人だが、そのパワーの扱いに戸惑うといった描写は、思えばここ数年のヒーロー映画には少なかった。ユニバースが拡大し、フランチャイズ化を極めるヒーロー映画の世界において、『パワーレンジャー』はあらためて、『スパイダーマン』(2002)を思い出させる程丁寧にヒーロー・オリジンを描く。

そのため、ヒーローアクションのみを目当てに出掛けると肩透かしを食らうかもしれない。デイカーが『パワーレンジャー』は、”友情”をメタファーとしたヒーロー」と語るように、今作は「パワーレンジャーの中にティーンのドラマ要素もある」と言うより、「ティーンのドラマの中にパワーレンジャーがある」と表した方が相応しい。『デッドプール』(2016)は、ヒーロー・オリジンを描く作品でありながら、回顧録の形を取ることで「オープニングからいきなりヒーロー・アクションを描ける」という発明を行っていたが、これは不合理さ許されるデッドプールだからこそ成立していたもの。『パワーレンジャー』は、しっかりと地に足をつけて綿密にドラマを描き上げていく。

連続ドラマ的ストーリー・テリング

はじめは初対面状態の5人が反発しながらも、「秘密」を共有することで急激に仲を深めていく感覚は、誰もが青春時代に似た経験をしているだろう。124分の上映時間の中で、5人の若者のキャラクター性や結びつきがじっくりと熟成されていく感覚は良い意味で映画というより連続ドラマを鑑賞しているようそこにリアリティを感じられるのは、彼らが現代の現実に即した等身大のキャラクターたちだからだ。「ここで描かれるティーンエイジャーたちが直面している問題は、現代的であり、共感できるものでないといけない」と語るディーン監督は、5人を通じて現代の若者が抱える苦悩をあぶり出した。

(c)2017 Lions Gate TM
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

ジェイソン(レッド)は、親の期待に答えられず自らの進路に迷う高校生。キンバリー(ピンク)は学校の女子グループ内で突然いじめられ、ビリー(ブルー)は自閉症スペクトラムを患い、ザック(ブラック)は病気の母を持つ不登校児。トリニー(イエロー)は転校が多い”ぼっち”である他、LGBTの設定が明かされている。「きっと登場人物の誰かに共感できる」(ナオミ)、「世界中の誰もが共感できる、ユニバーサルな作品」(デイカー)だ。

「変身」に重みと威厳

全米公開前より、今作はティーン版『ダークナイト』のようなテイストになるとされていた。これは、暗いということではなく、シリアスで現実的であるという意味。このトーンは変身シーンにも見られる。5人は、とあるきっかけでパワーレンジャーとして選ばれるが、簡単に変身できるようになるわけではない。自分本意さを捨て、真に仲間を思う”和”の精神を経て初めてパワーレンジャーのスーツが現れる。

(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

監督が「アイアンマンみたいにスーツを着ればいいわけじゃない」と語る意図を、ブライアン プロデューサーは、「よりシリアスなドラマにするためのアプローチ」と明かす。「彼らは、変身にたどり着くまで努力を重ねてようやく力を開放する術を見つけ、チームとしてひとつになるのだから、(変身シーンは)シリアスで威厳あるシーンにしたかった」と続けた。

最も、子供の観客も当然含まれる『パワーレンジャー』は、シリアス一辺倒とはならない。ディーン監督は、リアルでエッジーな部分と、楽しくて笑える部分のトーンのバランスに注意を払った」と語り、今作の立体性をアピールする。「80年代の映画のように、異なるトーンをミックスしたつもりだ。」
今作でコメディ・リリーフを担うのは、ゾードンの補佐役ロボット、アルファ5(日本語吹替版は南海キャンディーズ山里亮太が担当)ではなく、ブルーレンジャーとなるビリー・クランストン。機械いじりが得意なビリーは5人の中で最も朗らかで、異なるトーンのバランスを取る存在だ。

(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

「キャラクター中心」のストーリーとしてまとめるにあたって、『パワーレンジャー』は物語に大人の存在をほとんど出さなかった。ヴィランであるリタ・レパルサは凶悪な力で地球を狙うが、政府や米軍といった興醒めする存在は介入しない。リタ・レパルサの復讐心は、パワーレンジャーによって破られねばならない。だから、5人の日常に”災害”と”新たな友情とパワー”をONした形式で描かれている。
このことから、監督やプロデューサーの言う「リアルさ」とは、「もしも現実世界に未曾有の危機が訪れたら」「もしもそれを打破できるパワーが備わったら」のリアルさを描くのではなく、「もしも未熟で平凡な若者5人が、パワーを通じて自己犠牲の精神を得たら」のリアルさを描いていることがわかる。ブライアンプロデューサーは「だから舞台もニューヨークのような大都市ではなく、アメリカの小さな街にしたんだ」と明かす。

