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「10年以内にオスカー賞を」 ─ 森崎ウィン、『レディ・プレイヤー1』後の今

『レディ・プレイヤー1』森崎ウィン インタビュー
©THE RIVER

 スティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』に、日本人キャラクター「ダイトウ(トシロウ)」役で大抜擢され、ファンの記憶に残る「俺はガンダムで行く」の名台詞を放った森崎ウィン。2018年4月の同作日本公開を大ヒットで終えた今、森崎は10年後を見据えていた。「アカデミー賞を獲る」という新たな夢を実現させるためだ。

『レディ・プレイヤー1』Blu-ray&DVDリリースを記念し、THE RIVERでは森崎ウィンにインタビュー。出演後の変化や、決め台詞へ込めた想い、撮影秘話の数々を語った。

『レディ・プレイヤー1』森崎ウィン インタビュー
©THE RIVER

『レディ・プレイヤー1』出演後のいま

スティーブン・スピルバーグ監督のハリウッド大作に重要な役どころでの出演となった森崎。大仕事を終えてなお、「浮ついた気持ちにはなっていない。むしろ、もっと出たいという気持ちだけ。今はやらなきゃいけないことが沢山あって、それをやっていくので精一杯ですね」とハングリー精神は掻き立てられる一方。「以前に比べれば露出が増えました。今は、ありがたいことに忙しくさせて頂いています。知ってもらえる機会が増えて、ありがたい気持ちでいっぱいです。」

プライベート面の変化を尋ねると、「相変わらず地味ですね」とポツリ。「外歩いていても、誰にも声かけられないし(笑)。たまにちょっと寂しいなって思う…。」

「和を見せたかった」

『レディ・プレイヤー1』で森崎はスピルバーグ監督から「直接指名された」とされるが、ロサンゼルスに飛んで参加したオーディションでは全く手応えがなかったと振り返る。

「参加できただけでも良かったし、”ハリウッドってこんな感じなんだ、次来た時は迷わず行けるくらいにしておこう”くらいの感覚でいたんですよ。そしたら、どういうわけか受かっていて。やってやった感は全くなかった。オーディションが終了して、よーしオッケー、帰ろうって感じだったので(笑)。

(起用の理由は)監督にも聞けていません。聞くのもおこがましいというか…。知らなくてもいいかな、って。取材で話されているのを聞いていると、”発音が良かった”とか”意志が強そうだった”って仰ってくれているようです。そういう点を見出して下さっていたのがすごく嬉しい。」

森崎が演じたダイトウことトシロウは、アーネスト・クラインの原作小説「ゲーム・ウォーズ」にも登場。ただし、原作のトシロウは影のある「オタク」であると読み取った森崎と製作陣は、「エンタメ作品として、もっとポップに演じる」ことを意識した。加えて森崎は、日本人としてのこだわりも注ぎ込む。

僕としては、アジア人ならではの”和”というものを見せたかったんですよ。どこでどう”和”を入れられるか、すごく考えました。あとは、三船敏郎さんのように演じてほしいという指示があった。撮影中はイギリスにいて、(三船作品を)借りに行ったり、観る時間がありませんでした。そこで、動画配信サイトでずっと観て、研究しました。

それから、僕だけお辞儀をするシーンが多いのは、立ち振舞や行動で(”和”を)見せていく、というのが伝わるんじゃないかなと。1人だけ日本から来てる人がいる、っていうものが見えるように心がけましたね。」

俺はガンダムで行く!

森崎が劇中で放った「俺はガンダムで行く」の名台詞は、映画ファンはもちろんのこと、アニメファン、ガンダムファンの間でも大きな話題に。この台詞の気の利いた和訳は、現場で唯一の日本人であった森崎自身が悩み抜いて生み出したものだ。劇場公開を終え、ファン興奮の声を聞いた今の心境は。

