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【レビュー】『高慢と偏見とゾンビ』おバカなゾンビ設定と真面目な恋愛描写の温度差が超シュールでオモシロイ!

ジェーン・オースティンが書いた恋愛小説『高慢と偏見 』は長きにわたって世界中の人に愛される不朽の名作です。19世紀イギリスの片田舎を舞台に、誤解や偏見で起こる恋心のすれ違いを描いています。何度も映画化されており、最近ではキーラ・ナイトレイ主演の『プライドと偏見』がありますし、たびたび映画中のキーアイテムとしても『高慢と偏見』は登場します。たとえば、トム・ハンクスとメグ・ライアン主演の『ユー・ガット・メール』では主人公が好きな本に『高慢と偏見』を挙げていながらも、自らが小説のエリザベスのように偏見で友人を傷つけていることに気づかない、という皮肉な演出もあったりします。そんなわけで原作小説そのものを読むこともオススメしたいのですが、今回ご紹介するのは『高慢と偏見とゾンビ』です。ほとんど出オチ、アイデア勝負の作品ですが、じつはこれがなかなか堅実な恋愛映画なのです。いったいどういうことなのか、探っていくことにしましょう。

意外にも『高慢と偏見』を踏襲した堅実な話運び

舞台は19世紀イギリス。郊外に住む中堅貴族ベネット家の5人姉妹と近所のネザフィールド邸に引っ越してきたビングリー氏とその友人ダーシーが主な登場人物になります。彼らの馴れ初め、恋の発展とその結末など、基本設定や物語は案外誠実に原作を守っています。特に高慢なダーシーと彼に偏見を持つエリザベスのすれ違いは本作でも軸になっており、恋愛映画としてはかなり古典的な物語運びを踏襲しています。一方で途中のエピソードを端折ってかなりテンポ良く進めているので少々描写が足りない部分もあり、原作を一読しておくと補完しながら、そして違いを楽しんで鑑賞できるでしょう。

荒唐無稽でシュールな世界観

基本設定は『高慢と偏見』ですが、そこにゾンビ要素が加わることで一気にシュールさが加速します。なぜこの原作にゾンビのアレンジをして映画にしようと思ったのか、鑑賞した後も疑問に思っています。全くもって天才的な発想です。

まず、物語は既にイギリスがゾンビによって汚染されイギリスすらも陥落した状態から始まります。みんながゾンビの存在に慣れ対策をしている、すなわち「ゾンビが当たり前」の世界なわけです。しかもイギリスが大帝国として世界中で貿易をするさなかに疫病も持ち込まれてしまったという設定。現実にも黄熱病やマラリアは歴史を動かす重要なファクターでしたから、なんとなくこういう歴史もあり得たのかなと思うと(実際ないでしょうが)新鮮で面白い設定です。こういう細かい背景の詰め方がやけにマジメなのも好感が持てます。『高慢と偏見』にゾンビを混ぜるとかいう時点で相当ふざけてるのですが、映画の作り手はいたって真剣なので余計にシュールさが増します。

また、ベネット家には男の跡継ぎがいないため、母親は専ら5人の娘を嫁がせることだけに関心があり、あの手この手を尽くして娘たちを男のもとに押し付けます。そして貴族たるもの、お嫁に行くためにはそれなりの教養や資質が要求されるわけです。だいたい貴族の嗜みというと音楽とか文学とか、そういう静かで落ち着いたイメージがありますよね?しかし、ベネット姉妹は家で銃のパーツを磨いています。ここら辺のギャップがもう最高なわけです。それが当たり前、という顔をしているのが更に笑わせます。また、彼女たちがドレスの下に武器を装備し、舞踏会で暴れるゾンビたちを切り裂くシーンは非常に素晴らしいものとなっています。冒頭にしかないのが勿体無いぐらいです。

最も興味深い設定は、上流貴族と中堅貴族の格差を「習得する武術の違い」で表現したことです。『高慢と偏見』ではベネット家の家庭事情や、エリザベスとダーシーのすれ違い恋愛で大きな要素となるのがその上流貴族と中堅貴族の教育的・経済的格差になっています。実際、『高慢と偏見とゾンビ』の背景にもその事情は絡んでくるのですが、尺の限られた映画の中でそこらへんの面倒くさい説明を省きつつ、しっかりゾンビを絡めた設定を用意するという巧みなことを本作はやってのけています。それは、ゾンビと戦う手段として上流貴族は日本で武術を学び、中堅貴族はお金がないために中国で武術を学ぶというものです。立ち居振る舞いや教養はあまり伝わってきませんが、戦闘スタイルの差で育ちがわかっちゃうんですね。中国の武術とやらがなんなのかはイマイチ判然としませんが、上流貴族であるダーシーはしっかり日本刀で戦っています。バカバカしいけど感心してしまう、なんとも味わい深い設定です。

ゾンビ映画なのにグロくない安心設計

ゾンビ映画というと観客を驚かせる不意打ちの爆音とかドッキリ描写があったり、感染したゾンビがグロテスクなために敬遠しがちな人も多いでしょう。その点、この映画は安心です。レーティングが全年齢対象のGですから、幼稚園児でも映画館で見られます。よっぽどホラー描写にアレルギーがない限り大丈夫でしょう(アクション映画で血飛沫が飛ぶのもダメ!という人は要検討かもしれませんが…)裏を返せば、ゾンビ映画の醍醐味とも言えるスプラッシャー描写も皆無なため、物足りなさを感じる人もいるかもしれません。実際、ゾンビをバサバサなぎ倒す爽快感は抑えめです。しかし、あくまで本作は『高慢と偏見』のアレンジであり、元々は恋愛映画なのだと考えれば、ゾンビ要素も背景として十分なほどであると納得できるはずです。ゾンビが足りねえ!って人はその他のゾンビ映画で補完しましょう。

最近映画館で公開される映画って『君の名は。』とか『怒り』とか『聲の形』とか面白いけど体力を使う、言ってしまえば重い作品が多い気がします。その中で異色を放ち、全く別ベクトルの魅力を放っているのが本作です。おバカなゾンビ設定とその中で繰り広げられる真剣恋愛の温度差をゆるーく楽しみましょう。オススメです。

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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