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ダニエル・ラドクリフ、『ハリー・ポッター』の成功が生んだ苦しみとは ─ 「とにかく酒を飲むんです、つらいことを忘れるために飲む」

ダニエル・ラドクリフ
Photo by Gage Skidmore https://www.flickr.com/photos/gageskidmore/19119473773

「一世を風靡した子役俳優には、数奇な人生がつきものだ」。日本にせよ海外にせよ、そんなイメージが多くの人々に浸透していることは事実だろう。そして実際のところ、エンターテインメントの世界で幼くして成功した人々の中には、そのイメージを裏切らない者も少なくない。

映画『ハリー・ポッター』シリーズで主演を務めたダニエル・ラドクリフは、幸いにしてハリー・ポッター役のあとも順調にキャリアを重ね、個性的な作品選びなどで映画ファンから変わらぬ注目を浴びている人物である。しかしダニエルにも、かつては『ハリー・ポッター』の成功で生まれた問題と格闘し、一時はアルコールに溺れた時期があったという。インタビュー番組「Off Camera」にて、ダニエルは自身の苦しみと、そこから脱出した経緯を語っている。

「『見られている』と感じていたんです」

世界的ベストセラー小説を映画化した『ハリー・ポッター』シリーズは、まだ名もなき子役だったダニエル・ラドクリフを一躍トップスターへと押し上げた。ダニエルの顔を一度も見たことがない、という人を探すほうが難しかっただろう。けれどもその事実は、“自分はハリー・ポッターである”という思いは、やがてダニエルを苦しめることになっていった。

「10代の終わりごろは自分の意識と格闘していました。初めての場所に出かけると――ほとんど自分の頭の中だけのことかもしれませんが――“見られている”と感じるようになっていたんですよ。バーやパブに行くとね。そこで僕の場合、“見られている”ということをさっさと忘れてしまうために、とにかく酔っ払うことにしました。だけど、メチャクチャ酔っ払うとさらに意識するんです。“こんなに酔っ払っちゃって、さっきよりも見られてるぞ”と。それすら無視するために、もっと飲まなきゃいけなくなる。」

ダニエル自身、当時は「とにかく酒を飲む、つらいことを忘れるために飲む、それでも忘れられないからもっと飲む」という状況にあったと述べている。言わずもがな、非常に危険な状態だ。「この仕事を始めたころ、仕事がうまくいき始めたころは考えてもみなかったことです」

ハリー・ポッター
『ハリー・ポッターと賢者の石』TM & © 2001 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights © J.K.R.

たとえばワイドショーやインターネットを見ていると、若くして名前の売れたスターが奇行に走ったというゴシップを見聞きすることがあるだろう。ダニエルはそんな報道を見ると、張本人に共感をおぼえるという。「きっとすごく大変な時なんだろうなって、いつも思います」。そしてダニエルは、彼らの心境について「本人の立場になってみないとわからないもの」だと語る。

「大きいのは、僕たちが“常に満足していなければならない”と思われていることです。最高の仕事ができていて、お金もたくさんもらっている。だから何かに悲しんだり、何かを楽しめなかったりする権利はない。それはプレッシャーでしたね。人間として悲しむことが、もしもいけないことなんだとしたら、僕は有名人であることにも、自分の人生を生きることにも向いてないんじゃないかって。」

“元ハリー・ポッター”の俳優ダニエル・ラドクリフとして、人間ダニエル・ラドクリフとして。そのバランスに苦しんだ末、ダニエルは一時アルコールに溺れることになってしまった。そこから抜け出すには数年を要し、いろんな方法を試す必要があったという。

「すごくありがたかったのは、そういう時期に近くにいてくれた人たちがいたこと。それから――俳優の方もいますし、そうじゃない方もいますが――大切な人たちと出会って、素晴らしいアドバイスがもらえたこと、僕のことを気にかけてもらえたことです。だけど、最後は自分自身の決断でした。ある朝、目が覚めて、“これは良くないな”と思ったんです。」

現在、ダニエルは「自分の人生を自分でめちゃくちゃにしていたことを思えば、今ではずいぶん幸せです」と話している。かつては、“俳優はこうあるべき、有名人はこうあるべき”との思いに縛られ、それゆえに苦しんでいたところがあったというのだ。「だけどある時、本当の自分はどんな人間なのかと考えたんです。見せかけの部分を全部なくしてしまえば、楽しくなるだろうって」

このインタビューの中で、ダニエルは「自分の(俳優という)仕事が大好きです」と何度も語っている。それこそが自分には幸運だった、だから今後も仕事を続けていくだろうと。

「最低の時期でさえ、僕は仕事が大好きでしたし、撮影現場へ行くのが大好きでした。自分自身の問題が、現場にいることに影響を与えたことはなかったですね。“こんなこと、自分に起こらなければよかったのに。僕がハリー・ポッターじゃなければよかったのに”なんて思ったことは一度もありません。そんなことはまったく思わなかった。」

1989年生まれのダニエルは、2019年7月に30歳を迎える。そのキャリアや経験を語る生の言葉は、俳優や有名人でない人々にとっても学べるところが非常に多いものだ。現在、ダニエルは映画やテレビドラマ、舞台と幅広く活躍中。今後も新たな代表作と出会いながら、さらなる進化を続けていくにちがいない。

Source: Off Camera

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。