安堵しています。ガンダムファンの皆さんのことを一番気にしていました。(本編で)どう編集されるのかも分からなかったですし、めちゃめちゃ怖かったですよ…。

偉大なる「機動戦士ガンダム」と、その歴史を支える無数のファンらの想いを汲み取っていた森崎。この名台詞は、いかにして生まれたのか。

「台本上は『I choose the form of Gundam(Japanese)』だけで、”和訳、考えといてね”くらいで渡されたんです。”あっさり来たな!”って思って(笑)。最初にモーションキャプチャーを撮って、ライブアクションは後から撮影だったので、その間の期間にガンダムを勉強しとこう、くらいの軽い気持ちでいたんですよ。通訳さんも一緒だったし。そしたら、途中で通訳さんが違う仕事でいなくなっちゃって。スタジオ側も”もう君は大丈夫でしょ!通訳いらないでしょ!”みたいな感じで、”いや、あの、えっと…”って(笑)。

そこから必死で考えて、”『アムロ行きます』だよね、そうだよね…、いや、待て待て…、よく考えろ、よく考えろよ…”みたいな。“俺はガンダムを選ぶ”、”ガンダムで行こう”とか、色々考えました。

監督の演出上では、戦いに出るサムライ、それもこの戦いで命を落とすかもしれないという覚悟の気持ちでいてほしいということだったので、とにかく台詞の最後に”!”マークを付けたいなという気持ちで。”言い切る”というか、音的なことも考え抜いて。

現場で日本語が分かるのは僕しかいない中、”コレで行かせてください”って。トシロウにも失礼にならないようにリスペクトを込めたセリフなので、今は皆さんに受け入れて頂けて”あぁ、良かった…”と胸を撫で下ろしています。

80年代に魅せられて

『レディ・プレイヤー1』がフィーチャーする80年代ポップカルチャーは、1990年生まれの森崎にとって新鮮なものだったという。「80年代のカルチャーはなんとなく身近にあったもの。でも、意識することは今までなかったので、すごく新しく感じたんです」と語る。

「派手だと感じました。くすんだ色合いなのに、ちゃんと抜けてくるというか。僕はアニメも好きなのですが、『AKIRA』(1988)を観た時は衝撃でしたね。当時からこういう内容の作品があったんだって。最近、『A.I.C.O. Incarnation』(2018)というアニメにハマってるんですけど、『AKIRA』との関連を感じるんですね。そんな作品が80年代の時点から出ていて、そこから刺激を受けて現在のアニメがあるんだなって。80年代のアニメ、もっと探っていきたいですね。」

80年代のカルチャーにすっかり魅了された様子だが、中でも「一番影響を受けるのは音楽ですね」と言う森崎は、ダンスボーカルユニット「PrizmaX」のメンバーとしても知られる。この時代の音楽からは、学ぶことがたくさんあるようだ。

「音楽をやっている人間として、音を聴いて”80年代でこんなにカッコいい音使ってたのか!”、”どこのシンセサイザーだろう?”みたいな、細かな部分を感じ取っています。80年代の曲を集めて、自分でプレイリストを作ったんですけど、ホール・アンド・オーツの『You Make My Dream』なんて、単純に”おぉ、トラックカッコいいなぁ!”って、普通に好きでよく聴いていたんですよ。まさか『レディ・プレイヤー1』のエンドロールで流れるなんて思わなくて。”うぉぁー!”って1人で興奮してました(笑)。

今やハリウッドスターの仲間入りを果たした森崎だが、PrizmaXファンの皆様もご安心を。音楽活動はこれからも「続けます。辞める理由が全くない」と断言する。

「自分発信で表現できる場があるというのは、すごくありがたいことだと思います。目標はアジアツアー。アジアを代表するアーティストやグループになれたらいいなって。グループで周って、ソロでも周れたら、それ以上は何もないです。」

俳優業としては、アクション映画への出演を熱望する森崎。『S.W.A.T.』(2003)のようなガンアクションが憧れなのだという。「ハンドサインをやりたいんですよね。国内では、小栗旬さんと西島秀俊さんのドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』のような作品に出てみたい。」

撮影現場、日米の違い

ハリウッドの撮影現場の様子を聞くと、日本の環境とは「全然違いますね」と答える。

「向こうは時間的に余裕がありますね。朝は早かったりするんですけど、夕方5時くらいに終わるし、土日はオフ。日曜日に急に撮影が入った場合は、代わりに月曜日がオフになる。非常にゆったりしてますね。”こんなんで良いの?”って、逆に落ち着かないくらい。その分、オンとオフの切り替えは早いです。やるとなったらパッと(オンの状態に)持っていきますし、終わったら”ハイ、お疲れ〜”って。

