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蜘蛛の糸は◯◯のメタファー?改めて振り返るサム・ライミ版『スパイダーマン』

サム・ライミ版スパイダーマン
©ORIVERcinema

今年の夏はスパイダーマン!そんな風に気負ってる読者は少なくないのではないでしょうか。

アメリカ本国では既に公開されており、2017年8月11日にようやく日本に上陸予定の『スパイダーマン:ホームカミング』。こと日本においてスパイダーマンは最も有名なアメコミヒーローの1人。公開前から穴が開いてしまうほどの注目を浴びています。

この記事ではある種の原点回帰という意味を込めて、多くの日本人とスパイダーマンとの出会いのきっかけになった2002年のサム・ライミ版『スパイダーマン』について改めて考えてみたいと思います。

あの糸って…?

映画好きの中でよく言われているベタな解釈のひとつに「サム・ライミ版の身体から噴射される蜘蛛の糸は射精のメタファーではないか?」という説があります。知ってる人は知ってますが、初耳の方にとっては衝撃なのではないでしょうか。

  1. 少年期から青年期への過渡期にあらわれる
  2. 体に現れる変化
  3. その変化が男性的(非常にマッチョな能力)である

ことからこのような推測がされています。

とはいえ興奮して戦いながらNYの強盗やグリーン・ゴブリン相手に欲情するわけにもいきませんから、すべてのシーンにおいてピッタリこの暗喩が当て嵌まるわけではありません。筋肉隆々のマスクの男が興奮しながら戦っていたらそれはもうほぼ『変態仮面』ですね。それでも、原作や他の映画化作品は糸は手首からではなくウェブシューターから噴出されていることを踏まえると、この “体内から糸が出る”という設定は裏に何かあるのではないかと疑わずにはいられません。きたる最新作『ホームカミング』も予告編映像を見る限りトム・ホランド演じるスパイダーマンはトニー・スタークの開発したガジェットで戦っています。やはりサム・ライミ版だけの特徴と言えるでしょう。

【注意】

この記事には、2002年の映画『スパイダーマン』のネタバレが含まれています。

サム・ライミ版『スパイダーマン』のテーマ

全面的に押し出されているテーマはやはり言うまでもなく「正義」ではないでしょうか。これは外せません。”with great power comes great responsibility” (大いなる力には大いなる責任が伴う)という名台詞にすべてが集約されています。

次に注目したいのが「成長」。この記事ではここに焦点を当てたいと思います。

蜘蛛に噛まれるという偶然 ──運命といってもよいかもしれません── をきっかけに、ピーター・パーカーはスパイダーマンとしての正義感と責任を背負います。ナヨナヨした高校生が頼れる大人の男に成長していきます。

最初と最後のカットを見比べてみると違いは一目瞭然です。ピーターの登場シーンは乗り損ねたバスに並走して窓を叩くという冴えない姿から始まりました。手しか映っていません。次のカットではサイドミラーに小さく映るという何とも頼りない構図。

しかしながら七転八倒、自問自答、喧嘩上等の死闘を経て前人未到の正義を見つけたピーターにかつての弱弱しい面影は微塵も感じられません。映画の最後で彼は正面から堂々と歩きながら観客に顔を見せて “Who am I? I’m Spider-Man. ” とボイスオーバーされます。後ろから追いかけている姿と、正面から向かってくる姿。文字通り180度がらりと変わっていることが分かります。

例えば『アイアンマン』、『アントマン』、『ドクター・ストレンジ』などと比べても似ている部分は多いかもしれませんね。スーパーヒーローの能力の会得 ──外面的な変身を通して内面的な変身・成長を得るわけです。『スパイダーマン』に関してもそれは変わりません。

では何が違うのでしょうか?この問に僕はこう答えたいです。やはり「若さ」だと。アイアンマンもアントマンもドクター・ストレンジもおじ様です。もういい歳こいたおじ様です。俳優の顔ぶれを見てみても、2017年現在でロバート・ダウニー・Jr.は52歳、ポール・ラッド48歳、ベネディクト・カンバーバッジ41歳!

逆にそれが新鮮とウケてきた所もありますし、別にだからといって悪いというわけではありませんがこれは決定的です。

「オッサン」が成長しても「すごいオッサン」とか「優しいオッサン」にしかなりません。マイナーチェンジです。けれどもスパイダーマンはどうでしょうか。「ナードな少年」から「正義感溢れる青年」へと変貌します。繭から蝶になるかのような輝かしく急進的な成長です。実際は蜘蛛なんですけど。
蜘蛛の糸は精通の暗喩だ、という解釈は突飛な言葉遊びのようなアイディアのようですが、このようにピーターの成長という面から切り込むとかなりしっくりきます。

ちなみに余談ですが、バットマン、スーパーマンなどのDCのヒーローは内面の成長はあまり目立たず、最初からキャラがぶれることなく初志貫徹型といった感じですね。

暴力と性

“蜘蛛の糸=精液”説を念頭に置くとピーターが男性である、という至極当然の事実が際立ちます。

  1. 糸=性(糸の噴射が射精のメタファーという説)
  2. 糸=暴力(スパイダーマンは糸を駆使して戦っている)
  3. 糸=男性(射精の対象は一般的に女)

以上の3点から「暴力=男性の性欲」という図式が浮かび上がってきます。

ベンおじさんの「暴力をむやみに振りかざしてはいけない」という教えをこの図式に当て嵌めて反転すると「誰もを簡単に性の対象にしてはいけない」ということになります。本能のままに生きてはいけない、といった具合でしょうか。

ここに「成長」の要素を足してみましょう。ピーターはむやにみ暴力を行使しない節度のある人間へと成長しますが、同様に性に対しても節度をわきまえるようになります。

映画中盤のアマレスのシーンは正義の伴わない暴力が現れますが、その裏には「MJとドライブをしたい。そのための車を買う金が要る」という性的な動機がありました。スパイダーマンとしての能力を初披露するシーンもMJの彼氏との喧嘩でした。ですが、自身の大いなる力との正しい付き合い方を学ぶことで同時に性への考え方もいつのまにか成熟してきます。最も顕著なのはラストシーン。

MJに言い寄られたにも関わらず “I will always be your friend.”(ずっと君の友達だ)と人間関係や自身の環境を理由に彼女とは距離を置きます。あんなに必死に追いかけてきたMJが相手にも関わらずです。以前のピーターにこんな大人の振る舞いが出来たでしょうか。(逆に最初のピーターは拗らせ童貞を絵に描いたような男でしたから、テンパって結果としては同じになるかもしれませんが。)

このように、成長した結果として男性性を得ただけではなく、男性としても成長しています。

 

蜘蛛の糸は精液の隠喩だ、という説を頭に入れて見直してみると皆さんも新たな解釈に出会えるかもしれません。またこれを機に全シリーズ見返して比較するのも面白いかもしれませんね。

『スパイダーマン:ホームカミング』ではどうなる?

スパイダーマン:ホームカミング
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『スパイダーマン』は少年から青年への物語、と書きましたがピーター演じるトム・ホランドもピチピチの21歳。劇中の設定では15歳の高校生です。MCU作品ということもあり、クロスオーバーするトニー・スタークとの疑似的な親子関係にばかり注目が集まっていますが、ピーター・パーカー自身の成長にも期待できそうです。もう幾つ寝ると『ホームカミング』。楽しみに封切りを待ちましょう。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』は2017年8月11日公開。

Writer

けわい

不器用なので若さが武器になりません。西宮市在住。