『ブレードランナー』レイチェルは何処へ消えた?悲運の女優ショーン・ヤングの半生と現在【はじめてのブレードランナー3】

はじめにお断りしておきますが、この稿をしたためている時点では(2017年10月26日)、筆者は『ブレードランナー2049』をまだ鑑賞しておりません。映画情報サイトに寄稿する立場にありながら、スター・ウォーズと同じくブレードランナーにも特別な思い入れを持つあまり、公開の1ヵ月前からほぼ全ての事前情報をシャットアウト。ともすれば海外の性質の悪いファンが本編のネタバレをぶっこんでくる恐れもあるのでSNSのアカウントも閲覧を封印しております。故にブレードランナー続編『2049』の内容にチラッと触れるようなことがこの記事にあっても、決して筆者が意図したものではなく、あくまで前作『ブレードランナー』において重要な登場人物であったキャラクターを掘り下げるという趣旨でございますので、何卒ご理解と事前承諾のほどよろしくお願いいたします。
また彼女の存在そのものが、作品のテーマに直接結びついており、映画『ブレードランナー』の最重要キャラクターだったといっても決して過言ではありません。レイチェルを演じたのは、アメリカ人女優のショーン・ヤング。しかしこれほど有名な作品において、鮮烈な印象を残しながら、今日では彼女の名前を聞くことはほとんどありません。それは何故なのでしょうか。
ショーン・ヤングが表舞台から去った理由
その美貌であっという間に頭角を現した彼女は、20歳そこそこにしてジャームズ・アイヴォリーの『ジェーン・オースティン・イン・マンハッタン(1980)』(アリアドネ役)や、ビル・マーレイの主演コメディ映画『パラダイス・アーミー(1981)』(ルイス・クーパー役)等の話題作に立て続けに出演します。そして『ブレードランナー』のレイチェル役のオーディションへ参加するに至るわけですが、当時の有名女優がズラッと名を連ねた50人を超える候補者の中でも、やはり彼女の存在感は群を抜いていました。
ポール・M・サモン著の『メイキング・オブ・ブレードランナー』の中で監督のリドリー・スコットがインタビューでショーン・ヤングを「彼女は完ぺきだった。まるでレプリカントの容器から今でてきたようだった」と評しています。当初レイチェル役に監督が求めたイメージは『風の共に去りぬ』のヴィヴィアン・リーや、『ギルダ』のリタ・ヘイワースのような雰囲気を持つブルネットの女優だったそうです。現在から振り返ると、リタ・ヘイワースの妖艶なイメージはともかく、ヴィヴィアン・リー演じるスカーレットは確かにレイチェルを彷彿とさせなくもないですね。もとい、監督お墨付きのハマリ役を得たショーン・ヤングが『ブレードランナー』においてどのようなインパクトを残したか、言を重ねるまでもありません。
不遇のキャリア
やがて世界中を巻き込んだ巨大なカルト映画へと成長した『ブレードランナー』を経て、ショーン・ヤングの一流女優としてのキャリアも順風満帆かと思えました。1980年代は出演作も相次ぎデヴィッド・リンチ監督の『砂の惑星:デューン』(1984)やケヴィン・コスナー主演で濡れ場が話題となった『追いつめられて』(1987)などの質はともかくビッグバジェット作品に登場しています。しかし、その運命が暗い方へと傾くのは、80年代後半から90年代初頭。まずプライベートで、共演作(『THE BOOTS/引き裂かれた愛』(1988))が縁で交際していたIQ180の俳優ジェームズ・ウッズから、破局後につきまとったとしてストーカー行為を訴えられ、その奇行が世間の耳目を集めてしまいます。そしてなんといっても1989年、出演が決まっていた、後に大ヒットする超有名作品の乗馬トレーニング中に骨折、役を降りざるをえなくなってしまいます。THE RIVER読者の皆様には驚いて頂けると思うのですが、その作品とはティム・バートンの『バットマン』(1989)。ショーン・ヤングが演じるはずだった役はヴィッキー・ヴェイル、ヒロインでした。いまさら説明するまでもないですが、ティム・バートン版バットマンは、1989年のアメリカ年間興行収益ランキングで2位の『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』をはるかにぶっちぎって1位を獲得。現在へと続くアメコミ映画の潮流のまさに原点といっていい作品です。代わりに役を得る形となったキム・ベイシンガーの現在まで続く華やかなフィルモグラフィーを鑑みれば、ショーン・ヤングの無念たるや凄まじいものがあったでしょう。
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