スピルバーグ監督も、その日の撮影が終わるとすぐ帰っちゃうんですよ。ある時、その日撮る4シーン全てに僕が入っていたことがあって、時間的に全シーン撮っても夕方くらいには終わる配分だったんですね。でも、1シーン目の時点でもう夕方4時半くらいになって。”まぁ、スタジオ撮影だし陽も関係ないから、今日は長くかかりそうだな”と思ってたんですね。そこから夕方5時頃に僕のシーンを撮ったら、監督が”Yeah! That’s what I want!(イェーイ!それだよ!)”ってハグしてくれて、そのまま帰っていった。”えっ、今日終わり?”みたいな(笑)。でもスタッフさんは皆大慌てで、必死でスケジュールを組み直していました。」

全世界興行収入5.8億ドルの大ヒット作となった『レディ・プレイヤー1』。森崎は、早くも続編製作を予感している。

「共演者たちとも、“続編でまた会おうね”って話しているんですよ。スピルバーグ監督も、ジャパンプレミアを終えて帰国される時に“これはサヨナラじゃない、この作品が終わっただけだ”って言っていたんです。きっと続編をやるっていうことなんだと思います。

もしも続編が実現したら、トシロウには裏切って欲しい。悪の方に周って欲しいんですよね。話しているだけでワクワクします。絶対ヤバいですよ。」

森崎ウィン、10年後の姿

「日々の仕事の中で、勉強しなくてはという意識が強くなった。例えば、次の作品に出演するために準備できることはなんだろう、と。」森崎は、今後の目標として「10年以内にオスカーで賞を取る」と意気込む。

言葉だけ見ると笑われるかもしれないけど、僕は笑われようがどうでもいい。ドルビー・シアターで舞台挨拶をしたときに、”俺、これ立てるな”って思ったんです。で、辻さんが獲ったじゃないですか(※)。そのニュースを家で見ていたときに、想像できたんですよ。俺、タキシード着て、何か(スピーチ文を)読んで、ギャグか何か言ってるんだろうなって(笑)。

(辻さんの姿を見て、)”東洋人でも(アカデミー賞の場に)立てるじゃん”って思ったんです。業種は違いますけど、辻さんは憧れですし、引っ張ってくださった部分もあります。」

※現代美術家でメイクアップアーティストの辻一弘氏が『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で第90回アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。日本人個人としては25年ぶりの快挙。

『レディ・プレイヤー1』を経て、より大きな目標が定まった瞬間、森崎ウィンという男は変わった。

「ドルビー・シアターに行ったとき、”これは10年かかるな”って感じたんです。この10年というのを決めた時に、じゃぁ具体的に何をやるべきかと考えるようになった。

たとえばピアニストって、指体操をやって、ちゃんとハノン(練習曲)を弾けるようになろう、みたいなものがあると思うんですけど、役者ってそういうものがない。だから、日々生きていく中で電波を張ろう、と思うようになったんですよ。芝居に関するものだったら、どんどん飛び込んでこう、と。

知り合いから小さなワークショップに誘われた時も、今までだったら、スケジュールを見てパスしていたようなものが、今では”行ってみよう”というふうに変わりました。あるワークショップが朝9時からあったんですけど、その日は朝の5時まで仕事して、3時間だけ寝てから参加したり。これだけ意識が変わったのは、それだけ自分が求めているからだと思います。」

「絶対にアカデミー賞を獲ってやる」と闘志をみなぎらせた森崎。「日本での今までの活動があったら、『レディ・プレイヤー1』の僕がいる。昨日までの僕がいたから、今日の僕がいる。全部繋がっていること。10年後の僕に繋げるために、今からの10年があるんです」と語るその熱い瞳の向こうに、オスカー像を片手にした森崎ウィンの、凛々しい姿が見える気がした。

『レディ・プレイヤー1』森崎ウィン インタビュー
©THE RIVER

映画『レディ・プレイヤー1』のブルーレイ&DVDは2018年8月22日(水)発売・レンタル開始/デジタルレンタル配信開始。2018 年7月25 日(水)にはデジタルセル版の先行配信が開始される。

映画『レディ・プレイヤー1』公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/readyplayerone/

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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