(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

それでもやっぱり『パワーレンジャー』

『パワーレンジャー』が人間ドラマ主義の作品であると紹介すると、派手なアクションを期待していた特撮ファンはがっかりするかもしれない。しかし、その心配はない。「『スーパー戦隊』の画像を見ながら、日本版の世界観に合うロケ地を探し周った」と語るディーン監督は、同作がルーツとする特撮への敬意を忘れない。可能な限り実写にこだわったという同作で、キャストとスタントマンはレンジャースーツを実際に着用して撮影に挑んだ。

『スーパー戦隊』シリーズのアクション・シーンとして思い出されるのは、やはり無数の”ザコ敵”を相手に、5人が「ハァ!」「ヤァ!」という掛け声と共にパンチやキックを矢継ぎ早に繰り出す風景だ。そのお約束は、『パワーレンジャー』でもしっかり受け継がれる。既に劇中長い戦闘訓練を経ていた5人は、ついにパワーレンジャーへの変身を果たすと、待ってましたと言わんばかりに格闘術で敵を圧倒していく。

 (c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.
(c)2017 Lions Gate TM&(c) Toei & SCG P.R.

もうひとつのお約束といえば、巨大ロボットに乗り込んでのバトル。デイカーはこのクライマックス・バトルの魅力を表現する際、『パシフィック・リム』の名を借りている。「特殊効果チームは物凄い仕事をしてくれていて、完成版を観て本当に驚いたよ。」
レンジャーそれぞれのゾードが合体して立ち上がるメガゾードは、思わず映画『トランスフォーマー』を彷彿とさせられる。しかし、オートボットらと決定的に異なる点は、メガゾードが有機的な存在として表現されていることだ。特撮ロボットの魂を受け継いだ今作のメガゾードは、機械的に無茶な動きは決してしない。ズシリズシリと歩みを進め、パンチ一発の挙動も重く大きい。

さらに、このバトルが日中、太陽光に晒されながら展開されるのも、TVシリーズを踏襲しているということだ。ブライアンプロデューサーは指摘する。「ジャイアント・メカ・ロボットがジャイアント・カイジュウ・モンスターと、小さな街の中で戦う。ここで肝なのが、明るい日光の中で戦うというところだ。多くの映画はCGで細かいところを隠しながら、戦闘シーンを夜に持ってくる。でも日中の戦闘では全てが晒されるから、だからこそリアルに感じるんだ。」

「今日のスーパーヒーロー映画の多くは、アクションは派手でかっこいいけれど、中身が薄い。」2017年3月のL.A.プレミアで行われたインタビューで、ビリー(ブルーレンジャー)役のR.J.サイラーはこう語っていた。「そこから学べることは、あまりない。クライマックスで主人公が勝つ時は興奮するが、それが終わったら、何も残らない。でも、この映画では、この子たちの問題が、もっと奥深く語られる。今作は、現実的な問題の多くに触れる。アクション映画が、普通、恐れて触れないような問題にも触れている。

パワーレンジャーは、他のスーパーヒーロー映画とは決定的に違う。それは、今作がヒーローたちの華々しいアクションに終始しているのではなく、現代的な悩みを抱えた国際的な5人の若者による人間ドラマ主体になっているという点だ。
そして、『スーパー戦隊』という、日本人なら誰もが知るヒーローがベースとなっている点も見逃せない。アイアンマンやバットマンも大好きだが、子供の頃はじめて憧れたヒーローが『スーパー戦隊』であるという日本人は多いはず。ジェイソン・スコット / レッドレンジャー日本語吹替声優を務めた勝地涼はジャパン・プレミアで「子供を連れて観に行ったけど、最終的にお父さんが一番興奮しているみたいな風になれば」と語った。ノスタルジーが最新テクノロジーのスーツをまとって繰り出す会心の一撃を、劇場の大スクリーンで受け止めてきて欲しい。

映画『パワーレンジャー』は、2017年7月15日、変身。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。